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思わずはっとする「空の発見」@松涛美術館11.10最終日!【東京都渋谷区】

Luna Subitowriter editor(東京都渋谷区)

渋谷の松涛美術館で開催中の企画展「空の発見」。あたりまえだと思って意識していなかったものが、不意に自分にぐぐっと迫ってくる――そんな感覚に見舞われるおすすめ展覧会です。11/10(日)が最終日なのでお見逃しなく。今展のコンセプトはこちら。

2階の第一会場は、ざっくりいうと 古来の日本美術にはあいまいだった「空」の表現が、西洋画の影響を受けたりしながら徐々に変貌していくゆらぎを観察できる作品が絶妙にセレクトされています。

右の絵は亀井竹次郎 石版「懐古東海道五十三驛真景」油彩原画より「蒲原驛 冨士川」1877年頃 郡山市立美術館
右の絵は亀井竹次郎 石版「懐古東海道五十三驛真景」油彩原画より「蒲原驛 冨士川」1877年頃 郡山市立美術館

洛陽洛外図の流れをくむ「京都名所図屏風」などは、空は金色の地や金色の雲形による定型表現が多く、写実的な空とは異なります。
下は江戸後期の春木南溟が描く「富士曼荼羅図」。こちらも、右に太陽、左に月という 現実ではありえない空の表現。

春木南溟「富士曼荼羅図」江戸時代 山梨県立美術館
春木南溟「富士曼荼羅図」江戸時代 山梨県立美術館

日本で空の表現が変わった原因のひとつは、西洋画の影響。日本伝統の顔料である群青が高価だったため、空の広範囲を塗ることが難しかったけれど、18世紀初頭にベルリンで発見された合成顔料プルシアンブルーの輸入により、浮世絵の表現がぐっと拡がったそう。あの葛飾北斎の「富嶽三十六景」も、プルシアンブルーがあったからこそ誕生したのだとか。

萬鉄五郎「雲のある自画像」1912年 (公財)大原芸術財団 大原美術館
萬鉄五郎「雲のある自画像」1912年 (公財)大原芸術財団 大原美術館

萬鉄五郎先生の有名な「雲のある自画像」も、「空」にフォーカスした文脈でみると、赤と緑の雲に込められた心象がますます謎めいてきます。この魂のような雲こそが己そのものであり、自画像はペルソナなのかもしれません。

第2会場は地下1階。この写真はホンマタカシ「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」幕張ベイタウン 千葉県 1995-1998(東京都現代美術館)。“郊外論”がかまびすしかった1990年代、東京郊外のだだっ広い空の下、ひと気のない団地群が超然と並ぶさまは、最近の中国郊外の無人の新築マンション廃墟群にもつながるような…。
第2会場では、空から宇宙に馳せる表現や、戦災・震災の廃墟から望む空、そして現代の空の多様な表現をとらえた珠玉の作品が見られます。

香月泰男「青の太陽」1969年 山口県立美術館
香月泰男「青の太陽」1969年 山口県立美術館

今展のアイコンにもなっている香月泰男の「青の太陽」は、シベリア抑留経験もある作者が旧満州の軍事訓練中に匍匐前進で這いつくばりながら、巣穴を自由に出入りする蟻を羨み、蟻になって巣穴から空を眺めていたいという思いを描いた油彩。深い穴からは、真昼の青空にも星が見えるのだとか…。

今展の図録
今展の図録

今展の図録表紙に使われている阪本トクロウのアクリル画「ディスカバー」2005年(山口県立美術館)は、絵画に意味性を求められる葛藤を超え、中空をテーマに「空っぽになれる」絵画を目指した作品。
その昔、電信柱をテキスタイルデザインにしたミナペルホネンの皆川明氏に驚いた記憶があるけれど、阪本氏の絵画の電信柱は、目線を画面の奥の空に引き込む装置らしい。この絵を眺めていると、不意に図地反転して広大な余白の中空に吸い込まれていく。

他に出色だったのは、CHim↑Pomの「BLACK OF DEATH」2007-2008年。カラスのはく製を掲げ、仲間を呼ぶ声を鳴らし、上空にカラスの大軍を率いて渋谷や国会議事堂前を疾走する映像を 今展に選んだセンスがナイス。

最後に、第二会場前に掲げられた松涛美術館を設計した白井晟一氏と磯崎新氏の空に触れた言葉を――


非常に奥の深い展覧会でした。
見逃した方は、中身の濃い図録(税込2000円)をぜひゲットして!
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空の発見 Discovering the Sky
2024年9月14日(土)~2024年11月10日(日)
渋谷区立松濤美術館 東京都渋谷区松濤2-14-14
午前10時~午後6時(金曜のみ午後8時まで)
入館料一般1,000円(800円)

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writer editor(東京都渋谷区)

奥渋在住20余年。旅、アート、インテリア、ウエルネス、映画、猫など多様なメディアに携わる文筆家。

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