Yahoo!ニュース

2024年J1での再ブレイクは? 海外出戻り組5人を査定する

元川悦子スポーツジャーナリスト
14年ぶりにJリーグの舞台に戻り、異彩を放つ川島永嗣(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

開幕から大混戦のJ1。海外から戻ってきた選手たちの動向は?

 2月23日に開幕した2024年J1。3月1~3日の第2節では、昨季王者のヴィッセル神戸が柏レイソルに苦杯。同2位の横浜F・マリノス、天皇杯王者の川崎フロンターレも揃って黒星を喫している。選手層で優位に立っているはずの浦和レッズ、名古屋グランパスなども下位に低迷。まだ序盤とはいえ、2戦目で連勝チームなしという大混戦状態になっているのだ。

 こうした中、海外から戻ってきた選手たちが奮闘している。とりわけ、2010年以来、14年ぶりにJリーグに復帰した川島永嗣(磐田)の存在感が際立っている。

 1日の古巣・川崎戦ではチームとして4失点したものの、川島が要所要所で的確なコーチングを見せ、守備陣を鼓舞。チーム全体を奮い立たせて、最後まで泥臭く勝ち切る姿勢を促した。しかも彼でなければ止められないセービングも何度か披露。世界基準の一端を示したと言っていい。

 そんな川島を筆頭に5人をピックアップ。海外出戻り組を査定してみた。

古巣・川崎相手に今季初勝利。磐田に世界基準をもたらす男

●川島永嗣(磐田)…★★★

川島永嗣には日本のGKレベルを大きく引き上げてほしい
川島永嗣には日本のGKレベルを大きく引き上げてほしい写真:森田直樹/アフロスポーツ

「日本に戻ってきたとは思っていない。Jリーグに挑戦しに来た」とジュビロ磐田加入時に力を込めた川島。リールセ、スタンダール・リエージュ、ダンディー・ユナイテッド、メス、ストラスブールの欧州5クラブを渡り歩いた男の経験値は誰もが認めるところだ。

 とはいえ、2018年夏から5シーズン在籍したストラスブールでは2022年1月9日のメス戦で先発したのが最後。同年6月10日の日本代表対ガーナ戦ではスタメン出場したが、公式戦からは2年以上、遠ざかっており、本人もどれだけできるか未知数な部分もあっただろう。

 しかしながら、2月24日の開幕・神戸戦で好セーブを連発し、対戦相手の酒井高徳に「永嗣さんじゃなかったら入ってたシュートがあった。そのへんはさすがだなと思った」と言わしめる存在感を見せつけた。

 続く川崎戦でも4失点というのはいただけないが、前半23分の山本悠樹のシュートに対し、正面に弾かず、味方のいるところに飛ばすという高度な技術を披露。終盤の凄まじい粘り含め、彼がいなければ、失点数がもっと増えていたはず。勝ち切れたかどうかも分からなかった。

「自分の中ではまだまだ。試合をやりながら感覚を研ぎ澄まさなきゃいけないことはある」と本人は決して満足していないが、真のプロフェッショナリズムを目の当たりにする磐田の選手たちにとっては間違いなく大きな見本となっている。日本のGKレベルを引き上げるけん引役にもなってほしい。

半年間のベルギー挑戦を決してムダにはしない!

●谷晃生(町田)…★★★

日本代表復帰を目指している23歳の守護神・谷晃生
日本代表復帰を目指している23歳の守護神・谷晃生写真:西村尚己/アフロスポーツ

 2023年夏にベルギー2部のFCVデンデルEHへ赴きながらわずか1試合出場にとどまった谷晃生。

「周囲の選手たちは言葉はもちろん、表現の仕方やミスに対しての向き合い方が違ったし、日本人とは異なるメンタリティを持っていたんで、どうフィットしていくのかってところにはすごく苦労した部分がありました。

 守備に関しても、試合中に守りやすいやり方をいかにして作るか、自分がどう考えているか、ビルドアップ時にどういうパスを出してほしいか、ポジションを取ってほしいかといったディテールを伝えるところが本当に難しかった」と本人は高い壁にぶつかった初の海外挑戦を振り返っていた。

 それを糧に新天地・町田ゼルビアで開幕から連続で先発。黒田剛監督が求める堅守を実践しようと奮闘中だ。ここまで2戦で失点したのは、先輩・宇佐美貴史に直接FK弾を決められた2月24日の開幕・ガンバ大阪戦の1失点のみ。反応の速さや得意のセービングも光っており、上々のスタートと言っていい。

 23歳の守護神の目指すところは代表復帰。このまま好調を維持すれば、その道も開けるかもしれない。

予期せぬ序盤を強いられる浦和。快足ウイングが流れを変えられるか?

