2019年の発売以来約5年間、ほぼ内容を変えていないロングセラーのアフタヌーンティーがあります。新メニューに変えると、ファンからお叱りを受けるのだとか。
新しいものは好きだけど、いいものはいつまでも残したい。“美食の街” 銀座で愛される和のアフタヌーンティーを紹介します。

≪愛あるクレームが支える “銀座の味”≫

「和のアフタヌーンティー」をいただけるのは、和食レストラン「銀座むらき」。銀座６丁目にあるコートヤード・マリオット 銀座東武ホテルの地下１階にあるお店です。
スイーツの美味しさはもちろん、職人が手がける懐石料理の一部メニューもセイボリーとして登場するなど、食通にも喜ばれるアフタヌーンティーです。

和食の命 “一番出汁”。お吸い物や煮物など、様々な料理に使われますが、一般には口にすることのない一番出汁を味わえる、貴重かつ感動の機会です。
そんな「むらきの一番出汁」は、かつお節と血合いを取ったキハダマグロの削り節に北海道産の昆布を合わせ、秘伝のブレンドで作られます。まずはいい香りにうっとり。優しい味わいと奥深い風味を楽しむことができました。

以前むらきでは、季節に合わせてアフタヌーンティーの一部メニューを変えたところ、お客さんから「前のままでいい」、「この前の味が食べたかった」という声がありました。もちろん味もバージョンアップしましたが、「あの味を楽しみに来たのに」という愛あるクレームが寄せられたのだとか。
銀座の伝統は、こんなお客さんたちが創り上げているんですね。

≪和食の前菜を思わせるセイボリー≫

風呂敷に包まれて運ばれるアフタヌーンティーは、お重を開けるまで何が入っているのかわからないワクワク感も楽しみのひとつ。
１段目は八寸を思わせるセイボリー、２段目にお食事が入り、３段目がスイーツ（デザート）といった具合に、和食のコース仕立てになっているのも、日本料理のお店らしさを感じます。

セイボリーは魚介のマリネと奈良漬のクリームチーズに加え、月替わりの３品として、茄子田楽、日向夏の甘露煮、銀座「萬年堂」の羊羹が並びます。
おろし金で皮をすった日向夏は、蜜で炊いた手の込んだ品。柑橘の酸味が爽やかな余韻を残します。

ペルー発祥の魚介のマリネ “セビーチェ” は、お店が普段刺身に使うほどの上質なネタに、タマネギやトマトをくわえ、塩とオリーブオイル、レモンなどで味付け。タマネギの風味や塩味の味つけがよく、スイーツの合間の箸休めにピッタリです。

懐石料理の前菜を思わせる「茄子の田楽」は、金箔が飾られた華やかな一品。口の中でとろける茄子が絶品です。
創業400年を超える銀座7丁目の老舗和菓子店「萬年堂」の羊羹も並びます。

≪お食事としても楽しめる≫

「ちらし寿司」はアナゴや海老、蟹のほか、錦糸卵や海苔などが敷かれ、味わい深い酢飯もボリューム十分。ランチの代わりにもなりますね。

衣に使ったコーンフレークは歯応えのいいサクサク感。甘味があってモチモチのゴマ豆腐が入っています。

≪銀座らしいスイーツを召し上がれ≫

スイーツが並ぶ３段目は、銀座で採れた蜂蜜を使ったフワフワに柔らかいロールケーキと季節のプリン、和菓子とが並びます。

練り切りをお取り寄せしているのは、元和3年（1617年）に京都で創業した「萬年堂」。老舗の味を楽しめるのもお得な気分です。

栗を使った季節のプリンは、甘さ控えめで栗の風味が口いっぱいに広がりました。

アフタヌーンティーでは脇役になりがちなスコーンですが、ここでは主役級の人気です。驚きの柔らかさは、焼きたてで運ばれるから。お代わりが1回できるので、その都度焼たてが運ばれます。
定番の「クロテッドクリーム」にくわえ、「梅ジャム」や自家製の「つぶあん」が添えられるのは日本料理店ならではです。

スコーンは、バターよりあっさりしたクロテッドクリームを使い、餡バター風にトッピング。つぶあんは北海道産の大納言を使ったこだわりの自家製です。梅ジャムの酸味もアクセントです。

≪ロングセラーは銀座だから≫

アフタヌーンティーと言えば、早ければ１カ月、通常でも季節に合わせて３カ月ほどでメニューが変わるのが一般的ですが、５年にわたって内容をあえて変えずに続ける珍しい存在です。新しいものが好きな銀座界隈の人々。でも、いいものは変えないのも銀座流。
甘さも抑えめで、和食のセイボリーも味がよく、男性でも十分楽しめます。特に、旅行のライターになって全国各地のホテルや旅館で料理を取材していますが、一番出汁を味わったのは初体験。これは感動的でした。