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渡辺夏彦(國學院久我山)が払拭する高校サッカーの「タレント不足」

小澤一郎サッカージャーナリスト
U-18日本代表候補にも入った國學院久我山MF渡辺夏彦

18日に行われた第92回全国高校サッカー選手権大会の抽選会で開幕戦(12月30日、国立競技場)のカードを引いた東京都B代表の國學院久我山。16日の東京都Bブロック決勝では駒澤大高相手に4-0と快勝したが、ハットトリックで李済華(リ・ジェファ)監督も「神懸かった」と舌を巻いたFW松村遼(3年)と共に輝くタレント性を発揮した選手がいた。

彼の名は、渡辺夏彦(3年)。強豪の國學院久我山において1年からレギュラーとしてプレーするMFで、2年ではU-17日本代表に選出、今春にはU-18日本代表候補にも入った逸材だ。決勝戦後は「個人としての出来は最悪」と反省の弁を述べたものの、後半33分にエリア内で巧みなステップワークと鋭い切り返しからダメ押しとなる4点目のゴールを決めるなど特に試合終盤には「キレキレ」という表現がぴったりなハイパフォーマンスで何度も会場を沸かせた。

トラップではなくコントロール・オリエンタードを身に付ける渡辺夏彦

渡辺夏彦のタレント性は「コントロール・オリエンタード」という言葉に集約される。聞き慣れない単語かもしれないが、コントロール・オリエンタードとは今や世界最高レベルにあるスペインサッカーの根幹を成すテクニック(用語)で、日本語訳を付けるならば「方向付けされたコントロール」となる。「止める・蹴る」が最も重要な基礎技術と認識される日本ではコントロールというよりも「ボールをしっかり止める」トラップが頻度の高い用語として存在するが、スペインでは代表が世界王者になるかなり前から「認識・分析・決断」という次のプレー意図を全て含んだコントロール・オリエンタードが育成年代で一貫指導されてきた。

決勝後半35分の渡辺夏彦のコントロール・オリエンタードからのドリブル突破
決勝後半35分の渡辺夏彦のコントロール・オリエンタードからのドリブル突破

例えば、駒澤大高との決勝戦の後半35分に渡辺がハーフェーを過ぎた地点からエリア内までドリブルで持ち込み決定的なシュートを放った場面におけるボールの受け方はトラップではなく、コントロール・オリエンタードだった。センターサークル内でボールを持つ味方(MF萩原優一)に対してサイドに移動しながら右足へのパスを要求した渡辺は、軸足となる左足を後方に“抜く”ステップワークから右足のインサイドでマークする相手の背後にワンタッチでボールをコントロールし、一発でマーカーを振り切った。

「シャビとイニエスタの違い」に似た渡辺と日本代表MFの違い

相手のマークとプレッシャーが最も厳しい中盤センターで渡辺が軽々と前向きにプレーできるのは大きくコントロール・オリエンタードのテクニックに起因する。中盤で小回りが利くタイプとして日本代表の香川真司や清武弘嗣とイメージをダブらせる人もいるかもしれないが、香川、清武はどちらかというとまず一度ボールを足下に収め、相手を食いつかせた上で高速のセカンド(&サード)タッチで相手をかわす、はがすタイプのMFであり、コントロール・オリエンタードによりワンタッチで相手の背後を取ることのできる渡辺とは若干タイプが異なる。

敢えて大雑把な表現を用いるならばバルセロナ、スペイン代表の「シャビとイニエスタの違い」とでも言えようか。しかし、すでに様々なメディアで形容されているように渡辺夏彦を「和製イニエスタ」と表現するのは単なる記者(ライター)の“ボキャ貧”だと考えるので少なくとも筆者は「和製~」、「~二世」という言葉を用いて未来ある若手選手を紹介することはしない。

“忍者”のように舞う國學院久我山のフィジカル

また、少し余談にはなるが渡辺のコントロール・オリエンタードは持って生まれた才能以上に、國學院久我山における高校3年間のフィジカルトレーニングによって確立した部分が大きい。同校サッカー部では渡辺が1年の時から三栖英揮氏がフィジカルコーチとしてサポートしており、18歳までの育成年代で必ず起こる姿勢の崩れに対する改善と自身の身体に合った筋バランスの獲得を目指しながら最終的にプレースタイルと身体能力をマッチさせる緻密なフィジカルトレーニングが行なわれている。

三栖フィジコのトレーニングにより軸足に体重が残らない國學院久我山の選手たち
三栖フィジコのトレーニングにより軸足に体重が残らない國學院久我山の選手たち

前述の後半35分の渡辺のコントロール・オリエンタードにおける軸足(左足)の抜き方は、三栖フィジコが掲げる「軸足に体重が残らず、ファースタッチ後の逆脚を効率良く使う」動作の基本であり見本。渡辺のみならず、國學院久我山の選手はファースタッチをミスしたとしても素早く逆脚を相手との間に入れ、効果的なコンタクトを行なう身体動作を身に付けており、だからこそファーストタッチやコントロールにおけるミスの処理が早く結果的にミスに見えないことが多い。だからこそ、選手権の舞台では一般的に「フィジカル」と捉えられている「強さ」、「高さ」ではなく、まるで“忍者”のようにヒラヒラと舞うような動作が特徴の國學院久我山のフィジカル能力にも注目してもらいたい。

杉本太郎(帝京大可児→鹿島内定)、宮市剛(中京大中京→湘南内定)、青木亮太(流経大柏)らを筆頭にプロ注目のタレントを擁する強豪校が次々と都道府県予選で姿を消したことで、今年度の選手権は例年以上に「タレント不足」が叫ばれる大会となるかもしれない。しかしながら、大学進学予定の渡辺夏彦のようにしっかりとした目線と評価軸で選手としての特徴や武器を査定すれば、将来性豊かなタレントが確実にいるのも近年の選手権の面白さであり高校サッカーの底力だろう。12月30日のオープニングゲームでは、國學院久我山の渡辺夏彦が高校サッカー、今大会の「タレント不足」なる言葉を払拭してくれるに違いない。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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