●松尾佑介(浦和)…★★

ヘグモ新監督の下で左右のウイングで起用されている松尾佑介
ヘグモ新監督の下で左右のウイングで起用されている松尾佑介写真:森田直樹/アフロスポーツ

 2023年2月にベルギー1部・ウェステルローに赴き、昨季14試合、今季15試合に出場。ゴールこそ奪えなかったが、欧州でのキャリアを続行させるかと思われた松尾佑介。だが、契約上の問題もあり、1年で日本に戻ってくることになった。

「本職の左で使われることがあんまりなくて、右とかでやってたんで、不慣れなポジションで苦労することも多かった。だけど、僕のサッカー人生はつねに難しい時期しかない。満足することはないし、どこに行っても焦燥感や何かが足りない気持ちがある。それをベルギーで再確認できたのは大きかった」と本人も強調。ペア・マティアス・ヘグモ新監督の下での再ブレイクを誓っていた。

 だが、浦和は開幕2戦で勝ち点1。チームの得点もPK1本のみだ。2試合先発の松尾自身も「チームがどうこうというより、シンプルに僕自身が今は求められるレベルにない。コンディションもそうですし、アタックしていくんだっていう気概をもっと見せないといけない」と自戒を込めて語っていた。

 スピードと打開力に定評のある快足ウイングはもっと怖さを出せるはず。ここからの快進撃に期待したい。

今季から古巣・横浜に復帰。30代でもう一花咲かせられるか?

●天野純(横浜)…★

高度な技術と創造性を持つ天野純。彼のFKからのゴールを早く見たい
高度な技術と創造性を持つ天野純。彼のFKからのゴールを早く見たい写真:松尾/アフロスポーツ

 2021年以来、2シーズンぶりに古巣・横浜に復帰した天野純。韓国に赴いた2022年は蔚山現代のKリーグ優勝に貢献。自身も30試合出場9ゴールと目覚ましい結果を残しており、大いに自信を深めたという。

「その前に行ったベルギーのロケレンでは環境やチームへのスタイルの適応に苦しみ、自分のプレーを出せない時期が半年以上続いた。でも蔚山では池田誠剛フィジカルコーチもいて、言葉の通じるスタッフにサポートしてもらえたので、早く順応できた」と当時の彼は手ごたえを口にしていた。

 翌2023年には全北現代へレンタル移籍し、異なるサッカースタイルや環境に挑戦。一段とタフになった状態で横浜に戻ってきた。

 ただ、今季ここまでは全てベンチスタート。ナム・テヒや山根陸と交代出場し、流れを変える役割を託されるケースが多い。

 今のところは持ち味を出し切れているとは言い切れないが、韓国時代の本人は「かつての中村俊輔(横浜FCコーチ)さんや中村憲剛(JFAロールモデルコーチ)さんのように30代で一花咲かせたい」と意欲を燃やしていただけに、ここから大いに意地を見せてほしい。

3年半のドイツでの苦い経験を新天地・FC東京でどう生かす?

●遠藤渓太(FC東京)…★

広島戦で今季初先発を飾った遠藤渓太。存在感を高めてほしい
広島戦で今季初先発を飾った遠藤渓太。存在感を高めてほしい写真:松尾/アフロスポーツ

 2020年夏に横浜からドイツ1部のウニオン・ベルリンへ赴き、2022年夏には同2部のブラウンシュヴァイクへレンタル移籍した遠藤渓太。しかしながら、両クラブでコンスタントに出番を得られず、もがいた末にJリーグ復帰を決断。3年半ぶりに日本に戻り、FC東京で再スタートを切ったところだ。

「ドイツでの自分? 0点じゃないですか(苦笑)。結果を出せなかったですし、試合にも絡めなかったから。少なくともチャンスはウニオンでもブラウンシュヴァイクでもあったと思うけど、それを生かしきれず、監督の信頼を得られなかった」と本人も反省の弁を口にしていた。

 特に難しかったのがポジション。もともとウインガーとして活躍していた彼は、ドイツではインサイドハーフと位置づけられた。

「求められたのは守備の強度。うまさとか、攻撃の部分での違いを見せるというよりも、守備でボールを奪い切るっていうところでした。圧倒的にデカい選手と真正面から対峙しても自分が勝てるとは思わないんで、体の力の入れどころとかを意識しながら、練習でアピールしようとしてましたね」と彼はもがいた3年半を述懐する。

 その経験を糧に今季は本職の左ウイングで勝負をかけている。まだ3月2日のサンフレッチェ広島戦に出場しただけだが、本当の勝負はここからだ。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

元川悦子の最近の記事