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保護者の皆様による安全対策、お子様の心理を踏まえて通学路の安全点検を!新一年生を事故から守るために。

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(写真:アフロ)

 新しい年度が近づき、新一年生の保護者の皆様は、お子様がまた一歩成長することへの“喜び”と、慣れない学校生活にお子様を送り出すことへの“不安”でいっぱいではないでしょうか。その不安の原因の一つに、登下校中の交通事故があるかもしれません。

 歩行中の交通事故について、人口10万人当りの死傷者数は、7歳児(新一年生)が最も多く140人であり、全年齢層の約3倍といった統計を、2016年に(公財)交通事故総合分析センターが出しています。小学校入学に伴い、慣れない道路を一人もしくは小さい子ども同士で歩かなければならないといった環境の変化が、新一年生の事故が多い理由と考えられます。

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出典:公益財団法人交通事故総合分析センター「ITARDA INFORMATION交通事故分析レポートNo.116」(https://www.itarda.or.jp/contents/151/info116.pdf)より

 新一年生の交通事故を減らすために、「子どもはまだ未熟だから、ドライバーが注意すべき」といったご意見もあります。確かに、ドライバーの行為が原因となる子どもの交通事故が多いのは事実です。ただし、保護者の皆様が通学路を走る全てのドライバーに注意を促すことは現実的ではありませんし、事故の発生は確率の問題ですので、できる限り様々な対策を講じて、その確率を限りなくゼロにすることが大切になります。では、新一年生の保護者の皆様にできる対策は何か?その一つに、「通学路の点検」があります。

◆物理的環境の点検

 お子様が小学校に入学する前、また、入学後折を見て、是非、お子様と一緒に通学路を歩いて点検を行って下さい。そして、通学路に潜む危険をお子様とチェックし、理解してもらって下さい。通学路の主なチェックポイントは、大きく分けて2つあります。

 1つ目は、道路幅やガードレールの有無、交通量の多さなど、道路環境や状況についてです。これらを物理的環境と呼びます。通学路の中でも、道幅が広くガードレールがある道路、さらには、交通量の少ない道路を歩くようお子様に理解してもらうことが大事になります。また、道路を横断する際には、必ず信号機のある横断歩道を渡るようにお子様に伝えましょう。

 ただし、通学路によっては、上に書いたような“理想的な道路”がない場合が多いかもしれません。その場合には、小学校や地域の方々と相談して、登下校中に立哨や付き添いをする人を配置したり、通学路の変更などの対策を考えましょう。また、定期的に通学路を点検して、交通の流れが変わっていないかや、雪などの天候の違いによって危険な道路となっていないかを確認しましょう。

◆保護者にしかできないお子様の心理的環境の点検

 そして、“保護者の皆様にしかできない対策”としてさらに重要なのは、心理的環境に関するものです。同じ物理的環境でも、お子様によっては全く異なる環境となる場合があります。例えば、大人には何の変哲もないものでも、好奇心旺盛なお子様にとっては、興味を惹く対象となり、不安全な行動を助長する可能性があります。鉄道が好きな子にとっては、道路先の踏切が鳴れば、電車を見たい一心で飛び出す可能性がありますし、お花が好きな子であれば、道路先のたんぽぽの綿毛が飛び出しの原因になるかもしれません。さらに、お友達同士で登下校する場合には、お友達が先に道路を横断することで、飛び出しの原因を作ってしまうことがあります。これらの飛び出しの原因は、お子様によって様々ですので、まとまった統計にはなり難い側面があります。この点からも、お一人お一人のお子様の特徴を保護者の皆様が理解して、心理的環境を点検していただくことが大事になります

 また、大人には見ることのできる対象物でも、背の低い子どもには見えないことがあります。お子様の目からは見えないものを理解するために、お子様の目線になって、保護者の皆様が通学路の点検を行うことが重要になります。

 さらに、小さいお子様の場合、大きい荷物をもって登下校することはたいへんな負担になります。登下校中に休憩ができる安全な場所を見つけて、お子様に伝えておくと良いと思います。

 心理的環境を考えると、お子様の興味や背の高さ、体力は千差万別ですので、お子様の特徴に応じて通学路を点検することは、そのお子様のことをよく理解している“保護者の皆様にしかできない重要な対策”です。新一年生の交通事故をなくすために、お子様の特徴に応じた通学路の点検を行い、道路の歩き方に関するお子様への安全教育と、小学校や地域の皆さんとの連携に基づく通学路の安全確保を実現しましょう。

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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