先輩芸人にもNO忖度! 最強コメンテーター芸人・カズレーザーの魅力
5年前、金髪に全身真っ赤の服装という異様ないでたちでテレビの世界に颯爽と現れたメイプル超合金のカズレーザー。その見た目からは想像もつかない知性と教養を備え、コメンテーターとしても忖度なしの直言をすることで知られている。
5月3日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS系)ではナインティナインの岡村隆史の失言騒動が取り上げられていた。岡村のラジオ番組に相方の矢部浩之が飛び入りで参加して岡村に厳しく説教をしたことについて、カズレーザーはこう述べていた。
「あの発言に不快感なり思うことがある方は署名活動をするべきだと思うし、もっとそれは集めた方がいいと思います。そういう活動は絶対発信するべきなんで。(中略)その署名が来たっていうのをどう捉えるかっていうのは岡村さん次第だと思います。
ただ、矢部さんがすごいいろいろメッセージされたじゃないですか。すごいすばらしいことだと思うんですけど、その外部に対して何かメッセージがあって、それがいろんな問題に発展してしまったっていう話を、コンビ間同士っていうちょっと狭い範囲に落とし込んだのは僕はあんまり良くなかったんじゃないかとは思いますね。
ちゃんと周りに対して謝罪なり何なりもっとアピールすべきなのに、最終的な落としどころがコンビの話になったっていうのはどうかなとは思いますね。
そもそも不快感を持った人はもうラジオのリスナーではないので、あのラジオの中でどう面白く転がろうがあんまりはっきりはしないと思う」
先輩芸人であるナインティナインに対しても、はっきりと自分の考えを述べた。この発言が世間では高く評価されていた。
カズレーザーは規格外の芸人である。同志社大学卒業のインテリで、テレビではいつも笑顔を絶やさないが、すべてを悟りきったようなぶっ飛んだ発言でしばしば人々を驚かせる。
大衆的なメディアであるテレビに出るタレントの多くは、多かれ少なかれ一般人の感覚に合わせた思考をするものだ。ところが、カズレーザーだけは、まるで高僧のように悟りきった態度を見せている。「周りに流されずマイペースで生きる」というのは言葉にすると簡単だが、それを実際に貫ける人はそれほど多くはない。
彼が注目されたきっかけは、メイプル超合金として2015年に『M-1グランプリ』で決勝に進んだことだ。100キロを超える巨体を誇る安藤なつとのコンビは、その見た目だけで途方もないインパクトがあった。しかも、彼らはただの見かけ倒しではなかった。
一番手で彼らが披露した漫才は、カズレーザーが飄々とした態度でひたすら脈絡のないボケを放ち続けるという漫才の常識からかけ離れた代物だった。カズレーザーは「食べ放題で元を取るにはもうレジの金抜くしかないね」と唐突に言ったり、漫才の途中で「俺コンビニ行くけど何か要る?」と言って退場しようとしたり、自由に振る舞う。
安藤なつが怒りながらツッコミを入れると、カズレーザーが彼女をなだめながら「まあまあまあ、話の通じる相手じゃないんだから」と他人事のように言う。
文脈などお構いなしにボケを連発する姿は強烈な印象を与えた。ほかの出場者たちが披露した正統派の漫才に比べると審査員の点数は低かったものの、視聴者には概ね好評だった。特に刺激的な笑いを求める若い世代からの評価が高かった。
これをきっかけにして、メイプル超合金にはテレビの仕事が次々に舞い込んだ。初めのうちはネタ番組などお笑い系の番組への出演が目立っていた。
そんな中で、カズレーザーがお笑いファン以外の層に認知されるきっかけとなったのが、クイズ番組への出演である。人気のクイズ番組『Qさま!!』(テレビ朝日系)の「ヤング学力王No.1決定戦」という企画で、初出場で優勝を成し遂げた。ここでその才能を知らしめたカズレーザーは、一気にクイズ芸人として名を馳せることになった。
クイズ番組で出題される問題は学歴が高ければ解けるというものではない。カズレーザーはクイズを解くために必要な頭の回転の速さと豊富な知識を備えていた。見た目の奇抜さと相まって、カズレーザーは「天才的な人物」というイメージを持たれるようになった。
さらに、彼はその特異な個性をクイズ以外の分野でも発揮し始めた。テレビ朝日の深夜番組『お願い!ランキング』の中で「カズレーザークリニック」という企画が行われた。そこではカズレーザーが高学歴の女性たちの悩みに答えていた。
東大生の女性が「プライドが高すぎて将来周りに合わせられないのではないかと不安だ」という悩みを告げたところ、カズレーザーは「本当にプライドが高ければこんなカメラの前で丁寧に悩みを相談したりもしない」とバッサリ。将来は自分と同じようなプライドの高いエリートに囲まれて仕事にすることになるから、プライドの高さがそんなに目立つことはないだろうと鋭い分析をしてみせた。
