「監獄にいるみたい」ロシア人も逃げ出す北朝鮮観光ツアー
北朝鮮は先月、コロナ後で初めてとなる外国人観光客をロシアから受け入れた。3泊4日の旅行代金は航空機代、ビザ代、交通費、宿泊費、朝食込みで750ドル(約11万2000円)で、物珍しさからかロシア全土から集まった100人が参加した。
しかし、評判は今ひとつのようで、それ以降のツアーは参加者が激減している。その理由はどこにあるのか、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
ロシアの沿海州政府は今月8日、11日に出発する北朝鮮ツアーの募集を行った。定員は初回と同じ100人だったが、8日出発分は参加者が48人、11日出発分はわずか14人にとどまった。
参加者激減の背景には、自由に行動できないなど、規制の厳しさがあったようだ。先月のツアーに参加したイリヤ・ボクレセンスキーさんは、RFAの取材に次のように答えた。
「ホテルを出て市内を自由に出歩けなかった。(ガイドに)なぜダメなのかと聞くと『朝鮮語がわからないため問題が生じるかもしれない』との答えが返ってきた」
このような答えはガイドのマニュアルに書かれているようだ。
デイリーNKジャパン編集部が、コロナ前に北朝鮮ツアーに参加した経験を持つ日本人に取材したところ、「ホテルの玄関前のごく限られた範囲なら1人で出歩いても問題なかった。しかし、それより遠くを勝手に出歩けば朝鮮語がわからないために問題が生じうるとして、散歩がしたければ申し出てほしいとガイドから言われた」とのことだった。
ガイドが嘘をついているのではなく、本当に問題が生じる可能性があるようだ。コロナ前に急増した中国人観光客の中には、勝手に出歩こうとする人が多く、北朝鮮の旅行会社は対処に苦慮したようだ。
また、日本在住の北朝鮮事情通によれば「在日朝鮮人の女性が現地に住む親せきと一緒に、外国人がめったに訪れない下町の住宅地を歩いていたところ、住民が保安署(警察署)に通報して騒ぎになった」というエピソードもある。
さらに、観光客として訪れた北朝鮮で長期にわたり拘束され、釈放直後に死亡した米国人大学生、オットー・ワームビアさんが拷問を受けていた可能性が指摘されていることも踏まえれば、たしかに外国人の一人歩きにはリスクがあるかもしれない。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
だが一方で、少なくとも平壌中心部で出会う北朝鮮の人々は外国人に対しても概ね親切であり、同国の「常識」に従って礼儀正しく行動すれば、大問題に発展することは稀だとの指摘もある。
問題はその「常識」を、外国人が受け入れられるかどうかだ。
3月発のツアーを募集する旅行会社ボストーク・インツールは、自社のウェブサイトに北朝鮮観光に関する「注意書き」を掲載したが、これが批判の的となった。
それによると、ネット使用料が非常に高額で、個人アカウントでのメールの送受信は禁止されており、ホテルのメールアカウントを使わなけれならない。ホテルではお湯が出ないこともあり、室内でも暖房が効いていないこともある。錦繍山(クムスサン)太陽宮殿への訪問時には開襟シャツ、ミニスカート、Tシャツ、ジーンズ、サンダルの着用は禁止されている。
太陽宮殿は故金日成主席、故金正日総書記の遺体が安置されている「聖地」であり、ドレスコードが存在するが、ロシア人には理解しがたいことのようだ。なお、この注意書きは既に削除されている。
ロシア出身で韓国の国民大学に在籍するアンドレイ・ランコフ教授は、RFAの取材に、「北朝鮮に行くと監獄にいるような感じになるほど制限が多く、それでも行きたがる人はいるだろうが、さほど多くはないだろう」と述べている。
なお、今回のツアー参加料金は5日間で800ドル(約12万円)、4月29日から5月3日まで、5月6日から10日までの料金は750ドルだ。
北朝鮮の一番の上客である中国人観光客の受け入れは、今のところ再開されていない。また、北京にある、主に欧米からの旅行客を扱う北朝鮮専門の旅行会社、コリョツアーズも、今月19日現在、自社のウェブサイトで「北朝鮮はコロナのため依然として国境を閉鎖している」として、北朝鮮ツアーの申し込みを受け付けていない。