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時価総額1兆ドル、NvidiaのCEOがデニーズに帰ってきた理由

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
Nvidia CEOのJensen Huang氏 オンラインイベントから

 ゲーム機のグラフィックス(お絵かき)用のGPU(グラフィックプロセッサユニット)やAI用のICや、そのICチップを動かすためのソフトウエアやサブシステムを開発しているNvidiaが半導体メーカーとして初めて時価総額1兆ドルに達し、GAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoft)に加えTeslaと共に「Magnificent Seven(偉大な7社)」の仲間入りを果たした。市場調査会社のSemiconductor Intelligenceは、2023年の世界半導体トップテンランキングの首位に立ちそうだという予測を発表している。

 NvidiaのCEOであるJensen Huang氏(図1右)は、1993年にNvidiaを起業する前に、シリコンバレーのデニーズに仲間と集まり、パソコン向けの3次元グラフィックスICのアイデアを議論していた。デニーズはHuang氏にとってアイデアのふるさとだった。現在、デニーズのCEOになっているKelli Valade(ケリー・バレイド)氏(図1左)は、Huang氏の成功を支えたシリコンバレーのデニーズを大変誇りに思い、第2、第3のNvidiaが再びここから出てほしいと願った。

図1 NvidiaのCEOがデニーズに戻ってきた 出典:Nvidia
図1 NvidiaのCEOがデニーズに戻ってきた 出典:Nvidia

 そこで、デニーズは1兆ドル企業を目指す起業家たちにインキュベータコンテストを行い、参加者を募集すると発表した。優勝賞金は2万5000ドル。Valade氏は、NvidiaのHuang氏のように素晴らしいアイデアを生み出し、それを燃やし世界を動かす企業を輩出したいのである。デニーズは、「世界を変える偉大なアイデアはここから生まれたことを知っているか」と刻んだ盾をテーブルに置き、コンテストへの募集企業を募り始めた。2023年11月21日まで応募を受け付けるという。

 Nvidiaは、1993年に起業し、最初の製品を出したのが1999年で、同年IPOに成功し、1999年の売り上げは1億5800万ドルだった。3年後には13億6900万ドルと8倍成長を遂げ、パソコンゲームではNvidiaと言われるほど、ゲーム用グラフィックスプロセッサICを強力に推し進めた。2012年にはAIに進出し、ニューラルネットワークのAIモデルに欠かせないさまざまなライブラリやソフトウエア開発ツールにも力を入れた。ハードウエアだけではなく、ソフトウエアとサブシステムも充実させ、AIビジネスでは圧倒的な存在感を放つようになった。2023年1月末に終了した2023年度の売上額は270億ドルとなった。

 こうやって歴史を追っていくといかにも成功に突き進んできたように見えるが、平たんな道だったわけではない。2011年ごろにはタブレットやアンドロイド向けのAPU(アプリケーションプロセッサユニット)「Tegra 2」デュアルコアプロセッサを開発し、スマートフォンやタブレットのメーカーに供給していたが、残念ながら消費電力がやや多く、広いユーザーに受け入れられなかった。その少し前に自動車にも進出しようとしてきた時期もあった。自動車のインパネに装着しているアナログの針を、デジタルディスプレイによるグラフィックスメーターに置き換えるという応用だった。残念ながらこれも時期尚早で、受け入れられなかった。

AIを充実させた

 しかし、そのあとのAIが大いに当たった。AIは、Googleの検索のエンジンの改良、Microsoftの音声認識ソフトや、IBMのWatsonコンピュータによるクイズ番組でのチャンピオン、など目に見える形で進化が進んだ。NvidiaのGPUのように積和演算回路(x1×y1+x2×y2+………)を大量に集積したICは、実はニューラルネット回路とほぼ同じ(データ1×重み1+データ2×重み2+…………) であることに気が付いた。つまりNvidiaのGPUにメモリを集積すればAIの機械学習やディープラーニングにそのまま使えたのである。

 Nvidiaは、チップの設計だけではなく、PytorchやTensorFlow、Chainerなどのニューラルネットワークのライブラリを揃え、AIのアルゴリズムを作成するうえでのソフトウエアもサポートした。もちろん、もともと持っていたグラフィックスのソフトウエア開発ツールCUDAも充実させていたことも後押しした。AI開発におけるハード(半導体IC)とソフトウエアを揃えただけではなく、GPUを回路ボードに実装して実際にAIが動作することもコンピュータとして示した。つまりNvidiaはAI開発に必要なすべてを持っているといっても過言ではない。

 だから、売り上げが270億ドルしかなかった昨年(会計年度は2023年度)の後に株価が上がり、1兆ドルという時価総額に達した。売り上げの約40倍近い金額が時価総額として評価されるようになった。そして「Magnificent Seven」(映画「荒野の七人」の原題)の仲間入りを果たした。いかにもシリコンバレーらしい小話だが、米国では第2、第3のNvidiaをこれから輩出しようという動きが、やはりデニーズのようなコーヒーショップから生まれている。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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