ツチヤカレン、繊細な心情とリアルなシーンが焼き映る“言葉の表情”を表現する新しい才能
●2023年という時代を言い表したポップソング、「メーデー」
日常風景をドラマのワンシーンのごとく描ききる特異な視点を持つ表現者。素の想いを、柔らかくも暖かな、ときにはヒリヒリとエモーショナルに火を灯す言葉の人。今、もっとも気になるシンガーソングライター、ツチヤカレンの2ndシングル「メーデー」のフレーズにハッとした。
「わたしは常に優しい人間でありたいんですけど、モヤモヤすることもイライラすることもあって。そんな、ヒリヒリとした自分を表現したくて作った曲です。サウンドは、カントリーテイストが浮かんで、編曲の松岡モトキさんにお願いしました。バンジョー入れたいなど、ドラムパターンも明快なイメージがありました。歌詞はノリで、ふと思い浮かんで1日で作りました。」(ツチヤカレン)
誤解を恐れず言いたいのは、何かを貶めるようなリリックでは決してないこと。ただし、歌い始めから心を掴むインパクトが強い。令和を生きる人間の“イマ”の世界観を可視化する表現だ。繊細な心情ゆえに、リアルかつ細やかなシーンが焼き映る。些細なきっかけで生まれた衝動を解放するためのアッパーチューン。メーデーというワードは“遭難信号”を意味する。助けに来て、という叫びだ。
ポップミュージックは時代を映し出す鏡である。ツチヤカレンによる、少しばかり尖ったパンキッシュな想いは、カントリー調に疾走するビートに畳み掛けるように絡み合い、2023年という時代を言い表した。
●ハッとさせられた見事なストーリーテリング、新曲「活字アレルギー」
さいたま市出身。幼少時代から全員音楽をやっている家族の影響で、3歳からライブハウスを体験。音楽にまみれた生活を送る。名前も本名で、カーペンターズのカレンから名付けられたそう。だが、中学時代は楽器に触れることはなくバスケに夢中になるなど、時には反発もあった。しかしながら血は抗えず、高校時代よりバンド活動、ドラムに明け暮れ、全国をバンでまわっていた生活を経験。その後、ソロとして自ら歌い表現することを決意。そして、さならる躍進が期待できる3rdシングル「活字アレルギー」を9月6日に配信したばかりだ。
「リアルを元に書き進めた曲で。昔元カレに“いつか来る別れを考えると人を好きになるのが怖い”と言われたことがあって。その時に“そんなこと言ってもみんな恋するしな”ってモヤモヤしたんです。そのことが引っかかって。でも、結局振られたんですけど、元カノのレモンサワーを1年以上冷蔵庫に保存しているタイプな人で。わたし、まったく小説とか読まないタイプなんですけど、駅で時間が空いた時に赤羽駅の中にある本屋で時間をつぶしていたら、その人が言ってた言葉が表紙に書いてある本があったんですよ。そこから、ふと切ない気持ちが蘇って作った曲です」(ツチヤカレン)
価値観の違い、人との距離感を自らの葛藤とともに描ききったナンバー。淡々とした想いは、少しずつ軽快に高まっていき独白される。気がつけば聞き手は、ツチヤカレンが生み出す物語に没頭しているのだ。イントロダクションへと回帰するラストシーンの妙。心の痛み、答えの出ない想いを包み込む、やはりここでもハッとさせられた見事なストーリーテリングなのである。
令和ポップをアップデートする特異な“言葉の表情”を感じさせてくれる新しい才能、ツチヤカレンという表現者に注目したい。
ツチヤカレン オフィシャルサイト