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錦織圭、難敵攻略でウインブルドン2年連続ベスト8 待ち受けるのは、芝の王者ロジャー・フェデラー

内田暁フリーランスライター
(写真:アフロ)

〇錦織圭 [6-3 3-6 6-3 6-4] M・ククシュキン●

 薄暮に包まれる2番コートに、響く「カモン!」の気合の叫び――。

 第4セットの終盤に、バックハンドでウイナーを奪った時。あるいは第1セットの中盤でも、バックをダウンザラインに叩き込んだ場面や、長いラリーの末に相手のショットがネットを叩いた時、錦織は幾度も「カモン!」と声をあげました。本人は、「気持ち的には1回戦から変わらず、この試合をしっかり戦うことを頭に入れていた」と言いますが、激しい感情の表出は、この試合がいかに「我慢」の戦いだったかを物語っていたでしょう。

「思ったよりタフな相手で、芝でのプレーが強いなと思った。我慢が今日は必要だったと思います」

 試合を振り返る表情にも、安堵と充実感が浮かびました。

 ククシュキンは錦織から見れば、数字上では、過去9勝無敗の組みやすい相手。しかしここ最近の対戦では、やりにくさを覚えていたと錦織は明かしました。特にバックのダウンザラインなどは、揺れるような軌道で飛び、バウンド後に低くワイドへ切れていきます。

「ほとんどバウンドしないし、止まったりもする。攻めないといけないとわかっていても低いボールなので、ウイナーが取れなかったり、我慢が必要だったり……」

 第2セットでは終盤でブレークを許し、今大会初めてのセットダウン。上空を覆う厚い雲は、この日立て続けにトップシードが破れた2番コートの、不吉さを際立たせるようでした。

 その嫌な空気を振り払うように、第3セットの錦織は、ラブゲームでキープする好スタート。さらに「我慢」が色濃く発揮されたのが、併走で迎えた第8ゲームでした。コートを走り回り、相手のボレーを幾度も返すと、相手が焦れたようにスイングボレーをミスします。このプレーを機に3ポイント連取した錦織が、最後も相手のミスを誘ってブレーク奪取。続くゲームをキープしセットを奪うと、またも「カモーン!」と咆哮をあげました。

 これで錦織が主導権を握ったかに思われましたが、第4セットは、最ももつれた展開になります。立ち上がりから両者ともにブレークを奪い合い、5ゲームを終えた時点でキープはなし。その混戦から抜け出したのが、第6ゲームで好サーブを連発し、ラブゲームキープした錦織です。最後は相手のリターンがラインを逸れ、2時間43分の戦いに終止符。天をあおぎ見る勝者は、自らの勝利を讃えるように、力強く拳をふりあげました。

 昨年、初めてウインブルドン4回戦の壁を打ち破った錦織は、これで2年連続のベスト8進出。

 心身ともに、エネルギーの充溢を感じ踏み入る準々決勝のステージで、彼を待ち受けるのは、芝の王者、ロジャー・フェデラーです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookから転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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