国会追及から23年。ジャニーズ事務所が消滅しても、動かない国。本質ずれるメディアの関心。
ジャニー喜多川氏の児童虐待問題は犯罪である。
なのにいつの間にやら、グループ名や社名の変更、ジャニーズ事務所消滅、紅白歌合戦危機といったことばかりが、クローズアップされている。
そもそもなぜ、警察や政府は動かないのか? 甚だ疑問だ。
「私は、昨年(1999年)、地元のある親御さんから、こんな気になる話を聞いたのであります。東京に少年たちがタレントとして活躍しているジャニーズ事務所という芸能プロダクションがあるのですが、そこに所属する少年たちの間で喫煙や飲酒が堂々とまかり通っておるというのであります。他にもいろいろな問題があります。私も耳を疑ったのですが、ジャニーズ事務所の社長であるジャニー喜多川さんがタレントの少年たちに性的ないたずらをしているという話も聞きました」――。
これは2000年4月13日、第147回国会の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」で、質問に立った自由民主党の阪上善秀衆議院議員(当時、故人)の言葉だ(資料)。
厚生省、労働省、警察庁、文部省、法務省などの担当者が問われているのに、誰も動かなかったし、今もなお動く気配がない。
23年前に国会で追及され、今、改めて当時の議事録を読めば読むほど、「なぜ、大人たちは子供たちをもっと守れなかったのか」とじくじたる思いになる。学校、予備校など、大人が働く場で、弱者である子供をどうやって守っていけばいいのか。
企業においても、男性のセクハラや性虐待への関心はいまだ低い。
そこで今回、当時の議事録の概要を改めて紹介する(省庁名、政党名、肩書などは当時のママ。一部、抜粋・補足した部分があります)。今一度「問題の本質」を思い出すことで、2度と被害を生まないために。
第147回国会の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」より
「きょうは、青少年問題特別委員会の各会派の理事の皆様方に御理解をいただきまして質問の順序を繰り上げていただきまして、心から感謝を申し上げます」と述べ、最初に質問に立った改革クラブの石田勝之氏によると、児童虐待の報道が後を絶たない状況から、1999年に同委員会を設置。メンバーが様々な見地から問題に取り組んだ結果、当時の児童福祉法に多くの不備や課題があるとの結論に至ったという。
ところが、厚生省は否定的で、99年11月の委員会で「児童福祉法の改正は当面必要がない」との見解を示した。石田氏が厚生省児童家庭局長の真野章氏に、その理由を問うシーンから特別委員会は始まっている。その後、質問に立ったのが阪上氏だった。
「昨年(99年)、地元のある親御さんから、気になる話を聞いた。ジャニーズ事務所という芸能プロダクションに所属する少年たちの間で、喫煙や飲酒が堂々とまかり通っておるという。他にもいろいろな問題があり、耳を疑ったが、ジャニーズ事務所の社長であるジャニー喜多川さんがタレントの少年たちに性的ないたずらをしているという話だ。
その親御さんのお子さんがジャニーズ事務所に関係しており、お子さんだけでなく、子供の友達からもジャニーズ事務所の体験談をたくさん聞いたという。(中略)かなり以前からこの問題は活字になっていて、最近も文藝春秋社発行の週刊文春で、10回にわたり、この問題が掲載されておる。(中略)
ジャニーズ事務所の人気や社会的影響力の大きさを考慮したとき、教育的な見地から、どうしても看過できない、多くの疑問を抱きましたから、あえて問題を提起させていただきたい」
こう切り出した阪上氏が最初に質問したのは、労働省労働基準局長の野寺康幸氏だ。
