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今ドラフトで教え子6人が指名!阪神の選手も通う関西で屈指の人気と実績を誇るトレーナーとは

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
多数のドラフト指名選手を輩出している酒井竜矢さん(撮影:筆者)

■今年のドラフト会議で6人の教え子が指名を受けた

 プロ野球ドラフト会議。各球団から調査書をもらっているドラフト候補選手はもちろん、その家族や指導者、チームメイトら関係者は、“そのとき”をドキドキソワソワして待ったことだろう。

 そして、ここにもひとり、同じ思いでドラフト会議を見守っていた人がいる。

 酒井竜矢さん。野球のトレーニング施設「DIMENSIONING OSAKA」のトレーナーだ。プロをはじめ、学生や社会人ら幅広いカテゴリーの野球選手に対して、パフォーマンスアップの指導をしている。プロを目指す選手たちも酒井さんのアドバイスを求めて多数集まってきており、その教え子は毎年何人かがドラフト指名を受けている。

 「今年は支配下で4人、育成で2人が指名されました。もう前日の夜から落ち着かなくて…(笑)」とホッとした表情を見せる。高校生、大学生、社会人、独立リーガーの6人が指名された。

 「もう『頼む~』って、祈るような感じでドラフト会議を見ていました(笑)。今年はとくに関わりが深い選手が何人かいたので、本当に嬉しかったですね」。

 それぞれ、さまざまな縁で酒井さんがセッションするようになったという。

ピッチングフォームを見せる酒井竜矢さん(写真提供:酒井竜矢さん)
ピッチングフォームを見せる酒井竜矢さん(写真提供:酒井竜矢さん)

■野球選手の駆け込み寺!?

 プロを目指す選手もいれば、現役のプロ野球選手も己のレベルアップのために門を叩いてくる。

 現在、阪神タイガースの選手らプロ野球選手も何人か担当している。プロアマかかわらず、通ってくる選手たちはみなパフォーマンスが向上し、酒井さんはそれを見ることが至上の喜びだという。

 「選手が変化して結果を出してくれるのが一番嬉しいので、それが見られるのが楽しい。選手のためになっていることが自分の喜びで、やりがいになっています」。

 その口ぶりから充実感が伝わってくる。

 今日もまた、酒井さんのもとで成果が上がり、笑顔になった選手がいる。

 「DIMENSIONINGに通って、よくなったよ」。

 選手の生の声は口コミでどんどん広がり、全国各地から悩みを抱える選手たちが訪ねてくる。今や関西ではトップクラスの人気と実績を誇る存在だ。

ピッチャーズマウンドはDIYで(写真提供:酒井竜矢さん)
ピッチャーズマウンドはDIYで(写真提供:酒井竜矢さん)

■大学卒業後、カナダでインターンシップ

 酒井さんはなぜ、この道に進んだのか。そもそもは自身もプレーする側だった。福井商業高校で甲子園を目指す左投手だったが、1年生から2年連続で上腕骨を骨折した。3年春に初めてベンチ入りできたものの、チームが甲子園に出場した夏はベンチに入れなかった。最後の夏、酒井さんはメンバーのために打撃投手として腕を振り、聖地の土を踏んだのは試合のボールボーイとしてだった。

 「上のレベルで見返したい」―。

 そう誓って近畿大学に進学したものの、経済的な理由などから野球部には入れず、プレーヤーとしては断念した。就職活動をするにあたり、「野球に携わる仕事がしたい」とトレーナーを選択したのは、故障経験があった酒井さんにとって自然ななりゆきだった。

 そのころから「関わった人たちを笑顔にしたい」という思いが、心の底にあった。

 大学4年時にダブルスクールでトレーナーの勉強をし、卒業後1年間でお金を貯めてインターンシップでカナダに渡った。通ったアカデミーではカナダ北部という土地柄、選手学科の競技はスキー、スノーボード、ゴルフ、マウンテンバイク、ロードバイクなどアウトドアスポーツがおもで、その選手たちに対して、トレーナー学科で学ぶ酒井さんたちがパーソナルトレーニングをするというカリキュラムが組まれていた。

 選手は日本人留学生だったが、授業はすべて英語だった。「正直、英語は全然勉強してなかったけど、行ったらなんとかなるやろと思って」と外国人とシェアハウスをしたりして、とにかく実践で英語も覚えていった。

 初めて野球選手を担当することができたのは、夏休みに入ってからだ。1か月間だけだったが、メジャーリーガーが主催するキャンプで、6歳から18歳までの各カテゴリーの野球選手のウォーミングアップやケアなどを行った。ここでは選手全員が外国人だったので英語しか通じなかったが、きっちりとやり遂げた。

