北朝鮮が超大型ロケット弾を一ヶ月ぶりに発射
11月28日午後4時59分ごろ、北朝鮮の東部にある咸鏡南道咸州郡、連浦から2発の飛翔体が日本海に向けて発射されました。自衛隊と韓国軍の発表によると水平距離380km、最大到達高度100kmの通常軌道で発射されています。翌11月29日の北朝鮮の発表で超大型ロケット弾の試験射撃だったと判明しました。
この飛行性能は前回10月31日に発射された超大型ロケット弾とほぼ同一です。これまで北朝鮮のミサイルや多連装ロケットの射撃試験では無人島が目標としてよく使われてきましたが、今回の北朝鮮の発表では無人島に着弾する様子の写真は発表されていません。無人島を目標とせず洋上に着弾しているものと思われます。日本の海上保安庁は発射の4分後に船舶に対してミサイル警報を出しましたが、日本のEEZ(排他的経済水域)外に着弾しています。380kmが最大射程とした場合、38度線ぎりぎりまで前進しても日本の領土や領海までは届きません。
なお韓国軍の発表では今回の発射は2発が30秒間隔で行われており、これまでの超大型ロケット弾の発射間隔より短く、連射性能を確認する試験だと考えられます。
弾道ミサイル扱いされる超大型ロケット弾
このロケット弾は推定直径600mmという世界最大のロケット弾で、並みの短距離弾道ミサイルと同等の直径の上に2倍以上の長さと重量を持ち、射程も同等以上を発揮できます。このことから形状は典型的なロケット弾であるものの、大きさと能力は短距離弾道ミサイルに相当するため、日本を含め世界各国はこの超大型ロケット弾を短距離弾道ミサイル扱いしています。
滑空飛行や複雑な機動は不可能
この超大型ロケット弾は最後部に折り畳み式安定翼、先端付近に小さな操舵翼を持ちます。この形式はアメリカのGMLRSから始まったもので無誘導ロケット弾を手軽に誘導型に改造できるので、中国なども真似をして世界的に広まっています。ただし先端部分の小さな操舵翼で出来ることは細かい修正だけで、飛行中に大きな軌道変更する能力はありません。また円筒形で長細いロケット弾の形状は滑空には不向きで、イスカンデル短距離弾道ミサイルのような複雑な機動はできません。
多連装ロケット発射機(4連装)
形状が典型的なロケット弾であるため前述のように複雑な機動はできません。その代わり弾体が細長い特性を生かして一つの車両に4連装発射機を積むことが可能になっています。弾道ミサイルでは一つの車両に1~2発搭載までが普通なので、多連装ロケット発射機として一斉攻撃を仕掛けることで数の多さで迎撃の突破を図ります。固体燃料推進なので発射準備には時間が掛からず4発を発射可能です。
しかし直径600mmのロケット弾は世界に類を見ない大きさです。並みの短距離弾道ミサイルより大きく、1発あたりの推定重量も4~5トンはあるでしょう。これはロシア製イスカンデル短距離弾道ミサイルよりも重い上に2倍の4発を搭載するので、発射車両に掛かる重量も2倍以上になり、5軸10輪の大型トラックが用意されています。逆に言えばこの発射車両への搭載数を減らせばもっと大きなミサイルを搭載できます。中距離弾道ミサイルを搭載できる貴重な発射車両に短距離弾道ミサイル相当の超大型ロケット弾を4発搭載しているわけですから、贅沢な使い方をしていると言えます。
発射車両はチェコのタトラ社製と推定され、5軸10輪の車両を新たに入手したか既に保有している4軸8輪の車両を5軸10輪に改造したものです。スイングアクスル式の独立懸架装置を持ち野外機動性が非常に高い大型トラックで、タイヤも一般的なトラックよりも大きなものを履いています。
北朝鮮2019年飛翔体発射 13回・25発
- 5月4日 イスカンデル短距離弾道弾×2
- 5月9日 イスカンデル短距離弾道弾×2
- 7月25日 イスカンデル短距離弾道弾×2
- 7月31日 大口径ロケット弾×2
- 8月2日 大口径ロケット弾×2
- 8月6日 イスカンデル短距離弾道弾×2
- 8月10日 ATACMS短距離弾道弾×2
- 8月16日 ATACMS短距離弾道弾×2
- 8月24日 超大型ロケット弾×2
- 9月10日 超大型ロケット弾×2
- 10月2日 北極星3号SLBM×1
- 10月31日 超大型ロケット弾×2
- 11月28日 超大型ロケット弾×2
※イスカンデルはロシア製の独特な発射方式まで忠実に模倣
※ATACMSは形だけアメリカ製を模倣して中身はイスカンデルの可能性
※大口径ロケット弾は推定直径約400mm。ただしモザイクで詳細不明
※超大型ロケット弾は推定直径約600mm
※北極星3号は潜水艦用の水中発射弾道ミサイル
※5月4日の発射は当初1発と推定、後日に2発発射(1発失敗)と判明
※9月10日の発射は3発発射されて1発失敗している可能性