米国ストックトン大学、94歳のホロコースト生存者とホログラムで対話
進む記憶のデジタル化
第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。
現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。
あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。またホログラムなので生存者が疲れてしまうことや時間切れがないので、いつまでも質問に答えてくれる。
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。ホロコースト生存者が1000以上の質問に事前に回答しており、見学者が質問を問いかけると、音声認識で質問を判断し、あたかもリアルタイムに目の前にいる感じで回答をしてくれる。
あたかも目の前にいるように生存者とリアルタイムに対話
米国ニュージャージー州にあるストックトン大学では2020年2月に、ホロコースト生存者で94歳のEdward Mosberg氏のホログラムと、地元の高校生らが対話を行った。Mosberg氏は1926年にポーランドのクラクフで生まれ、13歳でゲットーに隔離され、母はアウシュビッツで殺害された。
ストックトン大学には「The Sara & Sam Schoffer Holocaust Resource Center」というホロコースト研究機関がある。学生からマウントハウゼン強制収容所に収容されていた時の食べ物について質問された時には、ホログラムの同氏は驚きながら躊躇いの様子を見せるなど、あたかも本人が目の前にいて対話をしているような風景だ。ホロコースト生存者のホログラムと対話して、ホロコーストに関する質疑応答を行った学生は「このプログラムは、ホロコースト生存者から多くのことを学ぶ良い機会だ」と語っていた。ニュージャージー州のホロコースト教育委員会のメンバーのStephen Draisin氏は「生存者の証言の一つ一つに物語があります。このような生存者から話を聞くことができるのは何事にも代えがたいことです。学生がホロコースト生存者から多くのことを学ぶことによって、反ユダヤ主義や民族差別や偏見がなくなることに期待しています」とコメントしていた。
USCショア財団のプログラム・ディレクターのKori Street氏は「我々のゴールは、全ての生存者と犠牲者に対して敬意を払うことと、ホロコーストに対する理解を形成してもらうことです。ホロコーストだけでなく、全世界のジェノサイドの生存者の証言が55000以上あります。私たちは、学生らに対してホロコーストやジェノサイドのような民族大虐殺の悲惨な歴史的な事件の生存者に対してセンシティブな質問をする時にも敬意をもって質問をしてもらい、歴史と生存者に接することを学んでほしいです」と語っていた。ストックトン大学ではニュージャージー州近郊の30の高校の学生にも来てもらい、ホログラムのMosberg氏と対話をしてもらいたいと伝えている。
戦後75年が経とうとし、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退している。いずれ生存者もゼロになる。そのため、ホロコースト生存者の体力と記憶があるうちに、彼らが当時、経験したことの「記憶のデジタル化」が進められており、ホロコーストの記憶を継承しようとしている。
▼米国ストックトン大学でのホロコースト生存者のホログラムとの対談の様子(Stockton university)
▼ホロコースト生存者で94歳のEdward Mosberg氏の証言インタビュー(南カリフォルニア大学)
▼2019年にホロコースト生存者の活動「International March of the Living」に参加するMosberg氏(International March of the Living)