メジャーリーガー主催のキャンプにて、選手にケアを施しているところ(写真提供:酒井竜矢さん)
メジャーリーガー主催のキャンプにて、選手にケアを施しているところ(写真提供:酒井竜矢さん)

■「WBSC U―18」に飛び込む

 卒業するころには英語も身につけ、方々にアンテナを張り巡らせていると、ある情報をキャッチした。9月にカナダで「WBSC U―18野球ワールドカップ」が開かれるというのだ。

 即、大会本部にメールを送り、自身を売り込んだ。残念ながらトレーナーはすでに決まっていたが、それでも通訳もできるということでホテルサポートの任務を得た。相手も酒井さんの熱意に気圧されたのかもしれない。

 やがて練習や試合にも帯同してほしいと望まれ、ドーピングチェックの日本担当も任されるようになった。現在プロで活躍する清宮幸太郎選手らの代で、さまざまな経験をした。

 その後、帰国したが、「いずれは日本のプロ野球やメジャーリーグのトレーナーになりたい」という希望を持ちながらも、そのころは高齢者のリハビリや子どもの運動教室、ダイエットのサポートや他競技のスポーツの帯同など、野球にはまったく関わっていなかった。

 「そのときは今の自分の力量で野球選手を見ても、どうしようもできないな」と、まだまだ勉強が必要だと考えており、そこから2年ほど研鑽を積んで、いよいよ野球選手を見ていこうと舵を切った。

Uー18世界大会にて通訳をしているところ(写真提供:酒井竜矢さん)
Uー18世界大会にて通訳をしているところ(写真提供:酒井竜矢さん)

■全国100人のトレーニング行脚

 まず大阪の公立高校で教師をしている友人に頼み込み、週に1度、野球部のトレーニングを見るようになった。すると、そこでパーソナルトレーニングをしたピッチャーが、1ヶ月間で球速が125キロから140キロに急成長した。

 そのとき初めて自信が芽生えた。「僕、これで生きていけるかも」と。それが今から5年前の2018年のことだった。

 次に「多くの選手を見たい」と、ある作戦に出た。Twitter(現X)で「無料で100人、どこでもトレーニングに行きます」とぶち上げたのだ。すると即、100人が殺到した。そこで北は北海道から南は福岡まで、2018年12月から2019年2月にかけて日本全国を行脚した。

 「北海道では今川優馬くん(東海大学北海道キャンパスJFE東日本北海道日本ハムファイターズ)もいました。大学4年生だったかな」。

 ほか、今年のドラフトで埼玉西武ライオンズから5位指名された宮澤太成投手(北海道大学四国IL・徳島インディゴソックス)も受けていたという。

 そこでは無料のワンポイントアドバイスだったが、その後、100人のうち関西在住の25人が継続して指導を希望し、同年3月からは仕事として受けるようになった。

2018年11月5日のツイート(酒井竜矢さんのTwitterより)
2018年11月5日のツイート(酒井竜矢さんのTwitterより)

■北川雄介氏に弟子入り

 順調に活動していたが年が明けた2020年、コロナ禍に見舞われてすべての仕事がなくなった。ただ、個人事業主には国から給付金が支給されたため、それを使ってラプソードやパソコンなどを購入し、今後の活動のための投資をした。

 と同時に、以前からSNSでその活動を見てリスペクトしていた「DIMENSIONING」の北川雄介氏にダイレクトメールを送り、弟子入りを志願した。

 東京を拠点にプロアマ問わず、野球をはじめさまざまな競技のアスリートを指導している北川氏は、豊富な知識や科学的根拠に基づく理論、的確に解析する目に定評があり、その指導力に絶大な信頼を得ているスポーツトレーナーだ。

 Zoomでの初面接で顔を見た瞬間に即、「キミなら大丈夫だ」と受諾してもらえたことに酒井さんは驚いた。“同志”になり得る人物だと、一瞬にして感じ取ってもらえたのであろうことが嬉しかった。

自己投資したラプソード(写真提供:酒井竜矢さん)
自己投資したラプソード(写真提供:酒井竜矢さん)

■技術以上に大事なことを教わる

 弟子として月に1度、東京で見学し、教えを乞いながら自身も大阪で顧客をとってセッションにあたった。そして1年後、2021年4月からは正社員となり、10月から現在の施設「DIMENSIONING OSAKA」を任されている。

