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コメダ珈琲店の新・本店。過去と未来が共存するハイブリッドな“シン・コメダ”だった!

大竹敏之名古屋ネタライター
10月7日にリニューアルオープンする「コメダ珈琲店本店」(名古屋市瑞穂区)

昭和52年オープンで45年間愛されてきた旧・本店

名古屋発祥の喫茶店チェーン「コメダ珈琲店」(以下、コメダ)の本店(名古屋市瑞穂区)が2022年10月7日、リニューアルオープンします。

コメダは1968(昭和43)年創業。ビルインの小さな個人経営の店としてスタート(1号店の菊井店は2014年に閉店)しました。その後少しずつ店舗を増やし、1977(昭和52)年に初の郊外大型店としてオープンしたのが本店(当時は石川橋店)です。

それまでの喫茶店は、主に市街地のビジネスマン向けの業態でした。郊外で車来店やファミリー客を取り込むコメダのスタイルは当時としては画期的でした。これが成功して今や900店舗超の巨大チェーンに成長しているのですから、非常に先見の明があったといえるでしょう。このような経緯から、本店はコメダの基本スタイルを確立したエポックな存在に位置づけられています。

当時、新機軸を打ち出した本店は、一方で70年代らしい味のある雰囲気も漂わせていました。ログハウス調という大枠は現在まで継承されていますが、丸太を大胆に使ったパーテーションや梁、ベンチには、近年の店舗と比べるとより手づくり感が。ところどころに飾られたミニカーやインテリア雑貨なども、個人経営の店のような趣味性の高さが発揮されていました。

このようにコメダらしい普遍的な魅力と、レトロさや個性を合わせもっていた本店ですが、老朽化もあって全面的にリニューアルされることに。今年8月末にいったん休業し、およそ一カ月後、かつては駐車場だった場所に建てられた新たな店舗で再スタートを切ることになりました。

変わった?変わらない? 新・本店チェック!

生まれ変わったコメダの“新・本店”。一体どんな店舗になっているのでしょうか?

旧・本店(上)と新・本店(下)。建坪142坪→90坪、駐車場54台→58台に。場所は名古屋の中心部からやや外れた郊外の住宅地で、地下鉄の場合は杁中(いりなか)駅より徒歩およそ10分
旧・本店(上)と新・本店(下)。建坪142坪→90坪、駐車場54台→58台に。場所は名古屋の中心部からやや外れた郊外の住宅地で、地下鉄の場合は杁中(いりなか)駅より徒歩およそ10分

外観はベージュを基調とし、近年の店舗でよく見られる赤、緑の配色がなくグッと落ち着いた雰囲気。旧・本店でも特徴的だった屋根の飾り窓は今回も採用されています。

「外観のモデルとしたのは、創業者による開業前のイメージパース。旧・本店を建てる際に制作したものが見つかり、これを参考にしながらデザインしました」とコメダ広報の深堀俊輔さん。新築でありながらどこかノスタルジーを感じるのは、創業者の思い描いたスタイルへの原点回帰の要素もあったからなのです。

旧・本店の建設に先駆けて描かれたイメージパース。新・本店はこのイメージを活かしてデザインされた。パースは新・本店の2階に飾られている
旧・本店の建設に先駆けて描かれたイメージパース。新・本店はこのイメージを活かしてデザインされた。パースは新・本店の2階に飾られている

店内を見ると、木の壁やパーテーション、レンガ風の壁紙、紅いベロア地のソファなどでくつろぎを演出する基本スタイルは従来通り。一方で、吹き抜け構造や、上層部のしっくい風壁はこれまでになかったもの。コメダの魅力である空間の開放感やくつろぎ度がいっそうアップしています。

旧・本店(上)と新・本店(下)。席数200席→139席。テーブルやソファは旧店舗のものをできるだけリペアして再利用。従来のイメージが可能な限り守られている
旧・本店(上)と新・本店(下)。席数200席→139席。テーブルやソファは旧店舗のものをできるだけリペアして再利用。従来のイメージが可能な限り守られている

新・本店の店内。吹き抜けで開放感がいっそうアップ。吹き抜け1階の壁には三重県菰野町で取り組んでいる森林保全プロジェクト「コメダの森」の間伐材も使用している。梁の上には旧・本店にあった古い焙煎機が
新・本店の店内。吹き抜けで開放感がいっそうアップ。吹き抜け1階の壁には三重県菰野町で取り組んでいる森林保全プロジェクト「コメダの森」の間伐材も使用している。梁の上には旧・本店にあった古い焙煎機が

入口を入って左側は、旧店舗の持ち味をより体感できるスペース。丸太のパーテーションや梁は旧店舗でも使われていたものが再利用されています。

新・本店の入口から見て左側にあるスペースは、旧・本店の調度品やインテリアを随所に活かした“コメダミュージアム”ともいうべき空間
新・本店の入口から見て左側にあるスペースは、旧・本店の調度品やインテリアを随所に活かした“コメダミュージアム”ともいうべき空間

