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新型コロナによる新需要、世界半導体は4月も6.1%成長

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

世界の半導体産業は4月もプラス成長で、前年同月比6.1%増の344億ドルとなった。新型コロナウイルスの影響を大きく受けつつも、その対策に半導体チップが使われるという新需要が生まれているからだ。「新型コロナ需要で半導体?」と思われるかもしれない。その新需要とは何か。

 最新のWSTS(世界半導体市場統計)によると、世界の半導体市場は2020年4月の半導体販売額が344億ドル(3兆6800億円)になったと発表した。これは前年同期比が6.1%増だが、先月比では1.2%減とほぼ横ばい。ただし4月は通年、3月よりも低いため、これは季節要因とみなしてよい。

 新型コロナで最大の影響を受ける半導体は、消費者向けの製品、例えばスマートフォンや自動車などの分野は、マイナスを示している。世界のGDPを見ても今年はマイナス成長という見方が強い。消費者の活動が抑えられるからだ。

 ところが、新型コロナに対する理解が深まり対策が徐々に見えてくるようになるにつれ、テクノロジーの視点から解決しなければならない問題が見えてきた。今、見えている問題は、PCR検査に時間がかかる、人工呼吸器が足りない、医師への感染リスクが依然として高い、などがある。さらに働く人たちはできるだけテレワークが求められる。見えない敵はどこにいるかわからないからだ。潜在保有者(陰性、未検査を含む全ての人)から遠ざかるためのテクノロジーも活用する。

 これらの問題が全て半導体エレクトロニクスの需要につながる。半導体回路を使った新しい需要は、大きく分けて4つある。一つは医療従事者への支援ツールだ。2番目は感染ルート見つけるテクノロジー、3番目はできるだけ触れずにすむテクノロジー、そして4番目がテレワークから生じる需要だ。

図1 シリコンウェーハ上に作製したMEMSマイクロ流路 出典:miDiagnostics
図1 シリコンウェーハ上に作製したMEMSマイクロ流路 出典:miDiagnostics

 医療従事者支援では、まずPCR検査のスピードを上げるためのDNA増幅回路に半導体MEMS技術でマイクロ流路を使って小型化することで早期の増幅結果が得られ、時間を短縮できる。ベルギーの半導体研究所であるIMECからスピンオフしたmiDiagnostics(マイダイアノスティックス)社はすでにMEMSマイクロ流路を開発しており、PRC検査の短縮を目指す。

 人工呼吸器の不足に対して、人工呼吸器メーカー大手のアイルランドのMedtronic(メドトロニック)社はその仕様を公開した。日本のルネサスエレクトロニクスは早速、その電子回路を誰でも作れるようにするため、リファレンスデザインボードを作製、提供を始めた。ただ、人工呼吸器は1台300万円と高価であるため、米Georgia Tech(ジョージア工科大学)は、汎用のマイコン組み込みボード「ラズベリーパイ」を使った人工呼吸器を試作し、わずか300ドル(3万円強)で提供できるとした。

 医療従事者が患者に全く触れずに自宅療養している患者の呼吸波形や、心拍数波形を医師のスマホで観察できるシステムをMIT(マサチューセッツ工科大学)のCSAIL(コンピュータ科学&AI研究所)が開発した(参考資料1)。これはWi-Fiルータ程度の大きさのデバイスで、100GHz程度のミリ波の高周波電波を発し、患者が呼吸する胸の高低をその反射波の位相から測定し時間変化を見るデバイスだ。実際に使ってみたHarvard Medical Schoolの医師は、患者に触れずに遠隔地からでも患者の呼吸データ、心拍データを観察できるため、このデバイスを高く評価している。

 人やデバイスのボタンに触れずに入力するようなタッチレスHMI(ヒューマン・マシンインターフェイス)や、AIを使った音声入力はますます需要が増えてくる。ジェスチャー入力でも最近では、高周波の電磁波を使ったToF(Time of Flight)法による技術も試されている。

 感染経路を探るためBluetooth利用によって、位置精度がわずか数cmと極めて高い位置検出技術が標準仕様になりつつある。GPSやGNSSのような衛星からの電波を受けない地下街や高層ビル内などの人の経路をスマートフォンに搭載されているBluetoothで検出、誰に近づいたかを知ることができる。QRコードで読み込ませるとか、自分で入力するとかなどの面倒な操作は要らない。

 テレワークで多くの人が自宅などで仕事したり、会社のチームと一緒にZoomやMS Teams、ON24、WebExなどを使ったビデオ会議で意見交換したりすることが普通になりつつある。先日初めて、Zoom飲み会なるものに参加した。昔からの知り合いに会えたような気分で、実際に会う訳ではないが、それなりに楽しく会話できた。テレワークによる通信量は30~40%増えたようで、欧州や米国では基地局増設の話をよく聞く。

 基地局増設も半導体にとっては市場の拡大となる。モバイルと直接やり取りするエッジ基地局でもCPUやメモリなどの汎用半導体を使うし、新たなパソコンとWi-fiルータの需要も増えるため、やはりCPUやメモリ、モデムなどは増える。

 結局、消費者を中心とする経済は冷えるが、半導体やインフラ系は伸びることになる。経済再開後は、これまでとは異なる行動が求められる。マスクやフェイスシールドをする。3密を避ける。手洗いを習慣にする。

ただし、見えない敵を必要以上に怖がるだけでは経済活動が進まない。ウイルスはDNAあるいはRNAが蛋白質の殻をまとっただけの無生物であり、シリコン結晶のように結晶化することが50年も前からわかっている。しかし、いったん細胞の中に入ると細胞分裂をし始め、まるで生物のように行動する。だから生物の細胞内に入らないように手洗いで洗い流す。マスクやフェイスシールドなど潜在保有者からの飛沫を受けないようにする。ただし、抗体検査やPCR検査数が少ない以上データが少ないため、人は全て潜在ウイルス保有者だと考えて、それを前提としてこのような対策を習慣づけながら生活や経済活動に切り替えていかなければならない。昔と同じことをしては再び感染が拡大する恐れがある。

参考資料

1. 新型コロナ医師団に福音、患者の容態を医師がリモートで観察可能に

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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