浦和の17歳が鮮烈デビュー!4年目のWEリーグ開幕を彩った強豪対決。リーグ新体制の変革にも期待
【デビュー戦でゴール】
9月14日と15日に、WEリーグが各地で開幕。6試合で計18ゴールと、各地で白熱した試合が展開された。
味の素フィールド西が丘では、昨季リーグ女王の浦和と東京NBの名門カードが実現した。
高い連動性と駆け引きのスキルで、リーグ1、2を争う攻撃力を誇る強豪同士。カップ戦決勝や皇后杯など、これまでにもさまざまな大舞台で同カードが実現してきたが、両者の意地がぶつかり合って多くの得点が生まれ、劇的な結末になることも少なくない。18時のキックオフを前に、残暑の厳しいスタジアムには3000人近い観客が詰めかけ、期待感とともに4年目のリーグの幕開けを見守った。
現在コロンビアで行われているU20女子ワールドカップに、東京NBは5人、浦和は2人を送り出した(日本はベスト4に進出)が、それを差し引いても、ピッチ上にはなでしこジャパンや年代別代表経験者がずらりと並んだ。
その中で異彩を放ったのは、浦和の17歳・藤﨑智子だった。ユース出身で、この試合でWEリーグデビューを飾ると、右サイドハーフで先発。積極的なプレスで守備のスイッチを入れると、立ち上がりの12分に先制点の起点となった。
左サイドで塩越柚歩のスルーパスに抜け出すと、エリア内でボールをキープ。リターンパスを受けた塩越がグラウンダーのボールを鋭くゴール前に差し込むと、島田芽依が流し込んで早々にリードを奪った。
その後は一進一退の攻防が続いたが、52分、伊藤美紀のクロスを、ファーサイドで藤﨑が押し込み、2-0。浦和にとっては、WEリーグでクラブ最年少ゴールとなった。
2点をリードした浦和は、ボールを握られながらも東京NBに反撃の隙を与えず、勝ち点3を獲得。4連覇に向けて視界は良好だ。
「本当は去年デビューさせたいと思っていました。(その時は)まだ若すぎるかな、と考えて我慢させましたが、それだけの才能を持っている選手。これからが楽しみです」
デビュー戦で2点に絡む、堂々のデビューを飾った藤﨑の活躍に、楠瀬直木監督は目を細めた。昨季、ぶっちぎりの20得点でリーグ得点王になった清家貴子(今季、イングランドのブライトンに移籍)の穴を埋める形で同ポジションに抜擢され、プレッシャーがなかったはずはない。だが、167cmの長身でスケールの大きさを感じさせるフィニッシュワークを大舞台で発揮。試合後は初々しい言葉で喜びを表現した。
「もちろん緊張していたんですけど、それよりもワクワクした気持ちや、自分のことをみんなに知ってもらうために結果を出したい、という気持ちの方が大きかったです。結果を出せましたが、課題もたくさん見つかった。修正して、先輩方への感謝の気持ちを忘れずにプレーしたいと思います。
17歳でデビューできたのは、自分としてはいいかなって(思います)。そんなに(年齢的に)早くはないけど、いいコンディションで、結果も出せたので嬉しいです」
【育成型クラブの宿命と葛藤】
王座奪還を目指す中、ホーム開幕戦を飾れなかった東京NBにとっては、痛い黒星スタートとなった。今季は、エースの藤野あおばがマンチェスター・シティに移籍。プロ化以降、毎年のように攻撃の柱が海外挑戦で退団する中、下部組織から上がってきた選手たちの急成長がチームを支えている。育成型クラブとしてはあるべき姿とも言えるが、一方の浦和も育成力を高めつつ、この数年、顔ぶれはほとんど変わらない。積み上げた戦術やチーム力の部分で差がつくのは仕方がないことかもしれない。
2021年のWEリーグ開幕以降、東京NBは浦和にWEリーグで勝ったことがない。内容的にはいつも接戦だが、結果はその壁の厚さを証明している。
代表のレジェンドたちが背負ってきた東京NBの背番号10を引き継いで2年目を迎える21歳の司令塔・木下桃香は試合後、冷静な表情でこう振り返った。
「戦術的な面もフィジカル的な面もそうですけど、一番は戦術的な面で完全に上回られたなという印象です。顕著だったのは守備のところかなと思っていて、前からセットして奪ってショートカウンター。相手はそれがはまりまくっていたんですけど、自分たちは行ってもひっくり返されて、相手のツートップに収まってしまう。やろうとしていた守備は近いと思うんですが、こんなに差が出るのかと感じました」
ボールを持つ時間は東京NBの方が長く、その点は「相手の強みを消した」とも言える。シュートは浦和が11本、東京NBは10本。そこにも大きな差はない。だが、ボールの奪いどころの徹底や、勝負どころでの崩しの質において、木下は明確な課題を感じていたようだった。今シーズン、両者が再び相見えるまでに東京NBがこの差をどう埋めていくのか、ここからの追い上げに期待したい。
【リーグ変革への期待】
昨季と比べて、総合的な観点で見ると、スピード感や局面の強度が増した感もあり、スタジアム観戦する価値は保証できる。一方、WEリーグは昨年から各チームの主力の海外挑戦の流れが加速しており、海外リーグと互角に張り合うための土台である運営資金面やマンパワーにも課題を抱えている。
そんな中、3代目のWEリーグチェアを引き継ぎ、Jリーグチェアマンと兼任することが報じられた野々村芳和氏がこの試合を観戦。
「”女性が輝く”という理念は素晴らしいけれど、まず、選手たちがもっと輝いていけると思う。今日のゲームは、プレーしている選手たちにとってもすごく良かったと思う。勝ち負けもちろんあるけど、高揚感があって(自分が)プロ選手だと感じることができたと思うので、そういう体制をどうやったら(リーグ全体で)作れるかということをやっていった方がいいだろうと思います」
Jリーグのノウハウを持った主要な人材がWEリーグに加わり、急激な発展を続ける世界の女子サッカーマーケティングの状況を鑑みながら、これまでのリーグ運営を見直していく。そうすることで、ビジョンとして掲げてきた「世界一のリーグ」に近づく可能性は高まるだろう。そうした面でも、今季のリーグを期待とともに見守っていきたい。