アカツキファイブが世界へ 空前のバスケブームから見えるサッカー界との意外な共通点
世界ランク22位の強豪・ドイツとの熱戦も第4クオーターに突入。一時は12点差をつけられた男子日本代表(愛称=アカツキファイブ)は凄まじい猛攻を見せ、じりじりと相手を追い詰めた。ラスト2分を切ったところで、エース八村塁(ワシントン・ウィザーズ)のリバウンドから速攻につなげ、馬場雄大(アルバルク東京)がファウルをもぎ取った。このプレーで得た2本のフリースローを決め、スコアは82-81。日本はこの日初めてリードを奪うことに成功した。
勢いをさらに加速させたのが、キャプテン・篠山竜青(川崎ブレイブサンダーズ)の絶妙なプレー。彼が1対1で抜き去って値千金の得点を奪い、日本はリードを3点に広げたのだ。逆境を跳ね返すべくドイツは同点の3ポイントを狙ってきたが、日本は一丸となって死守。ラストの時間帯で馬場のターンオーバーから2ポイントを与えたものの、終了間際に渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)がフリースロー2本を確実に決めた。次の瞬間、試合終了のブザーが鳴る。世界ランク48位の日本は格上ドイツから86-83で大金星を挙げ、選手たちの喜びが爆発。会場のさいたまスーパーアリーナも歓喜の渦に包まれた。
Jリーグ開幕当時を彷彿とさせる興奮と熱気
8月12日のニュージーランド戦(千葉)を皮切りに、日本はアルゼンチン、ドイツ、チュニジアと5試合のテストマッチを行ったが、連日会場には大勢のファンが詰めかけた。上記の24日のドイツ戦は最高観客動員数の1万8355人を記録。これはJリーグの常勝軍団・鹿島アントラーズの今季J1ホーム平均観客数の1万9261人に迫る数字だ。4~5万人規模のスタジアムを使っているサッカーとは違い、屋内競技のバスケットの場合は1万人を超えるだけでも大変な集客ということになる。この日のさいたまスーパーアリーナはアリーナ全体が立錐の余地もないほど観客でギッシリと埋まり、熱気と興奮は最高潮に達した。このムードは93年Jリーグ開幕当時を彷彿させるものがあった。
遡ること26年前。日本に初めて誕生したプロサッカーリーグは人々を熱狂させた。けん引役となったのが、スター選手たちだ。ブラジル帰りのカズ(三浦知良=横浜FC)や帰化選手のラモス瑠偉(ビーチサッカー日本代表監督)らが華々しく活躍する姿に日本中が酔いしれた。日本代表も同時期に急成長。日本初の外国人指揮官だったハンス・オフト監督率いるチームが破竹の勢いを見せ、94年アメリカワールドカップまであと一歩というところまで迫った。世界には手が届かなかったものの、その悔しさが多くのファンの脳裏に刻まれた。その後、Jリーグは2~3年目に一時、下火になったものの、川口能活(U-22日本代表GKコーチ)や中田英寿といった新世代のタレントが頭角を現し、98年フランスワールドカップ出場権獲得の原動力となる。そのフランス大会の後、中田が当時世界最高峰リーグだったイタリア・セリエAに参戦。彼に続くタレントが現れ、日本はワールドカップ常連国となり、サッカー文化が定着するに至ったのだ。
サッカー界とバスケット界の共通点
そんな90年代のサッカー界と今のバスケット界は共通点が少なくない。バスケット界は2016年秋にBリーグが発足し、篠山や馬場、富樫勇樹(千葉ジェッツ)らスターが躍動。富樫は日本バスケ界初の1億円プレーヤーとなった。しかもリーグ発足をお膳立てしたのは、J初代チェアマンの川淵三郎氏。2つのリーグの流れが似てくるのは当然と言えるだろう。
バスケ日本代表の方もかつてのサッカー代表同様、史上初の外国人指揮官であるラマスHCを招聘。2019年ワールドカップ(中国)出場権を目指したが、序盤4連敗で早くも崖っぷちに立たされた。そこで救世主になったのが、アメリカNCAA1部リーグ強豪のゴンザガ大学で活躍していた八村だ。類まれなセンスを持つ彼がチームを劇的に変え、日本は息を吹き返す。さらに力強い援軍になったのが、Bリーグ最強外国人選手と言われたニック・ファジーガス。彼の帰化が認められ、予選後半戦の日本は別のチームのように強くタフな集団と化し、最終予選を突破。悲願の世界切符を勝ち取ったのだ。
このドラマティックな戦いぶりは、サッカー界が天国と地獄を味わった97年フランスワールドカップアジア最終予選に似ている。八村が中田、ファジーガスが呂比須ワグナーだと思えばイメージしやすいかもしれない。前半戦の苦境から不死鳥のごとく復活したチームの戦いぶりも同じだ。こういったドラマに日本のファンは心を揺さぶられる。アカツキファイブの現在位置は、サッカー日本代表がフランス大会に挑む直前のような状態と言ってもいいのではないだろうか。
アカツキファイブがサッカー日本代表から学ぶべきこと
その後、サッカー日本代表がどうなったかは多くの人々がよく知っている。98年フランス大会は3戦全敗の屈辱を味わったものの、2002年日韓大会で初めて1次リーグを突破。その後、2006年ドイツ、2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシアとワールドカップに連続参戦し、6回中3回の16強入りを果たした。その20年間で日本サッカーの地位は確実に上がり、今では欧州主要リーグの1・2部に約50人の選手を送り込むまでになった。バスケット界が同じような軌跡を辿るためにも、今回の中国大会からコンスタントに世界大会に参戦し、八村や渡邉雄太のようなタレントを続々と育てていくことが必要不可欠だと言っていい。
さしあたって、上海で9月1日のトルコ戦から開幕するワールドカップの戦いぶりには期待が高まるところ。同組のトルコは世界ランク17位、 チェコは24位、アメリカが1位と格上の相手ばかりだが、バスケットの場合はグループ3~4位も17~32位決定戦があり、すぐに敗退とはならないが、やはり決勝トーナメントは目指したい。ドイツ戦のような戦いを見せられれば、その可能性はゼロではない。今後のバスケット界の発展のためにも、八村や渡辺、篠山らの頑張りが強く求められる。とりわけ、206センチという大柄な体躯にもかかわらず動きの軽さを備え、どんな距離からもシュートを決めてしまう非凡な得点能力を誇る八村の働きは重要だ。日本最大の得点源が異彩を放つような大会になれば面白くなる。
この週末はアカツキファイブの戦いから目が離せない。