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BBCの人気ダンス番組で傷を負った、元パラリンピック選手の悲哀 経営陣トップは謝罪

小林恭子ジャーナリスト
BBCのダンス勝ち抜き戦の番組画面(BBCサイトからキャプチャー)

 英国の公共サービス放送「BBC」が23日、最新の年次報告書(2023ー24年)を発表した。

 1年間の功績を発表する日となるはずだったが、BBCニュースのウェブサイトを見ると、ダンスの勝ち抜き戦の番組「ストリクトリー・カム・ダンシング」について「トップが謝罪」という記事が大きく報道されている

 プロのダンサーと芸能人・著名人がペアになって踊り、審査員の評価と視聴者からの投票によって優勝者が決まる、超人気番組「ストリクトリー・カム・ダンシング」。注目度は大きく、勝つためには厳しい練習をする必要がある。そこで、プロのダンサーの何人かが芸能人を叱咤激励するわけだが、ついついやりすぎることもあるようだ。

 ただし、そのような厳しい練習や心身へのプレッシャーは、これまでほとんど表に出てくることはなかった。

女優たちの苦情

 ところが、去年の秋から、男性プロとペアになった女優たちが続々と苦情を表明するようになった。

 今のところは女優2人がそれぞれの男性プロについての不満を述べ、この2人のプロは今年秋からの番組には出場しないことになった。

 女優らは相当の心理的打撃を受け、これを口に出せば、ソーシャルメディアなどで攻撃される、あるいは自分たちの経歴に悪影響が出るのではという懸念から、これまで公言してこなかったのである。

 いずれの場合も、BBCの監督責任が問われる事件である。

パラリンピック選手の悲劇

 しかし、こうした女優たちの苦情噴出に加え、非常に大きな犠牲を払った一人が2016年のパラリンピックに出場し、卓球の金メダルを取ったウィル・ベイリーさん

 彼は関節が永久的に固まる関節拘縮症を持ち、四肢の動きに制限がつくものの、これを克服して金メダルを得て、2017年には英国の勲章(MBE)までも授けられている人物だ。

 2019年、ベイリーさんはプロの女性ダンサー、ジャネット・マンラーラとペアになって、「ストリクトリー」に参加。

 この時、練習で事故にあった。準備されたテーブルから飛び下りるように言われたものの、ベイリーさんは安全に着地する自信がなく、ためらった。彼のコーチも危ないから飛び下りない方がよいと言ったという。

 しかし、その場にいた制作チームの全員が大丈夫と言い、パートナーのマンラーラも飛ぶように言ったので、思い切ってトライ。1回目は大丈夫だったが、「まずい飛び方」とマンラーラに言われて、再度挑戦。この時、着地の瞬間にするどい痛みを感じたという。

 その場では応急処置で済まされ、病院に行ったのは2日後になった。靭帯が裂けてしまうほどの深い傷を負ったベイリーさんは、昨年、膝の再建出術を受けている。

BBCからの支援薄く

 ベイリーさんによると、BBCからの支援はかなり手薄だった。

 傷を負ったために番組への参加を取り止めざるを得なくなったが、後にBBCに連絡を取ると、「大げさなことを言っている」ように扱われたという。

 障害のある人がこの番組に参加する時にはもっと支援が必要だという手紙をBBCに送ったが、期待するような答えは得られなかった。

 年次報告書の発表で記者会見に出た、BBCの経営陣トップ、ティム・デイビーは「ストリクトリー」での不祥事を謝罪すると同時に、ベイリーさんの発言に対しては「ドアはいつでも開いている。BBCに改善できることがあると思う人は来てほしい」と述べている。

 BBCは先の女優2人の件を受けて、ダンスの練習時には必ずBBCの制作チームから担当者を同席させること、参加者が安心して番組に出演できるよう専門の担当者を置くことを約束している。

 BBCは、もっと何かするべきなのではないか。少なくとも、経営陣らはベイリーさんに直接会って、謝罪するべきではないか。取り返しがつかないことをしたのだから。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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