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岸田政権の動き(2月4日から10日)―議員名の公表と党本部の人事機能強化

竹中治堅政策研究大学院大学教授
2月9日、衆議院予算委員会で答弁する岸田首相(写真:つのだよしお/アフロ)

はじめに

 2月5日の記事「首相権力の強化:岸田「一強」へ」で安倍派などの裏金問題を踏まえた派閥解消や自民党内の党のあり方を見直す議論の状況について説明した。

 今回の記事では2月4日の週を中心にその後の裏金問題の展開や見直しの方向性について説明する。最後に、岸田首相が少子化対策の財源となる支援金の内容を明らかにしたので紹介する。

議員名の公表

 2月4日に共同通信社が3日と4日に実施した世論調査の結果を報道している(『共同通信』2024年2月4日)。内閣支持率は24.5%と1月から2.8ポイント低下、不支持率は1.4ポイント増の58.9%であった。この結果、一部の派閥解散や自民党の「改革の中間取りまとめ」発表は支持率回復にはつながらなかったということを示している。

 裏金問題に関連し、2月5日に自民党は野党の求めに応じて、派閥から資金還流を受け、政治資金収支報告書に記載しなかった安倍派と二階派の議員82人の氏名と還流額を公表した。このうち安倍派の議員の数は76人に上る。安倍派の議員総数は2023年8月版の『国会便覧』によれば100人である。安倍派の4分の3以上の議員が資金還流を受けていたことが明らかになった。

 また自民党は2月2日から資金還流を受けた議員や元議員85名を対象に聞き取り調査を開始した。聞き取りから新たな事実が判明する可能性は低い。また、2月6日に全議員を対象に政治資金に関するアンケートを配布した(『朝日新聞』2024年2月6日)。アンケートは二問(政治資金パーティーから得た収入の政治資金収支報告書の記載漏れの有無と記載漏れがあった場合の額)に過ぎない。9日の森山総務会長は政治資金収支報告書への不記載が確認されなかったことを表明した。アンケートの意味について疑問視する声もある(『朝日新聞』デジタル2024年2月5日)。ただ、今後、政治資金パーティー収入の不記載が明らかになる事例があれば、当該議員や自民党は厳しく非難されるはずである。アンケートにそうした効果はある。

作業部会の設置

 あわせて重要なのは党の見直しの議論が徐々に進んでいることである。

 2月5日に茂木自民党幹事長が記者会見で政治刷新本部の元に三つのワーキンググループ=作業部会を設置し、「中間取りまとめ」の改革案の検討を進めることを明らかにした。第一の作業部会は「政治資金に関する法整備の検討」、第二は「党機能・ガバナンス強化」、第三は「党則等の見直し」である。岸田首相は8日に自民党政治刷新本部の3つの作業部会の部会長(鈴木馨祐「政治資金に関する法整備の検討」部会長、松本洋平「党機能・ガバナンス強化」部会長、牧島カレン「党則等の見直し」部会長)らと昼食を共にした(『読売新聞』24年2月9日)。

党本部の人事機能強化

 どのようなことが議論されるのだろうか。2月6日付の『日本経済新聞』は改革の方向性について紹介している。自民党は党本部の人事機能を強化し、党が議員の経歴や専門を管理、評価基準を整えるという。党本部の人事機能が強まれば、自民党が政権を握っている場合には、すでに別記事で指摘したように、首相=党総裁の権力が人事面でさらに拡大するはずである。

支援金の負担

 この週に、岸田政権の少子化対策の支援金の負担額も明らかになった。岸田政権は昨年12月22日に少子化対策としてこども未来戦略を取りまとめた。この戦略のもとで、政府は2024年度から26年度の3年間で出産・子育て応援交付金の制度下や児童手当の増額など少子化対策を約3.6兆円拡充させる。一方、政府は28年度までに財源として既存の予算の活用により1.5兆円を確保、歳出改革により1.1兆円を捻出、医療保険料と合わせて徴収する支援金により1.0兆円を準備することになっている。

 ただ。これまで、我々国民が支援金としてどの程度の額を負担する必要があるのかは明らかではなかった。首相は6日に衆議院予算委員会で、医療保険加入者1人あたり月額500円の負担になることを説明した。支援金とはいうものの少子化対策のための増税に等しい。消費税引き上げなどの増税には政治的反発がより大きいことが予想されるので医療保険料と併せて徴収することを選んだと考えられる。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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