今年もティルダ・スウィントンが飛ばしまくったカンヌのレッドカーペット
いよいよ今週末に終幕を迎える第75回カンヌ国際映画祭。今年は3年ぶりに5月開催となり、エントリーした作品もゲストも、何よりもレッドカーペットに華やかさが戻ってきたというのが、ファッション関係者たちの一貫した感想だ。そもそも、カンヌはモード大国フランスで行われる年に一度のイベントだ。コートダジュールに会場が設定されていることもあり、他のアワードショーにはない大胆で自由で、見方によってはリゾート・ファッションの要素も組み込まれたドレスが過去にもレッドカーペットを飾って来た。
今年は、映画祭のメイン会場である”パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ”通称”パレ”に続くカンヌの目抜き通り、クロワゼット大通りに、クリステン・スチュワート、アン・ハサウェイ、シャロン・ストーン、ジュリア・ロバーツ、イザベル・ユペール等、ワールドワイドに活躍するセレブリティたちが、各々厳選したカンヌ仕様のドレスを纏って登場。エントリーしている作品の関係者としてプレミアやフォトコールに現れただけでなく、映画祭開催期間中に行われたディナーやイベント、パーティにも積極的に参加して、その都度異なるドレスを着て装うことの楽しさを全身でアピールしている。それはやはりカンヌならではのものだ。さて、ここで今年のカンヌで特に注目を浴びたセレブ・ファッションを紹介したい。大胆なデザイン、素材選び、カラーリング、そして、最近の賞セレモニーでよく見かける、ブランドとスタイリストの指示通りのスタイリングとは少し異なる、やはりカンヌならではの挑戦的なルックを優先してチョイスしてみた。
今年もレカペの話題をかっさらったティルダ・スウィントンのシャツドレス
コンペ部門でパルムドールを狙うクリスティアン・ムンジウ監督のルーマニア映画『R.M.N.』のプレミアに、アライアの真っ白なシャツドレスで現れたのはティルダ・スウィントン。サイドを刈り上げたブロンドのショートヘア、絨毯の赤を意識した白のチョイスは、さすが、これまでも攻めまくるファッショニスタとしてレッドカーペットを席巻してきた彼女らしい。スウィントンは自ら出演したジョージ・ミラー監督作品『Three Thousand Years of Longing』のフォトコールでも、同じアライアのライトブルーのシャツドレスと、エスニック風の黒いサンダルで登場。ここでも期待を裏切らなかった。
ブランドを個性で凌駕していくミューズたち
アウト・オブ・コンペティション作品として上映されたルイ・ガレルの監督・主演作『L'lnnocent』のプレミアに登場したクリステン・スチュワートは、ここ数年コラボしているシャネルのボタンを外したストラップレスの黒いクロップトップと、お揃いのパンツ、オリバー・ピープルズのサングラスで。一方、出演作『Crimes of the Future』のフォトコールでは、胸を大胆にカットしたいわゆるシャネルのツイードジャケットで現れたスチュワート。どちらもこの種のシチュエーションでは珍しい、それだけにチャレンジしがいのあるパンツルックというのが頼もしい。
同じくシャネルのミューズを務めるマリオン・コティヤールは、アルノー・デプレシャンのコンペ作品『Brother and Sisters』のプレミアに、シャネルの黒のミニドレスにブラックタイツを合わせて登場。ミニもけっこう攻めたアイテムだが、『Brother~』のフォトコールでは同じシャネルのストラップレス・ミニとハイカットブーツで現れたコティヤール。生地のデリケートな風合いとブーツの組み合わせがチャレンジングだった。
素材選びが斬新だったルイ・ヴィトンの2人
今年、この夏、最もホットに盛り上がりそうな『トップガン マーヴェリック』(本日公開!)のプレミア上映のために、主演スター、トム・クルーズにエスコートされてレッドカーペットを歩いたのはジェニファー・コネリー。きっちりと結い上げられた漆黒のヘア、濃いめのアイメイク、露出した美しい肩のラインが、ルイ・ヴィトンによるガンメタルのベアトップドレスにマッチしていた。また、『トップガン~』のフォトコールでは同じくヴィトンのテクスチャード・ドレスと赤いブーツで現れたコネリー。彼女はこのブーツがいたくお気に入りのようで、映画のPRで出演したトークショーでも同じブーツを履いていた。もともとはモデル出身。着こなしは板についているのだ。
ルイ・ヴィトンのエナメルのトップにムースラインのケープ、太ももまでスリットが入ったスカート、フルレングスのガウンをチョイスしたのは、出演作『Crimes of the Future』がカンヌにエントリーしているレア・セドゥ。セドゥは2016年にルイ・ヴィトンのアンバサダーに就任して以来、同社のアーティスティック・ディレクター、ニコラ・ジェスキエールと交流を続けている仲だ。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のロンドン・プレミアでセドゥが着た刺繍入りのシルバーのガウンも、2人がコミュニケーションを取り合って選んだものだと言う。デザイナーとミューズの関係は以前より強固になりつつあるようだ。
王道のアルマーニ・プリヴェを選んだ2人
『トップガン マーヴェリック』のプレミアに登場し、”パレ”ではトム・クルーズの真前に座って拍手を送っていたエル・ファニング。アルマーニ・プリヴェによるブラッシュピンクのガウンとショパールのジュエリーは、個性派が集結するカンヌのレッドカーペットでは、むしろオーソドックスに見えてしまう。勿論、それは若さこそが魅力であることを知っているファニングならではのチョイスなのだが。一方、同じアルマーニ・プリヴェの純白のベアトップとブルガリのジュエリーで、出演作『Armageddon Times』のプレミアに登場したのはアン・ハサウェイ。こちらもレカペ・ファッションの王道を行く、ハリウッド俳優らしいチョイスが不思議と新鮮だった。
ファッションを楽しむベテランたちに拍手喝采
ベテランたちがいい味を出している今年のカンヌ。筆頭は『Forever Young』のプレミアにバレンシアガのコスプレ風グリーンのオールインワン・ドレスで現れたイザベル・ユペールだろうか。演技でもファッションでもユペールにはいつも驚かされる。ヴァレリア・ブルーニ=テデスキの新作『Les Amandires』のプレミア会場には、ドルチェ&ガッバーナのパターンド・ドレスで決めたシャロン・ストーンの姿が。その後、ストーンは腰にまとっていたオーバースカートを剥ぎ取ってカメラマンたちを喜ばせていた。
映画祭期間中に開催された”Women in Motion”awardのセレモニーには、アレキサンダー・マックイーンのネオングリーンのスーツと、同じ色のパンプスとバッグで決めたヴィオラ・ディヴィスが。
一方、”Trophee Chopard”のプレゼンターを務めたジュリア・ロバーツは、黒のタキシード・ジャケットにスカート、そして当然、ショパールのジュエリーで登壇。デイヴィスとロバーツはハリウッドの正統派の着こなしとセンスをカンヌに持ち込んで、ベテランらしい風格を漂わせていた。
色々な意味で本来のアワードセレモニーのゴージャス感が戻って来た今年のカンヌ国際映画祭。このトレンドが今後開催される各国の映画祭やアワードショーにどんな影響を与えるのか?パルムドールの行方と同時に、それを想像するのもまた、ファッション好きの楽しみの一つなのだ。