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セレッソ・ロティーナは「守備的でつまらない」で終わるべきか?

小宮良之スポーツライター・小説家
セレッソで監督2年目のロティーナは、いつもベンチでしかめ面だが…。(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 セレッソ大阪、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督がチームを去ることが決定的になった。2年連続で上位を争っているだけに、指揮官としての力量は示している。しかし今シーズン限りで退団の流れだという。

「守備的すぎて、つまらない」

 メディアだけでなく現場からも、その評価は聞かれていた。セレッソはもともと“やんちゃ”な気風のサッカーを好む選手たちも多い。規律を守り、負けないことを信条とするロティーナに対し、一部で折り合いの悪さはあった。しかめ面もネガティブに映るという。

 しかし、「守備的でつまらないサッカー」で切り捨てるべきなのか。

選手の力を引き出せる監督

「日本人選手のポテンシャルは高い。ボールプレーのレベルは、驚くほどだ。戦術の中で動けるようになったら、素晴らしいプレーができる」

 東京ヴェルディを指揮していた時代、ロティーナはそう語っていた。事実、J2のヴェルディを率い、昇格は果たせなかったものの、過去10年、クラブで最も可能性のある戦いを示している。選手たちの力を最大限に引き出していたのだ。

 ロティーナの優れた点は、フラットに日本人選手を見られる点だろう。失敗する外国人監督は、日本人選手をどこかで軽んじている。色眼鏡をかけず、その良さを見出せるのは長所だ。

 改めて、ロティーナとはどんな人物なのか?

苦虫を噛み潰したような渋面の理由

 ロティーナは1970~80年代、選手としてリーガエスパニョーラ1~3部のチームを渡り歩いている。400試合以上に出場。エリア内で泥臭くゴールを狙うストライカーだった。

 1988年、31歳で指導者に転身。故郷ログロニェスのユース監督としてスタートした。以来、ログロニェスB、ログロニェスと順調にキャリアを積み重ねていった。そして1995-96シーズンには、ヌマンシアの監督としてスペイン国王杯準々決勝でヨハン・クライフ率いるFCバルセロナと対戦し、本拠地で2-2と引き分ける快挙を成し遂げた。当時のヌマンシアは2部B(実質3部)で、この試合は今も伝説として残る。1998-99シーズンにはチームを1部まで引き上げた。

「弱者を強者に勝たせる」

 それがロティーナの評判のひとつになった。1999-2000シーズンにも2部オサスナを率いて1部昇格に導き、2シーズンにわたって残留させた。2003-04シーズンにはセルタをリーガ4位に躍進させ、2004-05シーズンにはチャンピオンズリーグベスト16に進出。さらに2005-06シーズンにはエスパニョールでスペイン国王杯優勝を成し遂げた。

 その後もレアル・ソシエダ、デポルティーボ・ラコルーニャ、ビジャレアルという有力クラブを率いている。

 しかし、いずれも降格の憂き目を見た。三度続けての失敗。それは彼の監督としての名声を落とした。

 ただ、そこからが監督ロティーナの真骨頂だった。2015-16シーズン、スペイン国外に挑戦の場を求め、カタール2部のアルシャニアを1部に引き上げる。2017年から2シーズン、ヴェルディを率い、昇格を争う。そして、2019年からセレッソの監督を務めている。

 ロティーナは酸いも甘いも知る監督である。しかし、常に突き進んできた。それが、彼の深みになっている。

 ベンチでは、相好を崩すことは珍しい。たとえ勝っても、軽々しく笑みを洩らさず、苦虫を噛み潰したような渋面。それは、失敗も成功も重ねてきたこそだろう。

ロティーナの柔軟性

「いい守りがなければ、いい攻めも存在しない」

 それがロティーナの信条である。

 とは言え、守備一辺倒の人ではない。自陣に下がって、人海戦術から一発を狙うなど下策。攻撃に出るために、守備の安定が必要なのだ。

 システムに囚われず、選手ありき、で采配を振るう。

「Jリーグ、とりわけJ2は3バックのチームが多い。ということは、多くの選手がそれに慣れているということだろう。選手が力を出せるやり方を選ぶのは当然だ」

 ヴェルディの監督を務めていた時、ロティーナは淡々と答えていた。サイドバックやサイドアタッカーを用いず、ウィングバックを使った。選手のキャラクターに合わせ、一番効果的なシステムを選択したのだ。

 スペインは、「BANDA」(スペイン語でサイドを意味する)の選手を起用する傾向にある。BANDAは高い位置でボールを持ち、クロスを供給し、幅を創り出すサイドアタッカーを指す。それに合わせ、クロスに強いセンターフォワードが進化した。

 しかし、ロティーナは日本の選手に合わせた戦いを選択していた。その柔軟性こそ、監督としての強みだ。

 そして、セレッソでは人材を得た。

 今シーズンは、坂元達裕がBANDAの選手として、日本代表に選出されてもおかしくないほどのサイドアタッカーに成長している。右サイドから、左足だけでなく右足でも勝負できることで、相手に的を絞らせない。クロスの質も高く、多くのチャンスを作り出している。

 ロティーナが、選手のキャラクターを見抜いて力を引き出せる指揮官という証左だ。

守りが堅いのは、守備的ではない

「Salida de balon」

 ロティーナは象徴的に、このスペイン語を使う。「ボールの出口」が直訳で、ビルドアップと訳されることが多い。しかし、むしろ直訳のほうが意図は伝わるか。ボールの出口を作るには、それぞれの選手が正しい立ち位置を取って、スペースをうまく使う必要がある。適切な距離感が生まれることにより、それは攻撃だけでなく、守備でのポジショニングを修正し、改善することにつながる。

 いわゆる「ポジション的優位」がピッチに生まれるのだ。

 ロティーナは、セレッソでもそれを突き詰めてきた。なにも守備的なのではない。結果として、守備が固くなった。それは、攻撃の有効性を上げることにもなったのだ。

 一つのロジックで選手がプレーすることで、それぞれの技量は自然と向上している。

 今シーズン、坂元の他にも、清武弘嗣、藤田直之、瀬古歩夢のプレーの水準は高かった。奥埜博亮に至っては、“ロティーナの申し子”のような働きを見せた。FWだけでなく、ボランチでもプレー。戦術的な理解力の高さを買われ、兼任している。

「ロティーナのおかげで頭の中にあるプレーが整理されて、選択肢を与えてもらっているな、と思います」

 2019年、ロティーナ・セレッソでプレーした水沼宏太は王者・横浜F・マリノスに引き抜かれたが、スペイン人指揮官についてそう説明していた。

「自分自身は、考えてプレーできるようになりました。ピッチに立った時に、周りを見渡し、どういう状況なのか。おかげでいいポジションを取れて、スムーズにプレーできるようになったんです。最初はポジションを決められているようで、制御されている感じがあったかもしれません。でも、選手がお互いにその感覚を整理できるようになると、連鎖するように守備でアドバンテージが取れました。そして攻撃でも、いい形でボールを受けられるようになったんです」

 ロティーナは、Jリーグで監督を続ける意思があるという。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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