「フォートナイト」の削除を巡るエピック対アップルの行方は ビジネス視点から考える
世界の登録プレーヤー数が3億5000万を突破した世界的人気ゲーム「Fortnite(フォートナイト)」が、アップルの「App Store」と、グーグルの「Google Play」の両アプリ配信サービスからダウンロードできないようになりました。それでも同作を手掛けたエピックゲームズは引く構えがありません。対決について、ビジネスの視点から考えます。
◇プラットフォームとゲーム会社 対決の構図
フォートナイトの削除については、多くの記事が既に報じる通りです。
【参考】米アップルに反旗 「アプリ販売を独占」 人気ゲーム「フォートナイト」開発元が提訴(東京新聞)
エピックの不満は、アップルのプラットフォームでゲームを展開するとき、売り上げ(ゲーム内課金)の30%を手数料にするのは高すぎるというものです。そして、対決のきっかけは、エピックがスマホ向けの課金システム「エピックディレクトペイメント」の運用を始めたことです。同作のホームページにある発表文からは、手数料への強烈な不満が伝わってきます。
エピックの行動について、アップルとグーグルは「規約違反」とみなし、「App Store」と「Google Play」からフォートナイトがダウンロードできなくなりました。するとエピックは、独占の差し止めを求める訴訟をアップルへおこすとともに、アップルを批判するパロディー動画を公開しました。
世界に冠たるアップルとグーグル、世界的なゲーム会社であるエピックが対決する構図ですから、一般メディアからも注目されるのも当然と言えます。
◇手数料30%は妥当? 判断難しく
さて今回の問題は原則、契約の話なので、第三者的に「どちらが正しいか」という判断は難しいところです。契約ですから、相手次第で条件が変わりますし、「他へ口外しない」などの条項もあっても不思議でありません。
そして「手数料の30%」ですが、妥当な金額かは、何とも言いようがないのです。「契約だから、履行するのが当たり前」と言う考えも一理ありますし、「30%はゲーム業界の慣習」と言えばそうです。ただし慣習が必ず正しいわけでもありません。そして普通のビジネスで言えば、「売り上げ30%の手数料」というのは、なかなかキツイところではあります。そしてアップルとグーグルのプラットフォームが独占的な地位にあるため、普通の契約ではない……というのもその通りでしょう。
もちろんアップルにも言い分はあるでしょう。スマートフォンという、世界的なインフラになったプラットフォームを、安全に運営していくためには、アプリの審査をはじめ、多額のコストがかかります。ただし手数料を30%にした根拠は判然としません。ちなみに私が取材する限りでも、アップルへの不満はよく聞く話で、手数料の高さに不満を漏らしたり「仕方ない」とあきらめのコメントをする人はいても、「安い」「妥当」と言う声は聞いたことがありません。
そしてプラットフォームと、ゲーム会社では、前者が圧倒的に強い立場なのは言うまでもありません。後者が手数料の引き下げを望んでも、前者にとっては減益だけで直接的なメリットはゼロですから、取り合うはずがありません。主張が受け入れられないと考えたエピックが、フォートナイトを使って実力行使に出るのは、理由があるわけです。エピックからすれば、手数料が数パーセント落ちるだけで、莫大なカネが転がり込んでくるわけですし、リスクよりもメリットが大きいのであれば、勝負するだけのことです。それもまたビジネスです。
ただエピックがアップルより弱い立場であるのは確かですが、エピックは世界的なゲーム会社であり、ソニーから約270億円の出資を受けるほど評価されています。だからこそアップルに対して、このような大胆な手で異議を申し立てられたとも言えます。普通の会社ではできませんし、意地悪く言えば「金持ち同士のケンカ」と言えなくもありません。
◇現代はエピックの作戦勝ちも…
対決ですが、現段階では事前に策を練っていたエピックの「作戦勝ち」と言えるでしょう。フォートナイトが削除されると、待ち受けたかのように訴訟をし、アップルを批判する動画を即公開しています。またフォートナイトはマルチ対応なので、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)やPS4、PCからの新規ユーザーは獲得できますし、既に登録プレーヤー数「3億5000万」という強みもあります。また一般メディアも総じて、アップルに批判的な論調です。
アップルとグーグルは「GAFA(ガーファ)」と名指しされ、世界各国から「世界を支配・独占する企業」として各国(特に欧州)に「独占禁止法」関連でマークされています。エピックの強気の姿勢は、この流れがあってこそです。
そして、エピックが対決の一発目に「手数料の引き下げはユーザーに還元する」と公言したのも大きいでしょう。エピックの“大義名分”に対して、アップルとグーグルは、説得力のある反論ができていません。また「App Store」と「Google Play」の手数料もなぜか似たものであり、「競争原理が働いてない」と言われると痛いところです。
◇世界を巻き込む混乱の可能性も
ですが、アップルとグーグルも引くわけにはいきません。1%でも譲って手数料を引き下げれば、それが2%、3%の導火線になるからです。自社の経営計画はもちろん、最悪ビジネスモデルの崩壊を招く可能性があります。株主からも当然、経営責任を問われるでしょう。値下げをするぐらいなら、エピックの排除に出るでしょう。なぜかと言えば、手数料値下げのダメージの方が計り知れないことは明白だからです。かつ「独占禁止法」での戦いも苦しくなります。要するに落としどころが難しいのです。
また別の問題もあります。仮にエピックの要求通りに、手数料を下げたとしてどうなるでしょうか。言い換えれば「App Store」と「Google Play」の運営・審査のコスト、有料アプリが負担していた分は、新たに誰が負担するの?ということです。
運営を簡易化、審査をせずにコストカット……というのも手ですが、それはスマホの強みである安全性が脅かされることを意味します。とはいえ、アップルやグーグルも慈善事業をしているわけではありません。手数料を下げた損を自社でかぶるのは困るし、赤字になればより困ります。シンプルな解決策の一つは、ビジネスモデルをガラリと変えるしかありません。つまりコストの転嫁です。
転嫁の手段はさまざまですが、真っ先に思いつくのは、無料アプリにも相応の運営コストを背負わせることでしょう。そうなると、スマホの無料アプリを活用している世界中の企業の混乱を招くことになりかねません。ルール変更がされるわけですからね。つまりゲームビジネスの問題では終わらない可能性があるのです。
ともあれ、優勢なエピックはイケイケでしょうし、アップルも簡単に引くとは思えません。もちろん、突然和解する可能性もないわけではありませんが、和解の内容次第では、次の騒動の発火点になることも考えられるわけです。何よりエピックは、あれだけアップルを強烈に批判していますから、攻撃をやめるときは、ユーザーに呼びかけをして巻き込んだ手前、相応の理由が必要になります。場合によってはエピックに火の粉が飛びかねません。総合すると、泥沼の戦いになる率が上がるのですが……。
いずれにしても今後も目の離せない案件と言えるでしょう。