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夏の甲子園「朝夕二部制」は定着するか? 成果もあったが課題は山積! 4試合で導入すると終了時刻は?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今夏の甲子園では「朝夕二部制」が3日間、実施された。本格導入はあるか(筆者撮影)

 関西では9月も中旬だというのに連日、35度を超える猛暑が続いている。実感としては「酷暑」が正しい。近年の夏の甲子園は、その酷暑との戦いでもある。さまざまな対策が講じられてきたが、今夏の話題は「朝夕二部制」の試験的導入だった。初日から3日間、暑い時間帯に試合を行わず、最終試合をナイター開催するというものだった。開会式のあった初日は、最終試合の終了時刻が午後9時36分だったが、従来の4試合での本格導入となると、同じような状況が頻出すると考えられる。

4試合なら球場を離れるのは10時以降?

 初日は開会式と第1試合を終えたあと、午後4時から第2試合を行い、第3試合は、当初の6時半設定から22分遅れで始まった。さらに試合が伯仲し、試合時間2時間44分の延長11回タイブレーク決着だったことから、終了時刻はプロ野球よりも遅い。そのあと取材やストレッチ、投手の肩ひじ検査などもあり、球場を出るのが11時前になった。3試合+開会式は、従来の夏の、1日4試合に近い。「夕方の部」は4時開始が必須で、最終試合が6時半に始まっても9時前後の終了。取材を受けて球場を離れるのは、少なく見積もっても10時を過ぎる。

応援団の多くは高校生

 「選手ファースト」ありきの酷暑対策なのはわかるが、ここまで規模の大きな大会になると、不随するものも大がかりになる。応援団の規模は何千人単位で、ブラスバンドをはじめ、その多くが選手と同じ高校生だ。最終試合になったばかりに、深夜帰宅で保護者に負担がかかったり、遠方の出場校は宿泊代がかさんだりする。これは特定の試合に関してだが、さらに大きな問題は、一般の観客への対応である。

「夕方の部」を見ずして帰宅したファンが多数?

 高校野球は複数試合を観戦できるのが大きな魅力で、それが文化として定着してきた。一日を通して見るファンの数は、読者の皆さんが考えているより多い。これが二部制になると一旦、球場を離れねばならず、新たなチケットも必要になる。今年に関しては、朝夕2枚のチケット代を、通しで見るのとほぼ同額にしたようだが、本来なら残って観戦しようとする人が、待ちきれずに断念して帰宅したことも考えられる。ちなみに初日は、午前の開会式と第1試合が2万9千、夕方の2試合がいずれも1万で、夕方の部は3日間とも入りが芳しくなかった。純粋に高校野球を楽しもうとしている人を、軽んじてはいけない。こうしたファンが、高校野球人気を支えてきたことは、まぎれもない事実である。

本格導入に立ちはだかる「夕方」開始時刻

 そして来年以降の本格導入についてはどうか。つまり、4試合で導入できるか、ということである。ここで問題になるのは、先述の最終試合の終了時刻だけではない。想定としては、1、2試合を午後1時半までに終わらせ、4時から残る2試合を行う。マニュアル上は、第4試合開始が6時半となり、順調に進行すれば8時半ごろの終了を見込める。しかし今大会の初日のような、想定を1時間以上もオーバーする可能性だってある。それよりも問題は、2時間半と設定される前後半の空白時間だ。後半開始まで2時間半のインターバルを確保させるためには、1時半までに第2試合を終わらせる必要がある。

設定時間内に第2試合が終わらなければ「継続試合」?

 4月に二部制導入の発表があった際、もし設定時間までに終わらなければ、継続試合とする考えが表明された。選手の負担を考えれば、これは本末転倒ではないか。このインターバル時間は、観客の円滑、安全な入れ替えのためとされていて、3万を超える観客の安全を考えれば長すぎるとは言えない。それよりも確実に継続試合を避ける方策を探ったほうがいい。仮にオーバーしたら、第3試合の開始を遅らせることは不可能なのだろうか。昨夏から、5回の終了後に10分の「クーリングタイム」が実施されている。昨夏は、体を冷やしすぎてかえって体調を崩した選手が続出し、効果を疑問視する向きもあった。そのためか、今年は長時間、ベンチ奥に下がることなく、ベンチの中で時間の経過を待つチームが多かったように感じた。

「給水タイム」を設定した地方大会も

 2時間弱で終わる高校野球で、10分の空白はかなり長い。プロ野球ですら、5回終了後のグラウンド整備は5分程度だ。今夏、近畿の各地方大会を取材したが、いくつかは3、5、7回終了後に「給水タイム」を設定していた。もちろん10分よりはるかに短い。仮にそれぞれが3分としても、5回のグラウンド整備時がそれより長くても、合計すれば大差ない。むしろグラウンドに出ずっぱりの審判員も休める分、相対的な観点からすれば、効果が大きいような気がする。結局、今大会でも試合が終盤になるにつれ、足のつる選手が続出した。そのたびに守備側の選手を引き上げさせたので、トータルの試合時間が延びることにつながっている。

地方大会からも現場の意見を

 昨今の酷暑対策は、急速かつ多岐に及んでいる。いずれも試行錯誤の連続で、絶対的な正解はないだろう。少しでも選手の負担を軽くし、大会運営や応援団、観客、関わる全ての人にとってより良い方向に導くことが求められる。二部制については、現場の受け止めは概ね良好だったと聞いた。一方で、ナイターに慣れていないチームの対応も、課題として挙がった。地方大会も、甲子園大会と同じ酷暑の中で行われる。地方大会の段階から、昨今のさまざまな変革を意識し、現場の意見をどんどん挙げてほしい。いくら知恵を絞っても、現場の意見より重いものはないのだから。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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