諸外国の人たちが信頼を寄せているのはどのような組織・制度なのか
新聞・雑誌やテレビへの信頼度が高い日本
構成企業や実際に働いている人達の素質、制度や社会文化、過去の歴史などにより、各国で制度や組織に向けている信頼は大きな違いを見せる。世界規模で価値観の動向を調査している「World Values Survey(世界価値観調査)」の結果を元に、日本内外の動向を探る。同調査は5年単位で実施されているが、今回精査するのは2010年~2014年を調査期間とした最新のデータによるもの。
それぞれの組織・制度に対して選択項目に「非常に信頼する」「やや信頼する」(以上肯定派)「あまり信頼しない」「全く信頼しない」(以上否定派)「わからない」(その他に結果として「無回答」が生じ得る)が用意されているが、このうち「非常に信頼する」「やや信頼する」を足し、「あまり信頼しない」「全く信頼しない」を引くことで、信頼度(DI値)を算出する。この値が大きいほどその国では対象が信頼されている事を意味する。
まず最初に示すのは日本を対象とした結果。もっとも信頼されているのは選択肢中では「裁判所」という結果となった。
「新聞・雑誌」「テレビ」の信頼度が高いのが目に留まるが、他にトップの「裁判所」以外では「自衛隊」や「警察」の信頼度も高い。これら「公的実力行使組織」への信頼度の高さは世界共通だが、自衛隊・警察共に日本は諸外国でも比較的高いポジションにある。
また「宗教団体」への信頼度が異様なまでに低いのも注目に値する。これは日本では無宗教者が多いこと(行事参加的にはむしろ多宗教者が多いとも考えられるが)、影響力が限定されていることなどが要因。また悪質な新興宗教団体が引き起こした事件が相次ぎ発生し、報じられるのも小さからぬ要因。
行政機関(行政、政府、国会、政党)などの信頼度が押し並べて相当量で低いのも日本の特徴。これは不祥事が相次いでいるのはもちろんだが(とはいえ不祥事は世界各国の行政機関共通の出来事)、それ以上に「異常値ともいえるほど信頼度の高いマスコミ」が反復する形で反体制的な(公明正大な視点とは異なる、理不尽とも受け止められる)主張を繰り返してきたのが、少なからぬ影響を与えていると考えられる。
なお日本の調査は2010年に実施されており、震災の影響は受けていない。「自衛隊」の値はそれでもなおこの高値を見せている。次の調査期間にはどのような値が出るのか、注目したい。
米中韓の動向を探る
今調査の対象国すべてを取り上げたのではきりがないので、次にアメリカ合衆国、韓国、そして中国に的を絞り、同じような手法で計算した結果をグラフにする。まずはアメリカ。ディア先進国でもあり、従来型メディアへの信頼度が低いことでも知られている。
「警察」、そして「国軍」への信頼度が極めて高い。これはくだんの「9.11.」に始まる愛国心の高まりが反映されているものと思われる。また、「●×団体」のような各種民間団体の値が高いのも特徴の一つ。良しにつけ悪しにつけ、民間による自主活動が進んでいる結果ではある。
他方従来型メディア以上に「国会」や「政党」に対する信頼度は低い。「政府」はまだそれらよりもマシだが、マイナス値には違いない。また本部が置かれている国にも関わらず、「国連」の信頼度がマイナス、しかもかなり大きめなのは意外ではある。
続いて韓国。
意外にも最高値の信頼度を見せたのは「銀行」、そして次いで「国連」が続いている。今の国連事務総長が就任したのは2007年で、それ以降の調査であることから、それが多分に影響しているように思えるが、過去のデータを参照しても似たような値を示している。元々韓国では国連に対する信頼度が極めて高いことが確認できる。また、「大学」や「慈善団体」への信頼度も高く、「国軍」はそれに続く程度に留まっている点にも注目したい。
大よその組織に対する信頼度は高いが、「政党」と「国会」は別。「政府」や「行政」がほとんどプラスマイナスゼロであることと比べると、この信頼の無さには不思議感を覚えさせる。
最後に中国。共産圏、そして一党支配の国という実情を知れる結果が出ている。
「政府も国会も軍隊も政党もみんな信頼のおける、ハッピーパラダイスな国家」。一言で表現するとこのような形になる。それでも「宗教団体」がマイナスなのはこの国らしい。一方で、数字をそのまま受け止めても良いのかどうか、そしてこのような結果そのものが「信頼度」の総値として適切なのか否か、色々と考えさせられる。例えば「政党」なら事実上一党しか選ぶものがないため、まさに「イエスかハイか」を選択させられているようなものとなるからだ。
また、今回取り上げた諸国の中では「分からない」への回答率が高いのも特徴的。中には「国連」のように47.3%を示すものもある。これもまた、中国らしさというところか。
なお今回分の調査期間は2010年~2014年を対象にしており、中には日本のように2010年に調査を実施した国もあるため、現在ではかなり心境が変動している可能性がある。特に金融危機における経済状況の変化、インターネットの普及を起因とする情報伝達スピードと量の加速化、各種国際情勢の変化などにより、各組織・制度の権威が変動していることは容易に想像できる。
しかしながら、これらのデータを読み解くことで、各国が持つ根本レベルでの組織・制度に対する思惑や認識は、大体の範囲でつかみとれるに違いない。
■関連記事: