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【最新研究】アトピー性皮膚炎と食物アレルギーにおける皮膚常在菌の役割とは?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う慢性の炎症性皮膚疾患で、乳児期から発症することが多いです。また、アトピー性皮膚炎の方は食物アレルギーを合併することが少なくありません。近年、これらの疾患と皮膚常在菌との関連性が注目されています。

【アトピー性皮膚炎と皮膚常在菌の関係】

アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、健康な方と比べて常在菌の種類や量に変化が見られます。特に、黄色ブドウ球菌が増加し、炎症を悪化させることが知られています。黄色ブドウ球菌は、皮膚のバリア機能を破壊するタンパク質や毒素を産生し、炎症性サイトカインの産生を促進します。一方、表皮ブドウ球菌などの常在菌は減少傾向にあり、皮膚のバリア機能の低下や炎症の遷延化に関与している可能性があります。

アトピー性皮膚炎の皮疹の重症度と皮膚常在菌の関係を調べた研究では、重症の患者さんほど黄色ブドウ球菌の割合が高く、多様性が低下していることが明らかになりました。また、治療によって皮疹が改善すると、黄色ブドウ球菌が減少し、常在菌の多様性が回復することも報告されています。

皮膚常在菌の変化は、アトピー性皮膚炎の発症前から見られることがわかっています。乳児期早期の皮膚常在菌を調べた研究では、生後2か月時点で将来アトピー性皮膚炎を発症する児では、発症しない児に比べて表皮ブドウ球菌などの常在菌が少ないことが明らかになりました。このことから、皮膚常在菌の変化がアトピー性皮膚炎の発症に先行している可能性が示唆されています。

【食物アレルギーの発症と皮膚常在菌】

アトピー性皮膚炎のある乳児では、皮膚バリア機能の低下により、食物アレルゲンが経皮的に感作されやすくなります。この過程で、皮膚常在菌が重要な役割を果たしていると考えられています。特に、黄色ブドウ球菌が産生する毒素は、アレルゲンに対するTh2型の免疫応答を増強し、食物アレルギーの発症リスクを高めることが動物実験で示されています。

臨床研究においても、アトピー性皮膚炎のある小児では、黄色ブドウ球菌の定着が食物アレルギーのリスクを高めることが報告されています。さらに、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に定着している小児は、そうでない小児に比べて食物アレルギーの合併率が高いことも明らかになっています。

【皮膚常在菌を標的とした新しい治療法の可能性】

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの治療において、皮膚常在菌をコントロールすることが新たな戦略として期待されています。例えば、黄色ブドウ球菌を減らし、表皮ブドウ球菌などの有益な常在菌を増やすことで、皮膚のバリア機能を回復させ、炎症を抑える効果が期待できます。

実際に、一部の研究では、特定の常在菌を含む保湿剤の使用が、アトピー性皮膚炎の症状改善に役立つことが報告されています。また、新生児期に常在菌を移植することで、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症を予防できる可能性も示唆されています。

しかし、皮膚常在菌を標的とした治療法は、まだ研究段階であり、効果や安全性について十分なエビデンスが必要です。特に、小児を対象とした研究は限られているため、慎重に検討する必要があります。また、日本人を対象とした研究は少ないため、今後、国内での検証が求められます。

【早期介入の重要性と今後の展望】

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの発症には、乳児期早期の皮膚常在菌の変化が関与している可能性があります。そのため、早期から皮膚常在菌をコントロールすることが、これらの疾患の予防に役立つかもしれません。

最近の研究では、生後間もない時期から保湿剤を使用することで、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げられることが報告されています。保湿剤の使用は、皮膚のバリア機能を改善し、常在菌の変化を抑える効果があると考えられています。また、母親の産道から新生児の皮膚に常在菌を移植する試みも行われており、アレルギー性疾患の予防効果が期待されています。

しかし、これらの早期介入の長期的な効果や安全性については、まだ十分なエビデンスがありません。今後、大規模な臨床試験によって検証していく必要があります。また、各個人の皮膚常在菌の違いを考慮した、個別化された予防法や治療法の開発も求められます。

皮膚常在菌とアトピー性皮膚炎・食物アレルギーの関係については、まだ解明されていない部分が多くあります。しかし、皮膚常在菌を適切にコントロールすることで、これらの疾患の予防や治療に役立つ可能性があると期待されています。

参考文献:

Tham EH, Chia M, Riggioni C, Nagarajan N, Common JEA, Kong HH. The skin microbiome in pediatric atopic dermatitis and food allergy. Allergy. 2024;79:1470-1484. doi:10.1111/all.16044

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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