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金リースレートがリーマン後の最高値を更新 ~金価格の反転リスク~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

金(ゴールド)を貸し借りする際の金利となる金リースレートが急伸している。期間が1ヶ月物の金リースレートの場合だと、6月末時点では0.125%だったのが、7月9日時点では0.299%まで上昇しており、2008年12月以来で最高に達している。金リースレートは11年12月をボトムに緩やかな上昇トレンドを形成しているが、7月に入ってからややパニック的な上昇圧力が見られることに注意が必要である。

金リースレートが急伸している背景であるが、筆頭に挙げるべきは投資家・投機家が金市場における「買い手」から「売り手」に転換していることだろう。

金リース市場は、各国中央銀行や金融機関が貸し手、鉱山会社やブリオンバンクが借り手となっており、鉱山会社やブリオンバンクは低利で金を借り入れて、それを市場で売却することで資金を調達するオペレーションを行っている。

特にここ数年は金融機関が大量の金を保有する傾向が強くなっていたため、保有しているだけでは金利・配当を生まない金をリース市場で貸し出す動きが活発化した結果、短期物を中心にリース市場での供給がだぶつき、リースレートがマイナス化する異常な状態に陥った。

しかし、今年は米金融緩和政策の出口を見据えて金価格の急落傾向が加速する中、投資家は金を持たない選択に傾きつつある。その象徴となるのが、金上場投資信託(ETF)市場における大量の換金売り圧力である。こうした投資家の金保有から金売却への動きが加速している結果、リース市場では貸し手不足の状態となり、一種のスクィーズ的な状況に陥っていることが、リースレートの急伸を招いている可能性が高い。短期的には投資家の金離れが進む動きと連動して、金リースレートに対して更に上昇圧力が強まる展開も想定しておく必要があると考えている。

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■GOFOがマイナス化したことの意味

金リースレートが急伸しているとは言っても歴史的には依然として極めて低い水準に留まっているため、現段階ではこのリースレート急伸が大きな問題に発展する可能性は低いと考えている。ようやくリーマン・ショック前の水準に到達し始めたに過ぎず、その意味では株式市場や債券市場などが正常化するプロセスが、金リース市場においても同様に発生しているに過ぎない。

ただ、金先物市場におけるヘッジファンドの売り玉は過去最高水準に達しているだけに、マーケットでは最悪のシナリオも囁かれ始めている。すなわち、このまま金の現物手当てが困難な状態が加速すると、売り方が受け渡し不能のリスクを警戒して価格水準に関係なく買い戻しを迫られて金価格が急反発するシナリオである。いわゆる、ショートスクィーズだ。

確かに、上海黄金交易所などにおける純金売買高は比較的高いレベルを維持しており、アジア地区では精錬業者がフル稼働で需要に対応する動きが報告されている。これによって、中国や東南アジアでは欧米市場などと比較して現物プレミアムが拡大しており、現物需給に対しては強力な引き締め圧力が働いている。例えば欧米市場における金価格が1オンス=1,245ドル前後で取引されているのに対して、上海市場では1,277ドルと30ドル以上のプレミアムが確認されている。

現時点では、投機売りを吸収するには不十分との見方が強いが、アジア地区の現物プレミアムが極めて高い水準に留まっていることは、少なくともこの地域の金現物需給はタイト化していることを示している。

そして、7月8日にはついに金フォワード・レート(GOFO)がマイナス金利状態に陥っている。GOFOは余り一般には馴染みの無い指標かもしれないが、金とドルのスワップ(交換)レート、要するに金を貸し出してドルを借りる際の金利である。

GOFOがマイナス化しているということは、手元の金価格よりも先物市場で受け渡しされる金価格の方がディスカウントされていることを意味し、金現物市場に強力なストレスが発生している可能性を示唆している。GOFOがマイナス化したのは殆ど例がみられず、過去15年を振り返ってみても2008年11月、その前だと2001年3月、1999年9月の3回が観察されているに過ぎない。そのいずれも金価格の急騰を招くきっかけとなっているだけに、注意が必要な指標であることは間違いない。

金価格が上昇すれば簡単に現物需要が縮小する相場環境にある以上、依然として現物市場主導で金価格を本格反発させるためのハードルは高い。トレンドは依然として下向きと考えている。ただ、「ヘッジファンドの撤退が加速する金市場」でも解説した通り、ニューヨーク金先物市場におけるヘッジファンドの売り残高は過去最高水準に達しているだけに、ショートスクィーズ的な動きには注意を喚起しておきたい。

ちなみに、「金リースレート」は「ドルの資金調達コスト(LIBOR)」と「金フォワード・レート(GOFO)」の差となるため、下記の式で定義されることになる。

金リースレート=LIBOR-GOFO

GOFOの低下とリースレートの上昇が、密接な関係を有していることが確認できるはずだ。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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