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明日、広告主がいない。日本テレビの明日、ママがいない。

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

日テレの 芦田愛菜主演のドラマ「明日、ママがいない(水曜日22時)」の広告主が、明日の放送第三回からCMを見あわせるという。

http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1401/28/news054.html

こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)設置の熊本市の慈恵病院はBPO(放送倫理・番組向上機構)に審議を申し出た。

http://mainichi.jp/select/news/20140123k0000m040084000c.html

擁護施設、里親会、病院からのクレーム、BPOの対応など、この番組の進展が気になりだした。これらのニュースで、明日の22時の放送は、明日、広告主のいない番組が放送されるそうだ。

赤ちゃんポスト、コインロッカーベイビー、社会的な問題をドラマが取り上げるのは当然のことだろう。しかし、どうしてもその中で嫌な思いをする人を誰一人も生み出さないというのは至難のワザだ。そもそも、だれも一切傷つけないドラマというのはありえないのではないだろうか?犯人役、悪役は当然、悪くエグく描かれる。

しかし、今回は、この世間では恵まれないと勝手に想像されている子供たちが主役で善者である。ドラマでは、社会的に底辺で暮らす子供たちなのに、たくましく生きている姿が芦田愛菜らの名演と共に生き生きとしている。おそらく、社会問題について「倍返しだ!」的なネタも仕込まれていることだろう。

問題は、病院が、正式名称がこうのとりのゆりかごなのに、「ポスト」という名称に反応するところなどの過敏さ。むしろ、このドラマが話題となり、我が子を捨てる親がなくなる契機になると思うのだから支援してもいいのではないだろうか?と思う。

日本テレビ大久保社長は「抗議は重く受け止めるが、それは必ずしもストーリーを変えることとイコールではない。最後まで見ていただければきちんと理解してもらえると思うし、私もそう現場に指示している」と述べ、全9話を予定通り放送する方針を示した。

出典:http://www.asahi.com/articles/ASG1W6DS4G1WUCVL029.html

http://www.asahi.com/articles/ASG1W6DS4G1WUCVL029.html

日本テレビの覚悟は本気のようだ。

今までであれば、社会的な影響を考え、広告主の自粛で番組が存続できなくなった。ちゃんちゃん。というケースはあるが、「最後まで、見ていただければきちんと理解してもらえる」は、まさに社運を賭けたコメントといえるだろう。いや、波紋を招くのは当然だろう。それだけに日本テレビの覚悟がわかる。

民放が放送史上はじめて、番組全広告主の支援のないままでも、最後まで放映するというからだ。

日本テレビのこの番組は、ネット上で先週までの放送が視聴できるようになっている。

http://vod.ntv.co.jp/program/ashitamama/

実は、このようなサービスは簡単なようだが、キャンペーンといえども、無料でネット放送するというのは日本テレビが初の試みだ。

今までの広告主と視聴率だけのテレビ番組のビジネス構造から、日本テレビは逸脱を考えているようにボクには見える。

かつて、テレビはとても過激でもっと低俗だった。

ドッキリテレビでは、一般視聴者に突然イタズラを仕掛けた。芸能人水泳大会では、騎馬戦で必ず水着からのポロリもあった。放送禁止用語も続出。放送事故なども…。たけしの元気がでるテレビなどは、過激なロケで怪我人続出。PTAは常にクレームだ。

いつしか、テレビがそれらのことをすべて、排除してしまいリスクのない放送だけをおこなった。企業もクレームが起きるとすべて手を引く。広告主はリスクヘッジばかりだ。

テレビはまったく冒険のできないプラットフォームとなってしまった。だから民放とNHKの差がまったくなくなってしまった。現在のNHKのほうが過激だ。間にCMを挿入するとEテレでさえ民放と変わらない(笑)

民放もNHKもジャニーズとAKBと吉本だらけの番組でお茶を濁される。ひな壇芸人が、YouTubeの衝撃映像だけを3時間も一切ロケもしないでワイプだけで放送している。

テレビは死んだ。

日本テレビの今回全9回をノンスポンサーでも放送し続け、視聴率が40%を超えるようなことがあれば、最終回は有料放送にしてもいいのかもしれない。今回の全広告主自粛は、テレビ局の矜持が試されているといっても過言ではないだろう。

頑張れ日本テレビ!

本当にいい番組ならばきっと理解されるはずだ。問題はマネタイズだ。視聴率が上がっても広告主がいなければ意味がない。本当にテレビが新しい時代に向かうことを考える転機が訪れている。

第三回は、明日の22時に放送される。いまのところ、全CMが放送されない、おそらく崩御、震災、以来初の民放ドラマとなる予定だ。

公共広告機構ACのCMのみを見るという異例な放送となることだろう。

もしかすると、社会的バッシングキャラクターをタイムリーに取り上げる高須クリニックのCMとACだけという、いびつな放送もありえるだろう。

高須氏は全スポンサーがCMを見合わせるとの報道を受け、28日午後にツイッター上で「『僕が今からスポンサーになるからしっかりやってくれ』といま日テレと電通に連絡したぜ。今夜のオンエア(※のちに明日のオンエアに訂正)に間に合うといいな」

出典:http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/228669/

http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/228669/

高須クリニックのCMがスポットとして入るのは、他の広告主を考えると、ありえないとは思うが、テレビ局側には、CMを入れる権利がある。明日、広告主がいないのか? 日本テレビ、明日はどっちだ?

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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