阪上:「労働基準法では、満15歳未満の児童は労働者として使用してはならないとし、満15歳以上18歳未満の年少者は、午後10時から午前5時までは使用してはならないと定められている。(中略)これらの規定について、ジャニーズ事務所の実態を労働基準監督署は把握しているのか。実態調査を過去にされたと聞いているが、本当か」
野寺:「一般的に専属契約という形の契約かつ報酬が一般の所得水準の数倍で、税法上も事業所得という形で課税されているなどの理由から、タレントは一般的には労働者とは見なしていないケースが多い、ジャニーズ事務所については、告発などの形ではないが、問題があるようなら今後必要な調査を的確にやりたい」
阪上:「昨年(99年)12月に、大手プロダクションのホリプロ所属のタレントが深夜(の時間帯の番組に)出演し、ホリプロは摘発されてジャニーズ事務所は許されるというのはおかしいのではないか。
ジャニーズ事務所に対する報道がある以上、事務所の実態調査を行い、必要な指導を行うべきだ。平成10年(98年)あるいは11年(99年)に実態調査に入ったと聞いているが、その後の指導監督はどうなっているか?」
野寺氏はこれに対し、ホリプロが摘発された理由は述べたが、ジャニーズ事務所の調査などについての説明はなかった。
次いで、阪上氏は、ジャニーズ事務所のタレントが平日のドラマに出ている問題を、文部省初等中等教育局長の御手洗康氏に質問。ジャニーズ事務所で横行する飲酒や喫煙の問題について、ジャニーズ事務所にいかなる指導、勧告をしたかについて、文部省体育局長の遠藤昭雄氏に質問した。
だが御手洗氏、遠藤氏ともに「一般論」を述べただけだった。
阪上氏は「次に、最も深刻な問題であるジャニー喜多川社長のセクハラ疑惑についてお聞きしたいと思います」とし、次の点を挙げた。
「ジャニー喜多川社長は、少年たちを自宅やコンサート先のホテルに招いて、いかがわしい行為を繰り返している。セクハラを行った後に数万円の金銭を少年たちに与えている。」
独自の調査で入手したジャニーズ事務所に所属していた少年の母親の手紙を紹介。
「初めてのレッスンで先輩から、もしジャニー喜多川さんから、『ユー、今夜はホテルに泊まりなさい』と言われたら、多分ホモされるかもしれないけれども、それを断ったら次から呼ばれなくなるから我慢しろと教えられた」
「何人かはこの行為を受け、お金をもらっていた」
これらを踏まえ、阪上氏は厚生省の真野氏に「児童虐待に当たるのではないか」と質問した。
真野:「厚生省の『子ども虐待対応の手引き』では、児童虐待は親または親に代わる保護者と規定。ジャニー喜多川社長は該当しない」
阪上:「地方から単独で東京の事務所に出てきて預かってもらっている人が、親権者代わりにならないのか。児童福祉法第三十四条第六号は、児童保護のための禁止行為として挙げているが、ジャニー喜多川氏の報道された行為が事実とすればこの法律に違反している」
真野:「(ジャニー喜多川氏の)事案については、それを判断するための情報がないが、一般論としては、児童に性交類似行為をするということは、児童福祉法三十四条の六号に違反していると考えられる」
阪上:「今の答弁のように事実を把握しておりながら実行しないというのが、あこがれのスターを夢見る子供たちをみすみす犠牲に追いやっているようなものだ」
さらに阪上氏は、警察庁生活安全局長の黒澤正和氏に金銭問題を問うた。
阪上:「ジャニー喜多川氏はセクハラを行った後に、数万円の金銭を少年たちに与えている。東京都や大阪府などで定められた青少年健全育成条例では買春処罰規定がある。この規定に抵触するのではないか」
黒澤:「個別具体的な事案の捜査にかかわる答弁は差し控えるが、一般論としては、犯罪があると思料される場合には捜査を行い、違法行為があれば、法と証拠に基づき厳正に対処してまいりたい」
阪上:「ジャニーズ事務所に対して警察庁も厳重注意を勧告されたと聞いているが、それはいつのことか」
