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元関脇・安美錦の安治川親方が語る引退後のこれまでと断髪式への思い

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
(写真:日本相撲協会提供)

井筒親方(元関脇・豊ノ島)に続いて断髪式を控えるのは、元関脇・安美錦の安治川親方。2019年7月場所に引退し、現在は伊勢ヶ濱部屋の部屋付き親方として指導する一方、独立に向けて部屋興しの準備にも奔走する。引退からこれまでの活動について、親方に話を伺った。

親方としての指導にも研究の経験を生かす

長引くコロナ禍で、実は早稲田大学大学院に通っていた安治川親方。時間ができたからこそ挑戦できたことだが、独立や断髪式の準備、さらには日常の仕事や育児に加えての研究には、相当な苦労があったという。

「毎日ふらふらで、きつかったですね。年末、九州場所から帰ってきてからは特に、家ではずっとパソコンの前で、ほとんど寝られない生活でした。でも、こういう学びの機会をもてたことがありがたかったし、縁があって先生たちとも出会えてすごくよかったです」

経営やマーケティング、公衆衛生学などの夜間講義にも出席。コロナの影響で外出禁止期間に入ってからは、Zoomで講義やゼミに参加していた。

「ゼミでは、調べてパワポ作って発表しての繰り返し。ひとつのものを深く掘り下げていくのは、新鮮であり苦しいことだというのがわかりました。ゼミ生は、私を含めて3人。年齢も業種もまったく違う方々で、相撲界にいるだけでは知り合うことのない”同期生”です。すごくいい出会いでした」

安治川親方の研究テーマは「おかみさん」。この春、無事に修了予定だと胸をなでおろす。場所中に行われる学位授与式には出席できないが、大学院に通ったことで、言葉にすることの難しさや、伝えることの重要性を知ったと話す。今後の指導にも、大学院での学びが生かされるだろう。

息子と最後の土俵入りへ 断髪式への思い

安治川親方の断髪式は、2度の延期を経て今回の日程に落ち着いた。その間、はじめからチケットを購入してくれていた方々へ、チケットの刷り直しやお詫びの手紙の発送など、多くの対応に追われた。1月に、元大関・豪栄道らの断髪式が開催できたことで、少しほっとしたという。

「気を付けなければならないこともわかりましたから、そこを解決するべく準備して、皆さんが安心して来られるようにしたい。慎重になりつつ、最善を尽くして断髪式を終えられたらと思います」

(写真:日本相撲協会提供)
(写真:日本相撲協会提供)

式自体はシンプルな演出を心がけるそう。ただ、ひとつだけ親方のやりたいことがある。

「4歳の息子と一緒に、化粧まわしをつけて土俵入りをしたいなと考えています。一度は巡業で土俵に上げたことがありましたが、まだまだ記憶もないときだったので、最後に国技館でそれができたらいいなと思っています。ただ、当日になって本人が嫌がらないといいなって。たくさんのお客さんを前にびっくりして、急に嫌だって言い出したら、私一人で土俵入りするのかなって、それだけが心配(笑)」

息子さんの話で顔をほころばすも、「断髪式には、皆さんが来てくれることに感謝しかありません。その気持ちを胸に、終わるまでは気を引き締めて準備していきたいと思っています」と語った安治川親方。平成の土俵を沸かせた相撲巧者・安美錦の最後の髷姿は、5月29日(日)、国技館で見納めとなる。多くのファンが駆け付けられるよう、一日も早いコロナの収束を願ってやまない。

断髪式の開催日時やチケット情報など

安美錦引退相撲事務局(チケット発売中)

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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