SDGsの姿勢「誰ひとり取り残さない」の「誰」は「何」を待っている?Part2
誰ひとりの誰、取り残される人に漠然とではなく向き合い、支えるだけでなく自分の夢を描き、実現したい、そして社会参画して支えあうやりがいを持つ。そういう「人間らしい仕事」で支えあう共生社会。この記事ではその実現のためにしっかりと向き合って活動しているパイオニアを4つのテーマでご紹介しています。Part1でご紹介したのは
1:情報社会で誰ひとり取り残さない~情報のカタチは文字、音声、画像、映像ですが~
続いてこのPart2では残り3テーマをご紹介します。
2:高齢者の社会性を取り残さない~築いた人生がながく輝くように~
3:子供の公正な成長を~誰ひとり取り残さない大事なスタート
4:つまずきからの社会復帰を応援する
多様な活動のほんの一部ですが、これを知ることであなたにとっての「誰ひとり取り残さない」が身近になるきっかけになればうれしく思います。
2:高齢者の社会性を取り残さない~築いた人生がながく輝くように~
高齢者と仕分けられると、軽く差別感を感じます。蔑称かもとも思います。社会を担ってきた高齢者。個人宅、施設など生活環境は違っても、世話される存在として待遇されています。世話しやすく、楽に過ごせることを優先し、服装・髪型などの身だしなみが失われていきます。でも年齢に関係なく、アイデンティティは見え方です。イキイキとハリのある暮らし方から社会参加・価値ある情報発信もできるはずです。
★プラチナ・ファッション・プロジェクト
日本のスタイリストの草分けの一人である佐瀬景子さんとオーガニックコットンのトップランナー「天衣無縫」ブランド(株式会社新藤)がタッグを組んで企画開発がスタート。プロデューサーとしてわたくしがシルバーではなくプラチナ世代をターゲットにとプロジェクト名を付けました。
佐瀬さんは言います。
「ファッションブランドがモード(流行・様式)という文化を作り、人生の美学を体現した世代は今、後期高齢者になってきました。しかしその豊かなファッション性はどこへ?社交的で自己主張するためのファッションではなく、楽に(世話する側の立場でも)過ごせる衣類になっています。見た目に老域を感じさせ、世話されるものと仕分けされて、本人も萎えてしまいます。世界に先駆けて高齢化社会となっている日本は、高齢者がアクティブな社会にならなければ存続できません。高齢者がいつまでも輝く。そのためにはファッションは必須アイテムです。」
高品質のオーガニックコットン、シルク製のアイテムを制作し、大手女性誌で販売開始。高齢者施設やコミュニティとの企画提案と対話を行ってきました。
しかしファッションに向ける支出が見えにくくなっています。経産省の経済解析室資料では高齢者世帯消費支出が民間最終消費支出の4割を占めるという平成27年のデータがあります。直近のコロナ禍に入って、全世帯衣類支出同様に減少と復帰を繰り返しています。天衣無縫ブランド開発者の吉原和美さんは言います。
「築いたステイタスと醸し出すオーラは決して失われていません。ふさわしい見え方を提供することが社会のチカラになります。コロナ禍ですごもりになっていると同時にリモート環境やSNS発信に加わる人が増加し、そこに映る自分を意識する方が増えているという弊社内の聴き取りデータもあります。」
写真でご紹介した製品シリーズは販売終了しましたが、コロナ後で行動も見せ方も変わってきたプラチナ高齢者との接触を求めて、出前で届けるファッションショーやアンテナショップを計画。高齢者を社会参画させたい他産業との連携も計画中です。
経済産業省経済解析室平成27年高齢者世帯の消費活動のインパクト
経済産業省令和3年家計調査報告P30を参照ください
★訪問美容師~見える自分にはヘアスタイルとメイクも必須。
わたくしが高齢者施設に伺って残念な思いを抱くのがファッションとともにヘアカットです。人は髪カタチよねと言っていた方々にふさわしいサービスをと訪問美容が広がっています。訪問美容の草分けのひとり、前川楓緒里さんの活動を紹介します。
