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4回目の新型コロナワクチン 現時点での接種の対象は?なぜ医療従事者は対象ではないのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:アフロ)

5月25日から新型コロナワクチンの4回目の接種が始まっています。

接種の対象者は高齢者や基礎疾患のある成人に限定されていますが、これはなぜでしょうか?

現時点での4回目のワクチンの効果や副反応について分かっていることをご紹介します。

新型コロナワクチン 4回目の接種が開始

2022年5月25日から、新型コロナワクチンの4回目の接種が始まりました。

厚生労働省の4回目接種についての案内のHPによると、現時点では4回目の接種の内容は以下のようになっています。

接種時期:2022年5月25日から9月30日まで

接種対象者:

①60歳以上の方

②18歳以上60歳未満で、

・基礎疾患を有する方

・その他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認める方

接種間隔:3回目接種から5か月以上空けて

接種するワクチン:1~3回目に接種したワクチンの種類にかかわらず、mRNAワクチン

▷ファイザー社のワクチン(12歳以上用):3回目接種と同量

▷武田/モデルナ社のワクチン:3回目接種と同量(初回接種の半量)

現時点では、高齢者や基礎疾患のある成人のみが対象となっています。

これまで高齢者と同じく優先的に接種の対象になってきた医療従事者は、4回目では対象になっていません。

これはなぜでしょうか?

4回目の接種はオミクロンの感染を防ぐ効果は弱い

3回目接種と比較した4回目のワクチン接種による感染予防効果(BMJ 2022; 377より)
3回目接種と比較した4回目のワクチン接種による感染予防効果(BMJ 2022; 377より)

イスラエルではすでに60歳以上の高齢者を対象に4回目が行われており、その有効性についても科学的なデータは報告されています。

9万人以上の高齢者を対象に4回目のワクチンの有効性について検討した研究では、感染を防ぐ効果は3回目と比較して接種後2週後に65%とピークに達し、その後速やかに低下し、9週後には22%にまで低下することが分かっています。

オミクロンに対しては、2回目、3回目のワクチン接種も時間とともに感染予防効果が落ちていくことが知られていましたが、4回目はそれよりも早いペースで低下していくようです。

同様に、医療従事者を対象に行った研究でも、4回目接種はオミクロンに対する中和抗体は十分には増加せず、感染予防効果はほとんど期待できないという結果でした。

まさに「ぴえんこえてぱおん」な結果であり、もはや「ワクチンしか勝たん」状況とは言えなくなってきています。

もう少し医学的に言うと、4回目のワクチンを接種してもオミクロンによる感染を完全に防ぎ切ることは困難ということになります。

では4回目ワクチンは打っても意味がないかというと、そういうわけではありません。

重症化を防ぐ効果は短期間では低下しない

3回目接種と比較した4回目のワクチン接種による重症化予防効果(BMJ 2022; 377より)
3回目接種と比較した4回目のワクチン接種による重症化予防効果(BMJ 2022; 377より)

同じイスラエルの研究で、重症化(入院または死亡)を予防する効果についても検討しています。

4回目のワクチン接種をした60歳以上の高齢者の、3回接種のみの高齢者と比較した重症化予防効果は、感染予防効果とは異なり接種から9週間後も86.5%と保たれていました。

特に重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人は、ワクチン接種から時間が経過すると重症化を防ぐ効果も低下してきます。

3回目の接種から時間が経って、重症化予防効果が段々と落ちてきている重症化リスクの高い人にとっては、4回目のワクチンを接種する意義はありそうです。

副反応は2回目、3回目の接種後と同等

4回目接種後に生じた副反応の頻度(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)
4回目接種後に生じた副反応の頻度(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)

イスラエルでの医療従事者を対象にした研究では、4回目の接種後に生じた副反応は、3回目までの副反応と大きな違いは見られませんでした。

これまで通り接種部位の腫れや痛み、だるさ、筋肉痛、頭痛、発熱、リンパ節の腫れなどが見られています。

3回目までよりも特に副反応が多くなる、ということはなさそうです。

ワクチンの立ち位置が変わってきている

このように、4回目のワクチン接種は「重症化予防効果」に力点が置かれたものになっています。

もともと重症化リスクの高くない、若い基礎疾患のない人にとっては恩恵は多くないため、現時点では接種対象にはなっていません。

2回以上のワクチン接種率が8割を超え、オミクロンに感染しても軽症で済む人が大半になっていることから、社会の機能を維持するために感染をある程度は許容しつつ、重症化リスクの高い人をしっかりと守っていく、という考え方にだんだんとシフトしてきています。

このため、こうした重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人の4回目のワクチン接種率を高めることが重症者を減らすためには重要になります。

医療従事者を含めた若い基礎疾患のない人は現時点では接種対象になっていません。

しかし、今後の時間経過によるワクチンの効果の減弱や、新たな変異株の出現、新しいワクチンの開発によっては、今後接種対象になる可能性はあるでしょう。

なお3回目までのワクチン接種については、感染予防効果を含めて12歳以上のすべての人にとって接種する意義がありますので、3回目までのワクチン接種については引き続きご検討ください。

先ほど「感染をある程度は許容し」と書きましたが、決して感染しても大丈夫というわけではありません。

重症化リスクのない人も稀に重症化することがあるのがこの感染症の怖いところであり、また感染した後に後遺症に悩まされることもあります。

こまめな手洗い、屋内でのマスク着用、といった持続可能な感染対策はこれからも続けていきましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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