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ECBは何を考えているのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 ECBは半期に一度の金融安定報告で「日本が低金利環境から転換すれば、世界の債券市場の耐性が試されかねない」と指摘。日本の政策正常化が「世界の金融市場で大きな存在感を持つ日本の投資家の判断に影響する可能性がある」と分析した(1日付ブルームバーグ)。

 日本の投資家は2022年に5兆4000億円もの欧州債を売り越した。これは過去最大規模となった模様である。それだけ大量に欧州の国債を日本の投資家が買い入れていたこととなる。2022年に入り、経済正常化にともなう原材料やエネルギー価格の上昇、さらにそこにロシアによるウクライナ侵攻も加わって、世界的な物価上昇が起きた。それを受けて欧米の中央銀行は金融引き締めに転じた。

 これによって欧米の国債利回りが上昇、つまり欧米の国債の価格が下落したことで、さらなる価格下落を嫌気した売りが入ったものと思われる。これは市場原理からすれば至極当然なことではある。

 しかし、ECBは日銀の金融政策の正常化によるさらなる欧州国債の売却に警戒を発しているようにみえるが、どういうことであろうか。

 為替ヘッジをすれば、フランス国債の利回りがマイナス化するなどしていることで、日本国債の利回りがイールドカーブコントロールの解除などによって、優位にみえるといった分析もあるが、そもそも投資家はどっちがマイナスの幅が少ないかで投資はしていないであろう。

 日本の機関投資家が国内では利回りが稼げないので、日銀に抑えられている日本の国債利回りに比べて当然高い利回りの欧米の国債に資金を振り向けざるを得なかったことはたしかである。

 しかし、日銀が金融政策の正常化を行ったからといって日本の機関投資家がいっせいに欧米の国債投資から資金を引き揚げる事態など考えづらい。

 もし日銀がイールドカーブコントロールを解除しても、いきなり日本の10年国債の利回りが、ドイツやフランスの10年債利回りの2%台に乗せることは考えづらい。

 日銀がマイナス金利を解除したとしても、日銀の短期の政策金利がゼロとなり、いろいろとすっきりするだけである。

 それ以前に日本の物価そのものが上昇してきており、それに応じた金融政策をしていないことそのものにECBは違和感を示す必要があるのではなかろうか。物価の番人として日銀が責務を果たしているとECBは考えているのであろうか。どうもECBは現在の異次元緩和を続けたい日銀の意を汲んだレポートを出してきたようにもみえてしまうのであるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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