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AV被害者立法  本当に被害者が保護されるために、被害者・支援者の要望に応えてほしい。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
NHK報道

■AV被害議員立法の動き

 成人年齢引き下げで、AV出演強要被害が増大することが懸念されるなか、国会での議論が進み、AV被害者を保護するための議員立法について与野党の協議が始まっています。

朝日新聞は以下のように報じています。

 4月から成人年齢が引き下げられ、18歳や19歳のAV出演契約が「未成年」を理由に取り消せなくなった。被害が増えるとの懸念が高まり、対策のための新法を与党が検討してきた。

骨子案によると、出演者は事前に承諾していても、撮影が終了した日から1年間は、無条件で直ちに契約を解除できる。

また、出演者の心身や私生活に将来にわたる重大な影響を与えるため、

(1)契約を結んでから20日間を経過しなければ撮影ができない

(2)撮影した性的動画の公表は撮影後3カ月を経過した後にする、

といったルールを明示する。ルールを明記した契約書を出演者に渡して説明しなかった場合、出演者が契約を取り消せる。

 さらに、無条件に契約を解除した場合でも、出演者は損害賠償や違約金の支払いを請求されないことや、映像の回収といった原状回復の義務をメーカー側が負うとの規定も盛り込んだ。

■ 支援団体の要求

 18歳、19歳に限らず、全年齢の被害者に保護を拡大するというのは歓迎したいですが、一方で、未成年者取消権保護が薄まるのではないか?という懸念があります。

 こうしたなか、連休明けの5月9日に支援団体などのヒアリングがあり、長年問題に取り組んできた支援団体のNPO法人ぱっぷすや、性暴力被害者の当事者団体である一般社団法人Spring、ヒューマンライツナウ などがこの機会にあわせ、法案の課題をまとめて要望書を提出しました。

要 望 書

2022 年 5 月 9 日

私たちは、AV 被害など若年層の女性への性暴力 ・性的搾取 の問題に取り組む団体です。支援団体 ぱっぷす によれば、 2 014 年~ 2 022 年 5 月 7 日時点で計 6 3 4件の AV 被害相談が寄せられてきましたが、 これまで 1 8 ・ 1 9 歳取り消し権以外に 有効な被害救済 制度 が 無かった結果、被害者は PTSD 罹患 ・自死など深刻な状況にあります。 A V 被害相談の大半は契約と称して 「性交」 が 強いら れており 心身の侵襲性は明白で す。これは 性暴力 であり 性的搾取 です。 AV 事業者による 人権侵害 の 根絶 をめざして 、 以下の通り、 有効な 法律の手当を 強く求めます。

1 定義・目的

・出演する者の「自由な意思決定」を「被写体となる者の」 「尊厳」または「人権」と修正すること 。

・法律名の 「性行為映像作品」を「性行為 画像 記録 」と する。

・「性行為画像記録」 の定義 を 、 「 人が性交若しくは性交類似行為を演じる 姿態 又は 性器等を触り、若しくは触らせる行為 、および暴行凌辱・残虐行為 等を演じる姿態 が撮影された映像を含む 記録 であって、 記録 全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するものをいうこと 」とする。

※ 性交 及び暴行陵虐行為 を目的とする契約は禁止すべきであり、その前提で定義を変更すべき。

※性器 を 露出 した画像記録 は 許されないので削除する。

2 未成年者取消権と同等の若年層保護の実現を

・18 ・ 19 歳 については、無条件、無期限の取消権ないし任意解除を導入すること 。

・20 歳以上についても、公開後 1 年ないし撮影後 2 年の任意 解除 権 を導入すること 。

3 確実に、被害救済(動画拡散の防止)ができる法制度とすること

・包括出演禁止と並んで、画像・動画の二次利用・譲渡の禁止を明記すること

・取消・解除をした場合、著作権法上の91条条2項、項、92条2項、92条2のの2項を適用除外することを明記すること(このことにより、被害者の被害者の実演家の権利(著作権法91条))が復活し、著作権法による差し止め請求が可能となり、海外の被害での対応も可能となる海外の被害での対応も可能となる)

・解除において、民法545条(第三者保護))を適用除外すること

4 禁止事項

下記行為は禁止すること

・性交、口腔性交、肛門性交、性器への物の挿入

・暴行陵虐行為 (虐待・人道に反する屈辱的行為)

・性器が露出した映像性器が露出した映像((無修正無修正))

5 罰則および拡散防止措置

・本法に違反する行為に罰則を導入すること。

・本法に違反して公表された記録((契約書交付義務違反を含む)については、リベリベンジポルノ法(私事性的画像記録の提供被害防止法)を適用しし、公表主体を処罰すること

