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日銀は慎重派が多数を占めているが、慎重になりすぎるのも問題に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日本銀行の田村直樹審議委員(三井住友銀行出身)は、30日の道東地域金融経済懇談会における講演で、物価見通しに関して次のように指摘していた。

 「物価見通しも上下双方向に不確実性が大きい状況ですが、私としては、企業の価格転嫁の動きがまだ現在進行形であること、サービス価格の上昇ペースが高まってきていること、労働需給の引き締まりなどを背景に持続的な賃上げも期待できることなどから、想定以上に物価が上振れる可能性も否定できないと考えています。」

 中央銀行の金融政策決めるメンバーについて、ハト派(金融緩和傾向派)、タカ派(金融引締傾向派)に区別されることがあるが、私はこの区分けはあまり意味がないと思っている。その理由等はさておき、現在の日銀の金融政策を決めるメンバーについては、正常化を意識している派、それに対して慎重派、そしてリフレ派に区分けされるとみている。

 ただし、勢力図としては内田副総裁を筆頭に「慎重派」が影響力を持っているとみられる。植田総裁や31日に講演が予定されている中村審議委員、そして中川委員と高田委員が慎重派に含まれるのではなかろうか。

 リフレ派は安達委員と野口委員だが、現状は慎重派の意向を重視しているようにみえる。

 その意味では今回の講演内容からみても「正常化を意識している派」に属するとみられる田村審議委員、そして氷見野副総裁も現状は慎重派の意向に沿って動いているようにみえるが、正常化を意識しているのではないかとみている。

 しかし、国内の物価が日銀の想定を超えて高く長く続いていることで、正常化に向けた動きを日銀が今後探らざるをえなくなってこよう。7月28日の長期金利コントロールの修正もその一環とみることができる。

 田村審議委員は講演ではなく、その後の会見において、物価2%目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況になれば「マイナス金利の解除も選択肢の一つに入る」と述べた。

 政策修正の判断時期については、賃上げや2023年後半の物価動向などのデータが集まる「来年1~3月ごろ」を目安として示した(30日付日本経済新聞)。

 そういえば、三菱UFJ銀行で市場部門トップを務める関浩之常務が共同通信のインタビューで、大規模な金融緩和策を続ける日銀について「早ければ2024年1~3月に政策の正常化に転じる可能性がある」との見方を示していた。

 来年1~3月ごろを目安にマイナス金利解除、もしくはYCC撤廃を含めた金融政策の正常化を内田副総裁などがロードマップに描いている可能性はある。その意向を「正常化を意識している派」とみられる田村審議委員を通じてこのタイミングで示したのではなかろうか。

 ただし、それもあまりに慎重でありすぎると個人的にはみている。田村審議委員は判断時期は「前倒しになることも、後ろ倒しになることもありうる」と説明したが、外為市場の動きなどを考慮すると、つまり円安の進行とそれによる輸入物価の上昇圧力を考慮すると、年内早めに正常化に向けたスタンス変更を示すべきと考える。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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