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「我慢するしかない…」無視され続ける女性上司からの“逆セクハラ”

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者:anieto2k

働く女性の増加、女性活用の追風など、女性が声をあげやすい世の中が加速している。そんな中、知られざるセクハラが増加していることはあまり大きく報道されない。

昨年度、東京都産業労働局に寄せられたセクハラに相談件数は、1397件で、男女別では、女性952件(68.1%)、男性445件(31.9%)だった。なんと3割以上の男性が、逆セクハラに悩んでいるのである。

「女性はいいなぁって思いますよ。『セクハラを受けました』って相談すれば、受け入れてもらえる。でも、男性は我慢するしかない。うん。我慢するしかないんです」

しんどい気持ちを告白してくれたのは、37歳の男性。彼の上司は、女性である。

「あるとき、『合コンセットしてあげようか?』って、上司に言われました。もともと合コンとか興味がないので、断わりました。そしたら、なぜ、断るのかって執拗に聞いてきたんです。それだけで終わればなんてことなかった。ところが、後輩の結婚が決まったときに、上司が『○○さんは結婚しないの?』って。そこで僕が上手く気の利いた返しができればよかったんでしょうけど、『スミマセン』って、どういうわけか謝ってしまって。わけわからないですよね。でも、僕は咄嗟に謝った」

「そしたら、『私があと10歳若かったら、○○君の奥さんになってもよかったのに~』って、ケラケラ笑いながら言われて。しかも、みんなの前でです。その後もことあるごとに、ネタにされるようになってしまいました」

「その女性上司は、決して悪い人じゃない。だから、僕も気にしないで、そのままやり過ごせばよかった。でも、それができなくて、つい先輩の男性社員に相談しちゃったんです。ところが、逆に大笑いされてしまって。『合コンセットしてもらえばいいじゃないか』って。まるで相手にしてもらえなかった。だから、女性がうらやましい。女性は“セクハラされた”って言えば、それがどんな些細なことであれ、社内調査が始まります。でも、男性の場合は笑われるだけ。我慢するしかないんです

2012年度、全国から厚生労働省に寄せられたセクハラ相談件数は、女性が5838件だった一方で、男性からも549件の相談があった。また、2013年度、東京都産業労働局に寄せられたセクハラに相談件数は、1397件で、男女別では、女性952件(68.1%)、男性445件(31.9%)。

厚労省の549件という数字も、東京都の31.9%も決して少なくない数字だ。なのに、どういうわけか男性のセクハラが大きく取り上げられることはない。

2012年度、全国から厚生労働省に寄せられたセクハラ相談件数は、女性が5838件だった一方で、男性からも549件の相談があった。また、2013年度、東京都産業労働局に寄せられたセクハラに相談件数は、1397件で、男女別では、女性952件(68.1%)、男性445件(31.9%)。

厚労省の549件という数字も、東京都の31.9%も決して少なくない数字だ。なのに、どういうわけか男性のセクハラが大きく取り上げられることはない。

男性は言葉を選びながら、かなり控えめに話してくれたけど、多分ものすごくイヤだったんだと思う。

先月、NHKの朝の情報番組で「知られざるセクハラ」と題する特集を報じ、セクハラを受けたことがある年代のトップが40代で、セクハラ被害を相談したところで、「自意識過剰なのでは?」と、共感してもらえないことが多いと告白していたが、この男性も同じだった。

40代の女性たちが、内心イヤと思いながらも、笑ってやり過ごすのと同じように、彼もイヤと言えない状況に、しんどさを覚えていたのである。

「え? たいした話じゃないじゃん。これでセクハラになるわけ?」

そう感じる方もいるかもしれない。合コンのことも、結婚のことも、女性関係についても、周りの人にとっては、「たわいもない」ネタだったに違いない。

だが、第三者には「大したことではない」と映っても、当事者にとっては土砂降りのストレスの雨となることはよくあること。彼にとってはストレスの雨。その雨に、彼はやられていたのだ。

