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「共感」型記事は新聞紙面に必要か――「18歳選挙権」の記事を事例に

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

新聞紙面に、新聞離れが進む若年世代の取り込みなどを目的に「共感」型記事を目にすることがある。ここでいう「共感」型記事とは、書き手である記者の属性や個性を全面に出し、読者の共感をいざなうような記事のことである。

事例があったほうがイメージしやすいと思うので、まさに昨日の紙面を例に挙げてみたい。

一昨日、選挙の資格年齢を従来の20歳から18歳に引き下げる、いわゆる「18歳選挙権」が成立した。

それを受けた、朝日新聞の6月18日付朝刊は、1面の真ん中に「18歳になる あなたへ」という記事を配置している。

そこでは、いわゆる重鎮の記者が、自身のキャリアを含むバックグラウンドを明示しながら、以下のように記している。

政治ってなんだ? 憲法、安保って?と身構える必要はない。迷った時はみんなで話をしよう。

(中略)

制服やジャージー姿のみなさんが、投票所で一票を投じている。そんな光景を見ることができる来年がたまらなく待ち遠しい。

これは著名なコラム欄「天声人語」ではない。社会の公器といわれてきた新聞紙面の、しかも1面の特設記事である。なお同日付けの「天声人語」にも、同じような語調で、同じ主題を扱っている。

一票をポケットに入れることは、未来を選び、国や地方のあり方を決める権利を持つこと。臆せず、白けず、社会とかかわってほしい

これらの(半分、寝惚けた)メッセージは誰に向けて、誰の共感を呼ぶために書かれて、その目的は達せられたのだろうか?

確かに感情的にはわからなくはないが、いちいち新聞紙面を通して、上から目線でいわれなくてはならないものなのだろうか。

「天声人語」は定番モノなのでさておくとして、一面の真ん中でこのような、なんら新情報を含まないエッセイを2度も展開されたところで、まともな現役世代なら、いっそうシラけるだけではないか。

特段、新情報や解説が含まれていないなら、ネットの速報で十分だ。最近はプッシュ通知で、ニュースアプリから重要なニュースは速報で送られてくる。新聞よりよほど速い。新聞紙面を代表する1面が、とくにそれらのニュースと比べて新情報を含まないなら、なおさら現役世代は新聞紙面を読もうと思わないのではないか。

朝日新聞社の名誉のために断っておくと、この主題を1面に持ってきたこと、また他の記事で制度変更の解説なども行われていたことは付け加えておきたい。

新聞紙面に求められているのは、情報が溢れている時代だからこそ、情報を取捨選択して、複雑性を縮減し、ときに批判しながら、「適切に」新情報を伝えられることではないか。ちらと耳にするところによれば、こうした「共感」型記事は、意図的に書かれているとも聞く。しかし、紙面で「共感」を呼ぼうとして出てきているのは、重鎮級の、男性の、おそらくは内容からしても年長世代である。内実はあまりに旧態依然としていて、これで、なぜ、新聞の新しい読者の共感や、新読者の開拓が可能と考えられるのだろうか。

この問題の反面教師として、今は姿を消した、まさに同社が手がけていた総合雑誌『論座』の晩年を振り返ってみればよいと思う。若年世代の論壇離れを危惧して、判型を小さくしてみたり、カラフルにしてみたり、若年世代の論者を発掘したりと、いまの新聞紙面と同様の「試行錯誤」に、2000年代前半に取り組んだ。その「成果」は、推して知るべしである。特段、新しく若者の支持を得ることなく休刊したまま、現在に至る。この教訓は、同社だからこそ活かしたほうがよいのではないか。

果たして、「共感」型記事は必要か?また共感を呼ぶのだろうか。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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