新聞とインターネット広告がプラス、雑誌は3割強の減(経済産業省広告売上動向2021年3月分)
新聞とインターネット広告がプラスを示す
経済産業省が先日発表した「特定サービス産業動態統計調査」の結果によれば、2021年3月分の日本全体の広告業全体における売上高は前年同月比でプラス0.6%となり、増加傾向にあることが分かった。主要業務種類5部門(4マスとも呼ばれる4大従来型メディアである新聞・雑誌・テレビ・ラジオと、新形態の広告媒体となるインターネット広告)では雑誌・テレビ・ラジオがマイナス、新聞・インターネット広告がプラスを示した。下げた部門では雑誌が一番下げ幅は大きく、マイナス31.6%を示している。
今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものではない。また前回月分からの動きが確認しやすいよう、2021年2月分のデータも併せてグラフに反映している。
ここしばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、今回月では新聞のみがプラスを示した。
2015年以降4マスは概して軟調が続いている。特に紙媒体の新聞と雑誌は下げ基調が止まらず、今回月の2021年3月分に至っても、2015年以降でプラスを示した月は、雑誌では2015年4月に示したプラス2.5%、新聞では2017年10月のプラス9.5%と2019年1月のプラス1.2%、2019年7月のプラス3.3%、2019年9月のプラス0.4%、そして今回月の2021年3月と、合わせて6回のみとなっている。
2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が22回、雑誌は36回。1年分を超えてもなお前年同月比でマイナスが続いているのは、単なる反動を超えた、中期的な下げの中にあることを意味している。さらにいえば今回月の新聞のプラス4.0%は、前年同月となる2020年3月における前年同月比がマイナス21.5%と大きく下げたことの反動以上のものではない。
一方、インターネット広告はプラス15.6%と前回月から続きプラスを示す形となった。新型コロナウイルス流行による経済活動萎縮の影響はインターネット広告への出稿にも生じていたが、回復の動きも他部門と比べて力強いものがあり、今回月では一般広告も含めた全部門で最大のプラス幅を示している。
他方、4マスとインターネット「以外」の一般広告(従来型広告)の動向は次の通り。
全部門で最大の下げ幅を示した海外広告だが、金額は約41億円。売上高合計にはさほど影響は与えてはいないと思われる。
インターネット広告は新聞の約5.13倍
部門別の具体的売上高は次の通り(億円単位における小数点以下は四捨五入しての表記となる)。
ここ数年で新聞とインターネット広告の金額的な立ち位置は逆転してしまった。現時点では2014年1月を最後に、毎月の新聞の広告費の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、金額面で主要業務種類5部門の上位順位はインターネット広告・テレビ・新聞の順となっている。
今回月では両者の金額差は約1176億円。約5.13倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約334億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今回月も前回月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。
次のグラフは主要5部門、そして売上高合計(主要5部門以外の広告も含むことに注意)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査でインターネット広告の金額が調査されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。
雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額が漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては想定しがたいので、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されているようだ。
昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいもののインターネット広告が確実に上昇基調(プラス領域)の中にあり、他の業種とのかい離が生じていたこと、テレビがプラスマイナスゼロ付近でもみ合いをしていたのが分かる。ラジオも似たような動きだったが、2017年初頭あたりから失速したようだ。
2015年に入ってから4マスの軟調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる。2014年同月からの反動でもなく、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できない。とりわけ新型コロナウイルスの流行による影響を大きく受けているように見える。
他方、インターネットも2017年以降伸び率がやや頭打ち、むしろ低下を示している。特に2019年10月以降は低迷感が否めなかった。消費税率引き上げ、そして新型コロナウイルスの流行によるものだろう。そして前年同月比でみる限りでは、新型コロナウイルス流行による広告費の減少ぶりは、リーマンショックのそれに等しい、むしろ下落期間が短い分だけ急降下な動きであることが確認できる。雑誌に限ればリーマンショック以上の下げ幅。そしてインターネット広告もともに大きく落ちていただけに、全体としてもより大きな下落といえる。
ここ数か月の持ち直しで早期にプラス圏に転じ、さらに新型コロナウイルス流行前の基準に戻り、さらには成長しているようにすら見えるインターネット広告が救いではある。
■関連記事:
【諸外国の人たちが信頼を寄せているのはどのような組織・制度なのか】
【電通推定の日本の広告費を詳しくさぐる(経年推移)(2021年公開版)】
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。