ジャニーズの優等生・V6の前向きで穏やかな幕引き──26年続いた長寿アイドルの終わり方
11月1日、V6が解散する。当日は、オンライン配信でコンサートツアーの最後を締めくくる予定だ。
V6がデビューしたのは、阪神・淡路大震災とオウム真理教事件が起きた1995年のこと。解散日の11月1日は、彼らのデビュー日でもあった。ジャニーズ事務所の6人組グループは、それからひとりのメンバーも欠けることなく26年間を駆け抜けた。
ジャニーズ事務所にとっての1995年は、それまで5年ほど続いていた低迷期から脱出しかけていた時期にあたる。80年代後半に大人気だった光GENJIが9月に解散し、「ジャニーズの落ちこぼれ」と呼ばれていたSMAPが大ブレイクしてから1年経った頃だ。V6がデビューしたのは、まさにそのタイミングだった。
その後、芸能界で大きな覇権を握るジャニーズ事務所にとって、V6はどのようなグループだったのか──。
「中高生のお兄さん」としての『学校へ行こう!』
V6は、坂本昌行・長野博・井ノ原快彦による20th Century(トニセン)と、森田剛・三宅健・岡田准一によるComing Century(カミセン)で構成される6人組だ。今回、森田剛の退所によって6人のグループは解散するが、トニセンは活動を継続する予定だ。
1995年のデビュー以降、グループとしての活動は非常に順調に進んだ。とくに大きかったのは、先日最後の特番が放送されたばかりのバラエティ番組『学校へ行こう!』(TBS/1997~2008年)のヒットだ。
学校を切り口としたこの番組で、V6が果たした役割は「中高生のお兄さん」だ。番組の企画では、校舎の屋上で生徒が叫ぶ「未成年の主張」を中心に、中高生たちに喝采をもって受け入れられた。また、番組開始当初はコギャル全盛期でもあり、彼女たちにクイズで競わせる「コギャル最終戦争」も人気企画のひとつだった。
『学校へ行こう!』は、SMAPにおける『SMAP×SMAP』(フジテレビ)やTOKIOにおける『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ)のように、若者を中心として一般への認知度を向上させる大きな役割も担った。『スマスマ』がコントや料理、『DASH』が農業や土木を軸としたのに対し、『学校へ行こう!』は、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)のようなドキュメントバラエティの性格が強かった。
ジャニーズ黄金期の基礎を造ったV6
また、V6の人気を拡大するうえで決して外せないのは、1997年からのJ-FRIENDSとしての活動だ。V6の前年にデビューしたTOKIOと、同年にデビューしたKinKi Kidsとともに結成したユニットだ。阪神・淡路大震災へのチャリティー活動を目的に、1997年末から2003年まで彼らは精力的に活動を続けた。
見方を変えれば、J-FRIENDSは非常にわかりやすいバーター戦略だったと言える。3グループ合同の企画ユニットなので活動量は多いと言えないが、デビューから間もない3組を認知させる効果的な手段となった。またチャリティー企画ということもあり、業界的にも非常に好感度が高かった。実際、J-FRIENDSの寄付金総額は8億4000万円にものぼる。
そうした活動は、1994年頃にSMAPがブレイクし、嵐が1999年にデビューするまでのあいだのことだ。その後、2010年代まで四半世紀も続いたジャニーズ黄金期において、V6を含む3組がSMAPとともにその基礎を造ったと言っても過言ではない。
ファンとともに年をとる「長寿アイドル」
ジャニーズ事務所は80年代から現在まで10年に5~6組のペースで新グループをデビューさせている。90年代は、1991年デビューのSMAPから始まり、1999年デビューの嵐まで5組がデビューしている。V6のデビューはそのちょうど中間期にあたる。
この90年代デビュー組は、5組すべてが20年以上も活動を継続した。TOKIOはメンバー脱退がありながらも27年目に突入し、活動を休止している嵐も21年1ヶ月続いた。V6は、デビューからひとりの脱退もなく続いてきたグループとしては、(活動停止期間の長い少年隊を除けば)ジャニーズ事務所では最長の26年となった。
いまでこそアイドルの長寿化は珍しくないが、それはこのジャニーズ90年代デビュー組を中心に始まった現象だ。実際に80年代デビュー組の活動期間は、シブがき隊が6.4年、The Good-Byeは6.6年、光GENJIは8.0年、男闘呼組は4.8年、忍者は7.2年と、少年隊を除けば極めて短い。これは、アイドルがファンとともに年をとる文化が80年代はなかったことを意味する。
ジャニーズ事務所は、90年代以降にその前例を覆して長寿アイドルを成立させた。SMAPの大ブレイクをてこに、TOKIO・V6・KinKi Kids・嵐と、人気を拡大させていった。「ジャニーズ黄金期」はその成果だ。
「長寿アイドル」にとっての40代
だが同時に、今回のV6の解散は長寿アイドルにも限界があることを示唆している。
90年代デビューの5組では、今後も活動を続けるのはTOKIOとKinKi Kidsのみとなった。TOKIOは2人のメンバー脱退や子会社化もあり、音楽以外の活動を中心としている。完全体でのグループは、KinKi Kidsのみということになる。V6も、現在行われているコンサートツアーを除けば、2017年が最後のツアーだった。
SMAP・V6・嵐のメンバー16人の解散および活動休止時における平均年齢は、42.3歳となる。V6では、メンバー最年長の坂本昌行はこの夏に50歳を迎えている。
一般社会でも、管理職や中間管理職になる年齢だ。中年になって、アイドルグループではなく個人の活動を優先したいと思うのも、けっして不自然ではないだろう。「長寿アイドル」とは言え、40代は彼らにとって大きな転機となっているのは否定できない現実だ。
前向きで穏やかな解散
思えば、V6は他の90年代デビュー組と比べると、グループとしてはあまり強い印象を残さなかったかもしれない。SMAPや嵐ほどの爆発的な人気はなく、TOKIOやKinKi Kidsのような強烈な個性もない。
ただ、ツアーが2017年まで大きなホールで行われていたように、決して不人気だったわけでもなく堅実に活動をしてきた。
それもあってか、メンバーたちは伸び伸びと個人活動をしてきた印象も強い。
岡田准一は日本を代表する俳優となり、井ノ原快彦は番組MCとしてNHKの朝を長く任された。森田剛も30代半ばを過ぎたあたりから性格俳優として独特の存在感を発揮し始め、今回の解散も「ジャニーズ事務所を離れた環境で役者としてチャレンジしたい」という彼の意向を他の5人が受けたものだ。
ジャニーズ事務所にとってのV6は、90年代デビュー組のなかでは目立たなかったかもしれないが、その安定感こそが最大の貢献だったかもしれない。メンバー離脱や大きなトラブルはなく、26年を堅実に駆け抜けたからだ。彼らはまぎれもなく「ジャニーズの優等生」だった。
そうしたことを踏まえると、今回のV6解散は前向きでさっぱりとした印象を漂わせている。この穏やかな幕の引き方こそが、なんともV6らしい。ファンは解散を悲しみながらも、メンバー個々の将来を考えて優しく見送るはずだ──。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
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