信念のイエレン議長、揺れるドラギ総裁
FRBのイエレン議長は4日に下院金融委員会で証言し、経済データで成長と物価の上昇が引き続き示されれば、12月利上げの現実的な可能性はありうると発言した。さらに「時宜を得た利上げは賢明な判断だ。なぜなら非常に緩やかかつ慎重なペースで進めることが可能になるからだ」と指摘している。
「経済データで成長と物価の上昇が引き続き示されれば」との条件があるため、FRBの利上げについては難しいとの見方もある。しかし、この条件は日銀の2%の物価目標のように絶対達成すべき目標とはしていない。つまり、厳格なインフレターゲットとはなっていない。
危機的状況には金融市場の安静化のため、いかなる手段も取るとした中央銀行であったが、大きな危機が去れば正常化に舵を取るのは必然である。ただし、中央銀行の金融政策に対して、特に危機時に過度に依存してしまった関係上、市場に対しての悪影響は極力軽減させる必要もある。そのためにFRBはテーパリングを慎重に実施し、それと同様に時宜を得た利上げに対しても、慎重に時間をかけて準備してきたとみる方が素直と言えまいか。足元の経済指標に対しては余程のことがない限りは、利上げを妨げるものにはならないと思われる。ただし、一時の中国発の金融市場の動きに対しては幾分か動揺した気配はある。
これに対してECBのドラギ総裁は、依然として危機対応のまま、さらに踏み込んだ緩和を実施したいようである。しかし、日銀と同様にその手段は限られる。先日、ドラギ総裁は追加緩和の決定にはまだ議論の余地があると発言し、市場でのECBの追加緩和観測が一時後退した。しかし、その翌日には、12月に緩和水準見直しへ行動する意欲と能力あるとも発言し修正を図った。ドラギマジックに陰りを見せてはまずいと思ったのであろうか。それとも追加緩和に対しての効果そのものへの疑問や、そもそも追加緩和に反対するECB関係者がいた可能性もある。
ECBの追加緩和に対する政策手段の選択肢に、マイナス水準にある預金金利など一部金利のさらなる引き下げも含まれているそうだが、そのマイナス幅を多少なり調整したとしても現実的な物価などへの影響は限られよう。ただし、マジックは種明かしをしてしまうとおしまいである。市場ではとにかくマジックを歓迎している以上、市場の期待に働きかけることはできる。
これに対して微調整ですら、できなくしてしまったのが日銀といえる。信念のイエレン議長、揺れるドラギ総裁に対して、動けない黒田総裁となる。しかし、いつまでも動けないというわけにはいかない。何かの弾みで物価目標が達成してしまうのであれば動けるのかもしれないが、そうでない場合、特に追加緩和に対してはこれまでのリフレ的な発想や方針を改めて、微調整も可能なように立て直す必要がある。ここには黒田マジックも必要になる。ただし、今度必要なのはバズーカではなく煙幕なのかもしれないが。