 北川氏からは技術はもちろんだが、もっと大きなものを授かったという。

 「人間性というか、そういうところに惹かれました。スキルもそうだけど、どうやって人と関わっていくかというのをすごく学ばせてもらっている。それが一番デカいですね、正直」。

 接するのは生身の人間だ。それぞれ体も違えば性格も違うし、理解力にも差異がある。どう伝えるかは非常に重要だ。相手に心を開かせ、信頼を得ないと伝わるものも伝わらない。コミュニケーションの“極意”を間近で見て習得した。

メジャーリーガー主催のキャンプにて、テーピングをしているところ(写真提供:酒井竜矢さん)
メジャーリーガー主催のキャンプにて、テーピングをしているところ(写真提供:酒井竜矢さん)

■正しく継続することの重要性

 北川氏の教えを活かし、選手と真摯に向き合う日々だ。

 得てきた知識と経験による独自のデータから、動きをみればどこに課題があるのかはわかる。が、改善するためにはと、根本的なところに注目する。

 「それが体の問題なのか、普段のルーティンなど練習の問題なのか、性格や気持ちの問題なのか、いろいろありますけど、まず普段の生活習慣とか人間的な部分、そういうのがちゃんとできてないと難しいと思っています。技術を教えるんですけど、やはり学ぶ姿勢とか、そっちのほうが大事ですね」。

 また、教えたことが正しく継続できないと意味がない。現代はYouTubeなど情報が氾濫しており、すぐに結果が出ないとフラフラとほかのやり方に目移りしてしまう選手もいる。

 「伸びない選手というのは、1か月くらいで『無理だ。じゃあ次』っていうのを繰り返すパターンが多い。逆にプロに行くような選手は徹底して継続してやるので、次に来たときには課題としていたことができるようになっている」。

 正しく継続することの重要性を説き、選手をその方向に導く。

セッション中の酒井竜矢さん(写真提供:酒井竜矢さん)
セッション中の酒井竜矢さん(写真提供:酒井竜矢さん)

■爪とドライブライン

 今や指導者が自身の経験則だけを押し付けて指導する時代ではない。科学的根拠に基づいた個々に合うメカニクスを持ち得ないと、選手を伸ばすことは難しい。自身の引き出しを増やすために常に貪欲に勉強し、酒井さんはブラッシュアップし続けている。

 球速を上げるために重要だろうと爪に着目し、「爪管理士」の三和田恵氏に飛び込みでセミナーをお願いして受講したのも、その一つだ。自身は爪が割れるという経験はなかったが、割れやすい選手のためのケアを会得した。(関連記事⇒噂の「爪管理士」

 また、大谷翔平選手も通ったという「ドライブライン・ベースボール」(アメリカにある野球の研究、トレーニング施設)のオンラインコースでピッチングとバッティングのメカニクスを学び、指導資格も取得した。ちなみに授業は全編英語である。

 ドライブラインで開発されたトレーニング用のプライオボールが人気だが、これは正しく使用しなければ逆に故障の原因になる。誰でもが簡単に購入できるだけに、間違った使い方をしないようにと警鐘を鳴らす。もちろん酒井さんは正しい使い方を指導している。

プライオボール(写真提供:酒井竜矢さん)
プライオボール(写真提供:酒井竜矢さん)

■選手の長期的な活躍を願う

 酒井さんの願望は、選手が長期的に活躍できることだという。

 「その場だけでうまくなるんだったら、僕らのところに来なくても自分でメカニクスを勉強すれば誰でもできる。それよりも、その選手が1か月後、2か月後にちゃんと試合で活躍できるようにということを考えてやっています。たとえば球速が速くなるだけでは打たれる。その球速を用いて、どうパフォーマンスを上げるか。自分の立ち位置や攻め方、どういう気持ちで試合に臨むのか、どうしたら結果が出るのか…そういったところまで踏み込んで、うまくいくように話をする」。

 微に入り細を穿ってヒアリングし、選手ひとりひとりに寄り添う。

 これまで、のべ2000人の選手のセッションをしてきた。その中からプロに指名される選手も増え、プロ入り後も引き続き見続けている選手もいる。そして今後、さらに輩出していきたいと意気込む。

 「もっとプロで活躍できるように、プロで長い時間を過ごせるようにやっていきたい」。

 選手の笑顔を見るために、これからも力を尽くす。

さまざまな器具たち(写真提供:酒井竜矢さん)
さまざまな器具たち(写真提供:酒井竜矢さん)

【DIMENSIONING・酒井竜矢】

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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