向き合う施設、個人宅によって違いはあるけれど、共通するのは人と向き合うということ。施設なら介護担当の方とも向き合います。介護士、医師、看護師とそれぞれの職務をウェアや雰囲気が示しているように、美容師らしさがあります。それをさらに前川さんは考えました。利用者さんが安心して委ねてくれるような見え方はどうしたらいいか?試行錯誤してたどり着いたのが黒一色でスマートなシルエットのウェアと鮮やかな赤で統一したツール類。認知症の方もいらっしゃる利用者の方々にイメージを認識しやすいように、そして信頼できるように。利用者の方の日々の状態やストレスで対応に入れないこともありますが、目の前の雰囲気、所作を眺めるうちに落ち着きを取り戻し、整っていく自分の見え方に、自信を取り戻して笑顔が輝き、会話が弾み、周囲への気配りまで現れます。
若いときに聴いた音楽で認知機能が改善するという研究や映像作品もありますが、美容はそれを超えるものだと思います。大きな効果をもたらすものが大きな鏡。これも前川さんは必ず持参します。日常生活で容姿を確かめることが少なくなりがちですが、高齢になるほど自分を見ることこそ重要かもしれません。整っていく自分、会話する自分と対面するヘアカットの時間。人は見た目が90%と言われます。他人もそうですが、自分自身もそうなのです。そして仕上がったときの笑顔を見ることが前川さんにとっても最高の喜びです。わたくしとの情報共有やプラチナ・ファッション・プロジェクトとのコラボプランなども検討しています。人生の輝きをいつまでも。それは見え方から始まって終わるまでです。
3:子供の公正な成長を~誰ひとり取り残さない大事なスタート
★こどもプロジェクト~こどもといきるやさしい世界
Part1記事の冒頭に載せましたSDGs2030アジェンダの「3 平和で、公正かつ包摂的な社会をうち立てる」は子供の成長期に取り組むことが社会全体にとっても重要だと考えます。ダイバーシティ・ウェブマガジンcococolorにはその意義を持って運営されるこどもプロジェクトがあります。チームリーダーの海東彩加さんとメンバーでもあるわたくしで意見交換を行いました。
チームメンバーは社内外から広く集まり、子育てママ、パパはもちろん医療、文化、LGBTQ+共生など多様な視点から子供を取り巻く課題に取り組んでいます。この記事ではその中でも重大な課題と考えるバイアスに絞ります。偏見、刷り込みとも言いますが、日々が発見であり、特に言葉を学ぶ過程にある子供は、様々な情報から物や行動の定義を学んでいきます。身近な人の存在は情報源です。
例えば男の子らしく、女の子らしくという概念は男女の役割概念を作り出します。ジェンダーバイアスです。男児がピンクを選ぼうとすると、
「あ、それは女の子のよ」
と保護者が。たったこれだけでも男と女を区別し、それに当てはまるものも区別していきます。接する情報にも課題があります。童話やアニメで悪役にされがちな継母(ままはは)。やさしい継母を描くものはほとんどありません。「継母っていやな人だよね」と言われて母親の方が愕然とすることもあります。ジェンダーに限らず、バイアスとうまく付き合い、間違ったバイアスを刷り込まない配慮とともに一緒に考えることが必要です。ピンクの好きなおじいさんもいるし、障害のある人の活躍も親友として応援できる。解消しにくいいじめ、虐待の本質の理解・解消にもつながります。理解している大人や社会がきちんと寄り添っていければ、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)=多様さを公正な意識でみんなが作る社会を目指すネイティブな人材育成ができるはずです。
こどもプロジェクトでは、子ども自身が考えるワークショップや企業の課題をこの視点で考える提案をしているとのこと。そうです。受け身じゃなくてアクションすることがみんなに必要なのです。
参照 cococolor「子どもにまつわるジェンダーバイアス意識調査で見えてきたリアル」
