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女性に安心してAEDを使う方法は?

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
心停止には、なるべく迅速かつ適切なAEDの装着が求められます(写真:アフロ)

AHAの心肺蘇生ガイドライン2020発表されました。これに関連し、倒れた人が女性だったことを理由にAED(自動体外式除細動器)が使用されなかったという事例を挙げ、NHKがTwitterで、女性にAEDをためらわないよう呼びかけを行っていました。

様々な意見を拝見したところ、法律関係の人たちは、「救命の中で行ったことに関して、強制わいせつ罪に問われたりすることはない」と断言しています。そうは言っても、前回の記事で書いた通り、何か言いがかりを付けられるのではないかとか、民事でイザコザに巻き込まれたらどうしようなどと、不安な気持ちが芽生えるのはわからないでもないです。シミュレーショントレーニングにおいてすら、人形が女性であった場合に衣服を脱がすのを躊躇されてしまうという研究もあります。

今回は、どうすれば安心して、というか、無心で女性を救命できるのかと言うことを考えてみましょう。

とにかく人を呼んで!

一般的に、BLS(一次救命処置)の講習会では、倒れている人を発見してから、心肺蘇生を適切に行い、AEDによる除細動を行うまでの一連の流れを学びます。以下に、そのプロセスを書きます。

  1. 倒れている人を発見
  2. 周囲の安全を確認
  3. 反応を確かめる
  4. 返事がなければ、周囲の人に助けを求める
  5. 救急車を呼ぶ
  6. AEDが確保できればする(誰かにお願いできればお願いする)
  7. 普通の呼吸をしていなければ胸骨圧迫を開始
  8. AEDが確保できれば装着する
  9. AEDの指示に従い必要なら電気ショックを行う

胸骨圧迫(心臓マッサージ)までに、やることがとても多いですよね?でも、このプロセスが本当に大事です。

自分の安全確保ができなければ、傷病者を増やすことになりかねません。有毒ガスで倒れているとか、交通量が多いとか、危険を無視して助けようとすると、自分が救助対象になってしまいます。それはまず避けましょう。

そして、呼びかけに反応がなかったら助けを呼ぶ。これが本当に重要です。今回の話のキモです。自分一人では何もできません。蘇生を一生懸命やりながら救急車を呼べませんし、AEDの確保にも難渋します。一方人が集まれば、様々なことが可能になります。胸骨圧迫をし続けるのはとても大変ですが、交代してもらうこともできるようになります。

某映画のように「誰か助けてください!」と叫ぶよりも、具体的に「そこのあなた助けてください!」とか、「そこの学生集団こっちきて!そう、あなたたち、いや後ろじゃなくて、あなたたち!」と、きちんと指名する方が巻き込みやすいです。

女性に対しても良いことがある

人をたくさん呼ぶと、中に女性がいらっしゃるかも知れません。救助に加わってもらうと、救助対象が若い女性である場合、男性としてはありがたいものだと思います。AEDの装着や脱衣を手伝ってもらえると、安心感が違うと思います。

基本的に、胸骨圧迫をするだけなら脱衣は必要ありません。分厚いコートをきている場合などはちょっと厳しいかもしれませんが、躊躇なく胸骨圧迫はしていただければと思います。ではAEDはどうかと言うと、これも全裸にさせる必要は全くありません。下着まで脱がさなくても、避けながらAEDのパッドを皮膚に貼ることができれば、下着は装着したままでも通電はできます。この辺り、服や下着の構造を理解している女性に手助けしてもらえると大変助かるでしょう。仮にその場に女性がいなくても、側に誰かがついてくれているだけでも、AED装着に対して背中を押してもらえるかもしれません。

さらに人がたくさん集まれば、野次馬の目に晒されることがないように協力者で囲んで、通称「人の壁」を作ることもできます。自分が蘇生に一生懸命になっていると、周囲のことに目が向かないものですが、周囲の人の方が冷静にいろいろ見ることができます。こうした配慮を、周囲の人も積極的に行うことが、積極的なAED使用の第一歩かと思います。

ガイドラインでは、多くの人にこうした視点を持ってトレーニングに参加してもらうことが重要ではないかと提言されています。必ずしも、発見者が全ての責任を背負う必要はありませんし、居合わせた人の協力の賜物として、蘇生に繋がるのが理想的と考えます。

どうしても一人で対応しなければならない場合と言うのもあるかも知れませんが、救急車を呼んで胸骨圧迫を続けるのが精一杯になると思います。できるだけ多くの人を巻き込んで、そして、人が倒れているときにはみんなが力を合わせて対応できるやさしい社会であって欲しいと願うばかりです。

最後に

今年のガイドラインにも記載されている重要な情報を書いておきます。

「近年は増加しているが。救急隊が到着する前に市民救助者によるCPRを受けた成人は40%未満で、AEDが使用された事例は12%未満である。」

日本においては、平成30年中に心停止で救急搬送された患者は12万7,718人で、心原性の心停止と考えられるのが7万9,400人。このうち目撃ありが3万1,819人で、一般市民による目撃ありが2万5,756人。そして一般市民により除細動が行われたのは1,254人です。

心原性の心停止に市民救助がなければ、1ヶ月後の社会復帰率は4.5%

心原性の心停止に市民救助をしてくれれば、1ヶ月後の社会復帰率は12.5%

もし、心原性の心停止に市民がAEDで除細動をしてくれたら、1ヶ月後の社会復帰率は48.2%

もちろんAEDを装着するだけではだめですが、社会復帰率を上げるチャンスを得られます。

男女にかかわらず、もっと積極的にAEDの使用がなされれば良いなと思います。

まとめ

倒れている人を見かけたら人を呼びましょう

女性の蘇生では特に多人数を巻き込み、躊躇なくAEDを使用できる社会を作っていきましょう

参考資料

総務省消防庁 令和元年版 救急救助の現況

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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