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ワールドツアー上映開催「鬼滅の刃」の取り組みにみるアニメの世界展開における“変化”

小新井涼アニメウォッチャー
AnimeJapan 2022内展示(筆者撮影)

テレビシリーズ最新作「刀鍛冶の里編」が、2023年4月に放送開始となる「鬼滅の刃」。

その放送に先駆け、「ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」が開催されることが発表され、注目を集めています。

この上映は、劇場初上映の「遊郭編」第十話・十一話と、世界初公開となる「刀鍛冶の里編」第一話が、“ワールドツアー上映”の名の通り、世界80以上の国や地域にて順次劇場上映されていくというもの。

2019年以降のアニメシーンを大きく変えた本作ならではともいえる前代未聞の企画ですが、実はこうした「鬼滅の刃」による取り組みからは、昨今のアニメの世界展開における“変化”もみえてくるように思えます。

■「鬼滅の刃」による世界展開

そもそも日本国外にも多くのファンを持つ本作は、特に劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公開以降、世界のアニメファンに向けた様々な取り組みをこれまでも数多く行ってきました。

たとえば、劇場版の公開と共に配信された、花江夏樹氏をはじめ世界各地で本作キャラの声を担当するキャスト達による「声優ワールド対談」。

ほかにも、昨年開催されたAniplex Online Fest 2021内の配信でも紹介されていた通り、台湾では“全集中マラソン”なるマラソン大会が開催され、シンガポールでは本作のラッピングバスが、アメリカではラッピング列車がそれぞれの地域を走行したそうです。

日本では、そうしたイベントやタイアップはもはや日常茶飯事ですが、世界ではまだまだ“ニッチ”と取られることも少なくないアニメがこれだけの展開をしてきたというだけでも、本作がいかに世界のファンに向けても力を入れた取り組みを行っているのかが窺えます。

■これまでの世界展開からの変化:“日本と世界”から“日本も含めた世界”へ

そして、こうした本作における世界展開の大きな特徴として挙げられるのが、そうした日本国外での取り組みを、日本国内に向けても、積極的に情報発信しているところです。

もちろん「鬼滅の刃」以前も、海外でも人気のアニメ作品は沢山ありましたし、劇場公開やグッズの販売、コンベンションでのライブや声優トークショー等の世界展開も多数行われてきました。

ただ、そうした海外での展開は時差や言語、現地法人との兼ね合い等もあってか、日本は日本、世界は世界といった形で展開されることが多く、日本の作品公式やメディアで積極的に、詳しく、日本のファンにも情報発信される機会は今ほど多く無かったように思います。

しかし本作における上記展開は、従来同様、主に世界のアニメファンに向けたアプローチかと思いきや、YouTubeでの配信やTwitterの投稿を通し、日本語音声や日本語字幕等も併せて、日本のファンもアクセスできるよう紹介されてきたのです。

ネットを通じて、時差も距離も、言語も関係なく、情報の発信や収集、共有ができるようになった今では当たり前のことのように思えるかもしれませんが、5年程前のアニメシーンでは、そうした世界での取り組みが日本のファンもアクセス可能な形で積極的に発信されることは、やはり少なかったように思います。

SNSや配信による海外での更なるアニメの普及や定着の影響もあると思いますが、近年の急激な変化の背景としては、コロナ禍を経て“主に世界に”向けて行われていたイベントが、配信等を通して日本からもアクセスできるようになったことも大きいのかもしれません。

こうした社会的な情勢も後押ししてか、これまで“日本と世界”とでそれぞれ別々に行われていた展開が、近年は“日本も含めた世界”のファンに向けて行われるようになってきているようなのです。

実際に上記展開以降、近年は本作以外でも「劇場版 呪術廻戦 0」や「ONE PIECE FILM RED」他、作品公式等を通して、アニメの世界展開を日本でも目にする機会が益々増えてきています。

これまでそれぞれの国や地域で別々に盛り上がっていたファンの熱量が一体化し、世界規模のムーブメントとなっていけば、作品がこれまで以上の盛り上がりをみせていくことは間違いありません。

特に今回のワールドツアー上映は、“日本と世界”から“日本も含めた世界”という近年のアニメの世界展開の変化を色濃く反映した上で、そうして点と点を線で繋げて、世界的な面の盛り上がりも生み出し得る、先駆的な取り組みにもなっていくのではないでしょうか。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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