筆者執筆育Gテーマ「だれもがプレイヤーなイキイキ家族チームに~家族のかたちの現在地⑤~」
4:つまずきからの社会復帰を応援する
多様な人が取り組む仕事づくりに近年注目を浴びているのが農福連携です。障害者等が農業分野で活躍することで、自信や生きがいを持って社会参加を実現していく取り組みと農林水産省ホームページ冒頭に書かれています。障害者以外には高齢者、生活困窮者そして触法障害者とあります。取り組みやすさ、達成感そして社会参画を生きづらさを感じている方々にという全国的な連携プロジェクトです。さらに農福連携等として関連分野への参画にも展開を開始し、自治体だけでなく企業やコミュニティでの事業立ち上げも始まっています。農業は入り口。対人行動が難しくても、農園で向き合う作物は癒しと成果を目の当たりにしてくれます。追求すればするほどに知見は蓄積され、指導スタッフへの成長も。安全な圃場で、安心して働き、その経験がやがてはだんだんと人との関係性もつむぎだせるのです。作業をきっちりと違うことなくやるのが得意な人。アイデアで新しいことを生み出したい人。やり方を教えるのが好きな人。多様な個性がどんどん生まれます。
見出しにあるつまずきからの社会復帰は、仕事や人間関係で引きこもりに陥った人がもう一度踏み出す力になっていること。そして罪に問われた人が罪を償ったあとに社会復帰する場として活用されて成果を上げています。
★共生社会を創る愛の基金と行政、活動団体の10年の成果
障害、特に知的障害、精神障害がある人が詐欺事件等犯罪に巻き込まれたり、冤罪をこうむったりすることもあります。そのような罪に問われた障害者支援こそが共生社会には必要と取り組み、そして活動団体に基金支援を提供してきた社会福祉法人南高愛隣会 共生社会を創る愛の基金があります。2012年設立から10周年になりました。国家的制度改革を働きかけ、草の根運動を生み、基金支援や啓蒙に努めてきました。筆者も企画委員の末席で微力ながら参加。新しいステップは親身な寄り添いによる再犯の防止そして社会の一員として仕事を持って、自信ある暮らしを創ってもらうことです。共生社会を創る愛の基金の支援の幅も拡がっています。
*誰ひとりとして取り残されずに社会に貢献できるように*
ご紹介してきた4つのテーマのパイオニアたち。いかがでしたでしょうか?情報社会での活動ではデジタルが苦手な人や機器を持てない人もいます。特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター(IGB)の伊藤芳浩代表は言います。「デジタル自体も最終的には人間のアクションと相互の理解から。」
団体名が意味する情報のギャップをなくす活動の成果は令和2年に公共制度となった聴覚障害者のための電話リレーサービスです。連絡相手と聴覚障害者の電話のリレーを通話オペレータが即時双方向で行います。開始後2年が経過しても伸び悩んでいる現状がありますが、超えていく啓発も、電話利用もみんなの理解から。これはすべてに言える基本です。
最後に。
記事は通り一遍な、いささか中途半端なものだったかもしれませんし、もっともっと紹介したい活動がそれこそ多様にあります。生きづらいひとはあなたのそばでも我慢しているかもしれません。その我慢に気づいて、一緒に考えてください。身近で言うと女性の活躍推進を国は求めています。女性の能力に下駄を履かせていいのか?という疑問があります。違います。下駄を履かせるのではなく、手に持ち、おんぶしている重荷をおろしてあげたいのです。我慢するのが当たり前、気づかなかったではなく。男性にはない身体の特性をいたわり、家事の「手伝い」ではなくて自分の「役割」にすること。これもその大事な一歩ですね。
自分自身も気づかずに取り残しているかもしれません。周りをよく見て、声を掛け合ってみましょう。
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