私たちが感じるストレスは、「デイリーハッスル」と「ライフイベント」の2つのシーンに分けられる。

デイリーハッスルとは、日常的に遭遇するイライラ事で、人間関係のもつれや悩み、仕事上の失敗、忙しさからくる不満や怒りなどで、個々人の心の状態や置かれている状況によって、何がデイリーハッスルになるかは大きく変わる。

つまり、この男性が受けた“逆セクハラ”は、デイリーハッスルに分類することができる。

一方、ライフイベントとは人生上で起こる節目の出来事で、転勤や異動、転職、結婚、離婚、あるいは大切な人の死などが相当する。これらは誰にとってもストレスフルで、ストレスに対処する力が高い人でも、何らかのダメージを受ける。

ストレス研究の専門家の中には、「日常イライラしたり、悩んだりするのは、この世の中に生きていれば当たり前だ」として、デイリーハッスルをストレッサー(ストレスの原因)として扱わない人も少なくない。

だが、学問上はどうであれ、リアルの世界ではデイリーハッスルが慢性化することほど、当人にとってつらいことはない。どんなにささいなことでも積もり積もると、ライフイベント以上の土砂降りの雨となり、ミシミシと心が引き裂かれる。やる気が失せ、自尊心が低下し…、心も身体も雨にやられていくのだ。

「それだけで終われば、なんてことなかった」と前述の男性は語っていたが、彼の頭上に降り注いだデイリーハッスルの雨は、まさしく慢性的に降り続いた。

件の3割を超す男性たちも、

・彼女がいないのをからかられる

・男のくせにとすぐに言われる

・身体に不必要に触られる

・休日に連れ出される

・外見についてアレコレ言われる

といった女性に対するものであれば、即セクハラになる行為にストレスを感じている。そして、そんな行為を平気でする“女性”たちがいる。

女性たちは、自分たちの権利や自分たちの尊厳が傷つけられることには過剰なほどに反応するが、逆の立場をどれほど想像したことがあるだろうか?

男女平等っていうのは、こういうことも含めて考えなきゃいけないのだと思う。

だいたい、逆セクハラって言葉自体も妙だ。

セクハラは女性に対するモノ。男性には、性的なことを言ってもいい。そんな勘違いがあるのではないか。

NHKの朝の情報番組でノッチこと井ノ原快彦さんが、

「相手がどう思うかを常に考えないと。そのつもりがなくても、加害者になっちゃう」

と、40代の有働アナに対するスタッフの発言や、番組中に婚活ネタなどでいじられるのが定番となっていたことに意見したことがあったが、セクハラ問題は、ただ単に言葉の問題じゃない。“NGワードだけ”に囚われたり、セクハラは女性に対するものと決めつけるんじゃなく、メッセージを受け取る側の気持ちを汲み取る作業を、決して忘れちゃいけない。

「そのなんていうか上手く説明できないんですけど、結婚していないのをアレコレ言われたのが問題じゃなくて……。土足でズカズカと踏み込まれたのが、すごくイヤだった」――彼はこう言っていた。

誰にでも踏み込まれたくない“領域”はあるし、相手との関係性によっても、領域の広さは変わってくる。

逆の言い方をすれば、家族であれ、親しい人であれ、決して踏み込んではいけない領域が存在する。それは、どんな関係にある人であれ、相手を尊重しなければならないことを意味するのではないか。

私の両親は、私が好き勝手に生きているうちに、“家族”をつくるのを忘れてしまったことについて、ある時期から何も言わなくなった。いつから言わなくなったのか思い出せないくらい、はるか昔から言わなくなった。

ただ、あるときふとそのことを申し訳なく思い、母に謝ったことがある。「せっかく娘で生まれたのに、孫の1人もつくらなくってごめんね」と。

すると、母は……、

「あら~。ママは薫ちゃんみたく自分で稼ぐことができたら、結婚なんてしなかったわよ(笑)。いいじゃない、素敵なことよ~」と、にこやかに返してくれた。ず~っと専業主婦で、「女は家」という性役割を全うしてきた母がそう言ったことに、私はメチャクチャ驚いた。

私がその一言にどれだけ救われたか。母は、私の生き方を尊重してくれた。その母の言葉に、今も深く感謝している。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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