サウジが1月出荷価格を引き下げ、アジアにも波及する価格戦争
サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは12月4日、アジアと米国向けの1月積み公式販売価格(OSP)を12月から引き下げると発表した。
代表的な油種である「アラビアンライト」の場合だと、アジア向けは12月から1バレル当たりで1.90ドルの引き下げとなり、同地区のベンチマークとなるドバイ・オマーン産原油に対して2.00ドルのディスカウントとなる。12月は、米国向けを値下げする一方でアジア向け販売価格は逆に値上げしていたが、いよいよアジア地区でも原油価格の値下げ圧力が本格化することになる。米国向けOSPも1月積み分は0.70ドルの追加引き下げとなる。国際原油相場が急落する中で、サウジアラビアとしては「安値にブレーキを掛ける」のではなく、「値下げでシェア維持・拡大」を志向していることが強く窺える状況になっている。
これは、11月27日の石油輸出国機構(OPEC)総会で原油需給調整を見送ったことで原油相場が急落した後も、サウジの産油政策は特に大きくは変わっていないことを示唆している。いわゆる「価格戦争」が繰り広げられているとの市場観測を裏付ける動きと評価でき、12月4日のNYMEX原油先物相場は2009年9月25日以来の安値を更新している。
サウジアラビアは、「スウィング・プロデューサー(生産調整国)」として長年にわたって原油需給・価格コントロールを担ってきた。しかし、世界的な需要拡大ペースの鈍化とシェールオイルなど非在来型原油の大規模増産で、もはや単独で需給調整を担う意思も能力も有さなくなり始めている。原油価格形成は、従来のOPEC主導の需給・価格管理体制から世界全体で原油価格水準が生産量を調整する市場経済体制へと移行しており、この過渡期の原油価格は大きく揺れ動いている。
サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相はOPEC総会に先立って、原油価格は「自動的に安定する」と市場原理に委ねる考えを示していた。まさにその発言通りに原油価格の安値誘導でシェールオイルやオイルサンド、深海油田などのタイトオイル、更には他の伝統的産油国に対して勝負を挑んだ形になっている。
もちろん、サウジアラビアとしても無制限の原油安を容認できる訳ではないが、サウジ石油政策筋によると現在も原油価格は市場が決定すべきとの見解は変わっていない模様。誰が過剰供給という需給バランスの歪みを是正するのか、原油安で白旗を揚げる産油国を探す時代が続くことになる。
これは、従来は消費国から産油国側に流れていたマネーの一部が、消費国内に滞留することを意味する。世界経済の減速懸念が強まる中、産油国からの「ボーナス」がアジア地区にも本格波及することになるだろう。その一方で、脱デフレ政策にとってはネガティブな動きであり、日本銀行は一段と難しい政策判断を迫られることになる。