旧店舗の装飾品や調度品が、店舗内外のいたるところに配されているのもうれしいポイント。入口のレンガの柱、丸太を使ったベンチ、サンプルのショウケース、大きな焙煎機、ミニカーやアンティークグッズなどなど。マスコットとしておなじみのコメダおじさんの原型とも思われる透かし彫りのパーテーションなど、マニア心をくすぐるアイテムも装飾品として店内をいろどります。

旧・本店で使われていたショウケース、ベンチ、パーテーションなど、古くからの常連にとっては懐かしい調度品の数々
旧・本店で使われていたショウケース、ベンチ、パーテーションなど、古くからの常連にとっては懐かしい調度品の数々

さらにステンドグラスにマスコットのコメダンディやミズ・コメダが描かれていたり、梁の断面に「KOMEDA」と彫られていたりと、宝探しのようなこだわりポイントを探す楽しみも秘められています。

ステンドグラスにはコメダのマスコットが。旧・本店で使われていた梁に刻まれた「KOMEDA」の文字は、お城の石垣の刻紋のよう。2階の窓際にも旧・本店時代から親しまれていたアンティークグッズが飾られている
ステンドグラスにはコメダのマスコットが。旧・本店で使われていた梁に刻まれた「KOMEDA」の文字は、お城の石垣の刻紋のよう。2階の窓際にも旧・本店時代から親しまれていたアンティークグッズが飾られている

ノスタルジーを喚起させる空間と、これからのコメダの方向性を示す空間との融合もコンセプトだといいます。

「吹き抜けのある店内右側(入口から見て)は森をイメージした空間。当社が三重県菰野町で行っている森林保全プロジェクト『コメダの森』の間伐材を一部の壁やテーブルに使っています。さらにしっくい風壁を採用するなどし、森にいるのと同じようなマイナスイオンを感じることができます」と深堀さん。この他、太陽光パネルや、駐車場にはEV充電器を設置するなど、サスティナブルに取り組んできた企業姿勢が店舗全体で具現化されています。

加盟店の皆様に“これからのコメダ”を提案するモデル店の役割も担っています」(深堀さん)といい、同様の店づくりが今後全国に広まっていくことが期待されます。

オープンに先駆けてファンを募っての内見会を開催

オープンに先駆けては、コメダのファンクラブ「コメダ部」会員を招待しての内見会を開催。各地から熱心なユーザーが参加しました。参加者の声を拾うと、全国チェーンとなったコメダの本店であること、そして旧店舗のエッセンスを残す姿勢に大きな価値を感じているようでした。

10月2日に開催されたコメダ部員限定の内見会。地元だけでなく関東や関西からも熱心なコメダユーザーが訪れた。設計担当者がこだわりポイントなどを解説する店内ツアーなどで盛り上がった
10月2日に開催されたコメダ部員限定の内見会。地元だけでなく関東や関西からも熱心なコメダユーザーが訪れた。設計担当者がこだわりポイントなどを解説する店内ツアーなどで盛り上がった

「コメダはずっと前から利用していましたが、最近になって深くて面白い喫茶店だとあらためて気づきました。旧店舗のソファや調度品なども活かしてあるので、新しいのに懐かしさを感じます」(名古屋市の50代女性)

「近所なので父や3歳の息子と3世代で利用しています。食品サンプルやミニカーなど旧店舗の装飾品などが要所要所に使われているのもうれしい。温かい雰囲気は従来通りで、今までと変わらず家族でゆっくり過ごせそうです」(名古屋市の30代夫婦)

「20年近く前にできた関東1号店が自宅の近くで、今では車で10分圏内にある4軒を使い分けています。コメダの歴史の原点である本店は一度は来たいと思っていました。基本的な店づくりは変わりませんが、新しい店にはないインテリアなどがあるのが面白いですね」(横浜市から参加した50代男性)

全国のファンが訪れる“本店巡礼”も(?)

本店が「上山店」と呼ばれていた時に作られた木製のパネル。創業から半世紀以上愛されてきた歴史を感じさせる調度品、装飾品が店内のあちこちに
本店が「上山店」と呼ばれていた時に作られた木製のパネル。創業から半世紀以上愛されてきた歴史を感じさせる調度品、装飾品が店内のあちこちに

今や全国47都道府県に出店し、日本中で愛される喫茶店となったコメダ。“新・本店”はその原点にふれながら、新たな方向性もいち早く感じられる、いわば“シン・本店”といえる店舗になっていました。

チェーン店のファンの間では、“本店巡礼”はお気に入りの店に対する愛を確かめ、深めるための儀式であり楽しみにもなっています。“シン・本店”は、地元の常連にとっては“いつものコメダ”として気負いなく利用できる一方、全国のコメダファンにとっては“いつかは行きたいコメダ”として憧れの場所になるのではないでしょうか。

コメダの代名詞で今や全国でおなじみとなったモーニングサービスをはじめ、メニューは従来通り
コメダの代名詞で今や全国でおなじみとなったモーニングサービスをはじめ、メニューは従来通り

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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