黒澤:「手元に資料を持ち合わせていないが、間違いなく厳重注意、始末書処分をした」
阪上:「冒頭で申し上げた児童買春、児童ポルノ禁止法には抵触しないか」
黒澤:「大変失礼致しました。厳重注意をしたのは飲酒と喫煙の関係で、淫行ではなかった。(買春などの質問について)一般論としては、児童買春とは、児童などに対して、対償を供与し、またはその供与の約束をして、当該児童に対し性交などをすることと規定。これに違反するような行為があれば、具体的な証拠に基づき厳正に対処する」
阪上:「ジャニー喜多川氏のこのようなセクハラ行為は、今後警察庁としてどのように追及し、捜査をされようとしているのか」
黒澤:「今後とも、少年の健全育成のためにあらゆる施策、各種の法令を適用して各種の事案に対応し、健全育成を図ってまいりたい」
そして阪上氏は、「次に、法務省ですが、刑法によれば、12歳以下の少年にわいせつな行為をした者は強制わいせつ罪にも問われると思うがいかがか」と、法務省刑事局長の古田佑紀氏に質問した。
古田:「一般論として申し上げれば、刑法では、13歳未満の少年についてわいせつな行為をしたときには、それ自体で強制わいせつ罪が成立する」
阪上:「条例違反や児童福祉法違反、強制わいせつ罪は、被害者からの訴えがなくても捜査の対象となると思うが」
古田:「一般論を再び申し上げれば、被害者からの被害申告あるいは告訴、このようなことが捜査を開始する要件とされているわけではないというふうに理解している」
阪上:「警察庁の考えもお願いする」
黒澤:「法務省から答弁がありました通りだ」
阪上:「ジャニーズ事務所所属タレントが1日署長を務めたり、所轄署に差し入れをしていたりすることが捜査に影響を与えているのではないかという意見もよく聞くが」
黒澤:「警察においては、違反行為につきましては厳正に対処致している」
阪上氏は、この後、郵政省放送行政局長の金澤薫氏を「NHKの紅白歌合戦問題」で言及した。
阪上:「大みそかのNHKの紅白歌合戦の出場メンバーの中にジャニーズ事務所の若者たちが大挙して出演している。知り合いの元芸能プロダクションの社長から、ジャニーズ事務所に逆らうとタレントを引き揚げられて番組ができなくなってしまうので、テレビ局は遠慮して、ジャニーズ事務所に関する不祥事を放送できないと聞いた。NHKの電波が一事務所の意向で左右されることがあってはならないと思うが」
金澤:「放送事業者たるNHKの番組編集権にかかわる問題。ただ、一般論として、NHKはその公共性を十分配意して、番組編集に当たって適切に対応されるものと期待している」
質問の最後に、阪上氏は次のように述べた。
阪上氏:「私は、この問題は厳密に言えば児童虐待ではなく他の法律で処罰される問題かもしれないが、児童虐待とは子供の健全な成長を妨げるような大人の全ての行為であると考え、座視するわけにはいかない。有名芸能人が自殺をすればその後追い自殺をする子供たちがいるという時代だ。このような青少年に絶大な影響を持つ芸能人を抱える芸能事務所への対応として、取り締まれるはずの法律は、今やりとりをしてきたように、整備されてはいるはずだ。しかし現実に問題は生じている」
……さて、いかがだろうか。
国会の議論どおりであれば、現行法でなんらかの刑事責任を追及できるはずだ。
ジャニー喜多川氏本人が亡くなっていても、ジャニーズ事務所の幹部は対象になるのではないか。
学校、予備校など、大人が働く場で、弱者である子供をどうやって守っていくのか。企業での男性社員へのセクハラや性虐待も同様である。
繰り返すが、実際におきていた問題は、極めて悪質な犯罪である。
ちゃんと「犯罪なんだ」ということを示さないと、「所詮、芸能界の出来事」と限定されてしまい、社会全体の「児童虐待」再発防止の抑止力にならない。
このままでいいわけがない。
「児童虐待」は子供の将来に大きな心理的影響を及ぼす犯罪なのだからして。