・リベンジポルノ法の拡散防止に関する規定を適用して拡散防止すること

・被写体となる者は、公開後、一定の要件のもとに公開の停止を求めることができること

6 相談支援体制

・相談支援体制については、国が責任をもって、都道府県・関係機関・民間団体と法律成立後すみやかに協議し、体制整備を行うこと。

・相談支援は民間団体との協働によって行い、民間団体に財政援助等必要な必要な支援を行うこと。

7 見直し

2年後に見直しを行い、関係機関及び民間団体の意見聴取を行うこと。

以 上

NPO法人ぱっぷす、 一般社団法人 Spring 、国際人権 NGO ヒューマンライツナウ 一般社団法人 Colabo 、 NPO 法人 BOND プロジェクト 、一般社団法人若草プロジェクト

 以上のうち1は、出演した人に自己責任を課す現在のAV被害の実態をそのまま維持してはならない、また、性交を契約によって強制することを国家が容認するような法律にしてはならない、その点がそうでないことを明らかにすべき、という問題提起で、若年女性を支援してきた支援団体の強い問題意識によるものです。

 2は、未成年者保護と同等の取消権を創設する上では欠かせない提案です。撮影後1年しか解除期間がなければとりわけ18歳、19歳については、現行法より逆行し、取り返しのつかない被害を生む可能性があり、期間を延長することが極めて重要です。

 3、5は、せっかく制度を作っても、抜け穴があると結局被害者を救済できないということで、これまでの被害救済の経験に基づいた切実な提案です。

 インターネットを通じて転々流通し、海外も含めて拡散し、被害者を苦しめ続けるオンラインの暴力を防止するために、無断での二次利用・譲渡の禁止、著作権法上の実演家の権利の回復、拡散防止、ブロッキングなどを提案しています。

法律上明確にどうすれば被害救済できるかが明確であることは、被害救済の生命線です。

 4は、AVで実際の性行為をする、排泄物を食べさせる、暴行するなどの過酷な実態があり、それが女性たちの心身に極めて負担が大きく、深刻なトラウマを与えているため、そうした人権侵害行為が許されないことを明確にする必要があると痛感します。

 7ですが、成人年齢の引き下げを受け、非常に速いスピードで法案作業が進んでいるため、早期に見直して積み残し課題に対応してほしい、という要請です。

 ヒアリングでは、当事者の方が出された声明 も配布されました。こちらにはさらに、医療、トラウマケアなど非常に重要な当事者の視点が指摘されています。

今後の見通し

 ヒアリングでは、「今国会でどうしても成立させ、一歩前進してほしい、そのためにも要望に真摯に向き合うべき」という団体からの意見表明(ヒューマンライツ・ナウ、Spring)があった一方、「上記要望のすべてを受け入れない限り、法案に反対する」という見解を示す団体もあり、要望書に示された私たちの要求がいかに切実なものかを示す機会になりました。

 午後に行われた与野党ヒアリングではAV事業者団体も招聘されており、強く違和感を感じました。苦しんでいる女性たちの陰で巨額の利益を得ている実態が伝わり、「自主規制」の実効性の有無について支援団体との間で激しいやり取りが交わされました。

 こうしたヒアリングを踏まえ、被害の深刻さ、複雑さ、業界の進めてきた自主規制では到底十分でないことが改めて明らかになったと思います。

 一方、業界団体であるAV人権倫理機構は、18歳、19歳をAV出演させることは犯罪とすべき、(AVで実際の性交を行うことを禁止するとの提案について)法律ができればそれに基づいてやる、と回答しました。

 支援団体の要望書の提出、ヒアリングの効果は大きく、与党はヒアリングの結果も踏まえて、現在の骨子案を修正する準備にただちに入り、今日から与野党の協議になるとのことです。

法律上の被害者保護に「すきま」をつくる立法府の怠慢はこれ以上許されない。

 今回の動きの原点はどこだったかと言えば、若年被害者の保護が4月からなくなってしまうことへの危機感でした。

 既に成人年齢が4月に引き上げられ、現在進行形で18歳・19歳の被害が生まれていることが本当に懸念されます。

 業界団体は20歳以上の出演者にすることを強く推奨、としているものの、例外も容認することを通達に明記しています。

 これまで取消権で守られていた18歳、19歳が法律によって守られなくなるという若年女性保護の「後退」を立法府が漫然と容認することがあってはなりません。

 今通常国会で、少なくとも18歳、19歳の被害者保護の答えを出す法律を作ることが必要です。

 また、これまで成人の被害者にはほとんど何のルールもなく、被害者を守るすべがほとんどないことが明らかになってきたにもかかわらず、「強要されてしまった動画を差し止めたい」「拡散した動画をどうすることもできない」という切実な被害者の声に立法府がむきあわずにきましたが、立法府による被害者の放置には今通常国会で終止符を打ってほしいと切に願います。一方で、性交を含む契約を国が公認するような内容であってはなりません。

 今週には法案が固まるとされていますが、与野党が被害当事者、支援者の要望に向き合って、性的搾取をこれ以上拡大せず、被害者を保護できる、実効性のある法律案を提案することを強く求めます。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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