また、「女子力の磨き方がわからない」「女子力がなくて困っている」という悩みに対しては「女子力なんてウソの概念」と切り捨てた。料理ができるとか気が利くというのはそれぞれ個別の能力に過ぎず、「女子力」などというものは存在しない。「そんなあやふやなものにとらわれずに個性を磨くのが大事」と主張した。
このように、どんな悩みに対しても俯瞰したような立場から冷静に鋭い意見を言えるのがカズレーザーの強みである。これを機にカズレーザーはますます仕事を増やしていった。2017年には『絶対!カズレーザー』(テレビ朝日系)という冠番組も始まった。
カズレーザーは芸人になる前からぶれていない。学生時代にはすでに金髪で赤い服装を貫いて異彩を放っていた。大学では喜劇研究会というお笑いサークルに所属して、そこに入り浸っていた。
お金のために働くのが苦手だったため、バイトはほとんどしていなかった。手持ちのお金がどれだけ減っても「ないならないでいい」と割り切っていた。自宅の家賃が払えずに住む場所を失い、大学の部室でこっそり寝泊まりしていたこともあった。そんな生活にも全く不満はなかったという。
大学生活も終わりに差しかかり、周囲の学生たちは就職活動に乗り出した。だが、お金のために働くことに意味を見いだせなかったカズレーザーは、ほとんど就職活動もしなかった。ここで初めて自分の将来について真剣に考えて、「お笑いが好きだから芸人になろう」という考えが頭に浮かんだ。
大学卒業後、東京でサンミュージックの養成所に入った。そこで発声練習の授業を受けたりネタ見せをしたりして、芸人への一歩を踏み出した。
売れない若手芸人と言うと、生活費を稼ぐためにバイトに明け暮れたり、ライブでウケなくて悔しい思いをしたりする下積み時代の苦労が語られることが多い。
ところが、カズレーザーはそのような苦労を感じたことはなかった。お笑いをやること自体が楽しかったので、お金がなくても平気だったのだ。また、ピン芸人として活動を始めた彼は、最初のうちは全くウケなかった。しかし、それすらも苦ではなかったという。「実力がないのだからスベるのは仕方がない」と、その結果を淡々と受け入れていたのだ。
今から約8~9年前、私はこの時期のカズレーザーをライブで見た記憶がある。この頃から今と変わらず金髪で真っ赤な衣装だった。1人で舞台に上がったカズレーザーは、独り言のようにボソボソと意味不明なボケを放ち、ニヤニヤと笑っていた。
この時点での彼は、芸人未満の「得体の知れない怪物」という雰囲気を漂わせていた。彼がネタを演じている間、客席はシーンと静まり返っていた。
何年もそんな状態が続いていたところで、本人の話によると、事務所のスタッフが見るに見かねて声をかけてきたという。
「このままスベり続けて死ぬのか、コンビを組むのか、どちらか選べ」
そう言われたカズレーザーは「死ぬのは嫌だな」と思い、コンビを組むことを決めた。このときちょうど安藤なつが別の女性芸人とのコンビを解散したばかりだった。彼女はお笑いの世界から身を引き、経験のあった介護職に就こうとしていた。
だが、カズレーザーはそんな安藤に「コンビを組もう」と声をかけた。安藤は全く乗り気ではなかったため、最初は断っていた。
ところが、彼女がどんなに断っても、カズレーザーはヘラヘラした態度でそれを全く受け入れようとしなかった。そして、何度も何度もしつこく誘ってきた。ついに安藤が根負けして誘いを受け入れた。こうして2012年にメイプル超合金というコンビが誕生した。
コンビで漫才を披露しても、最初のうちは全くウケなかった。いろいろなスタイルを模索するうちに、カズレーザーがボケを放ち、安藤がツッコミを入れるという現在のスタイルに落ち着いた。この形のときに観客の反応が最も良かったからだ。
ボケとツッコミの役割を固定したことで、カズレーザーが自由に振る舞っても安藤がそれを制御できるようになった。カズレーザーが放つ脈絡のないボケの連発は、ピン芸で伝えるには分かりづらいところがあったのかもしれない。
メイプル超合金はライブでは常に爆笑をさらうようになっていた。そして『M-1グランプリ』で決勝に進んでから、彼らの快進撃が始まった。
どんなときにも冷静に淡々とした口調で正論を言って微笑むカズレーザーは、テレビに出ている数多くのタレントの中でも突出した存在である。その言動からは人間臭い感情の起伏がほとんど感じられない。他人に嫉妬したり、自分がどう見られるかを気にしたりすることなく、好きなことだけをやってのびのびと生きている。
日本人の中には、他人にどう見られるかを常に気にしているような人が多い。誰もが世間体を過剰に意識してしまうそんなお国柄だからこそ、マイペースを貫いている彼の生き方は魅力的に映る。そんな彼の知性と冷静さは、新型コロナウイルス感染症にまつわる不安や恐怖が渦巻いている今こそ多くの人に求められているものなのではないか。