令和の少女も、昭和に少女だった人も胸きゅん「111年目の中原淳一」@松涛美術館【東京都渋谷区】
『それいゆ』や『ひまわり』の可憐な画風で知られる中原淳一氏(1913-1983)。彼の生誕111年を記念して渋谷区立松涛美術館で開催中の「111年目の中原淳一」展に滑り込みで行ってきました。
今展のメインビジュアルになっているのは、2点とも『それいゆ臨時増刊』(1953年)の表紙を飾った画。クラシカルだけど、今見てもエレガントで新鮮。この抑制のきいた美意識は、まさに中原淳一の真骨頂。
館内の所々に等身大の中原淳一切り抜きスタイル画が優雅にお出迎え。
一緒に記念撮影もOKです。
私はこの美スタイルの横に並ぶ勇気がとてもなかったので遠慮しましたが…。
各会場の壁に書かれ中原淳一の言葉。この人は言霊も鋭く美しいのです。
“美しい楽しい暮らしは、他人に見せるためではなく、自分のために必要なのです”--今のSNSの世界への予言的な苦言なのかも…。
中原淳一は戦前に雑誌『少女の友』の挿絵や表紙画、編集を手がけて人気を博し、戦後は『それいゆ』『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』『女の部屋』などの雑誌を手がけてきました。会場にはそんな雑誌と共に貴重な原画がずらり。終戦からわずかの間に、こんなに凛と美しい表紙の雑誌が書店に並んでいたとは。今これが並んでいても、即ジャケ買いしてしまいますね。
雑誌の付録がまたおそろしく手が込んでいてかわいいのです!
『ひまわり』や『それいゆ』『ジュニアそれいゆ』には、女学生向けに普段の暮らしを美しく楽しむ提案も。↓これは戦後のタイニーな日本家屋のコタツ部屋なのに、まるでパリの屋根裏部屋のようなラブリーさ。これも淳一マジック。
今のようにモノが余って断捨離をする時代ではないので、モノを大切に慈しみ、お気に入りをコンパクトな空間に美しく収納する工夫が満載です。
中原淳一はインテリアもファッションも贅沢に飾るのではなく、神経の行き届いた美しさを尊びました。戦時中の“更生”や“つぎあて”にヒントを得たリメイクやアップリケの技法も、中原淳一の手にかかるとなんともガーリーにアップデート。豊かとは、本当はこういうことなのかも。。
着物や浴衣のデザインもタイムレス。時代を超えた少女の胸きゅんポイント!
中原淳一の原点である人形作品も、自分の古いセーターの端切れなどを活用して作っていたそう。ジャコメッティの彫刻とか、ルパン三世を思わせるシルエットです。
会場には、中原淳一が愛用していた暮らしの道具や画材道具も展示されており、そのひとつひとつに彼の美意識と慈愛が息づいていました。
中原淳一は1958年に渋谷区の代々木八幡付近の高台に自邸を構えて暮らしていたそう。百坪の土地に白亜の壁と赤いひさしが目を引く洋館で、邸内には吹き抜けのらせん階段があり、バルコニーからプールのある庭園を見下ろせたのだとか。浅岡ルリ子やペギー葉山などが撮影に来たり、観光バスが紹介するような有名スポットだったようですが、心臓発作で転地療養することになり、代々木八幡で長く暮らせなかったそうです。この邸宅、現存するならぜひ見てみたいものです。
残念ながら今展を見逃してしまった方に朗報です。公式図録は朝日新聞モールでも購入できます。↓こちらが今展の公式図録です(※そごう美術館と島根県立石見美術館で巡回された展覧会の図録と同じものです)
今展の図録と同じ内容の本を書店でも購入できます。書店で販売されている本はカバーデザインが少し違うけれど、価格(税込3300円)も中身も表紙のモチーフになった画(『中原淳一ブラウス集』扉絵1955年)も同じです。中原淳一の魅力が網羅されており、非常に丁寧に編集されているのでおすすめです。
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111年目の中原淳一
会期:2024年6月29日(土)~2024年9月1日(日)
会場:松涛美術館 東京都渋谷区松濤2-14-14