任天堂「減収減益」も好調という話 気になるニンテンドースイッチライトの今後
任天堂の2021年度第1四半期(4~6月)決算が発表されました。それを受けてのメディアの記事は「減収減益」にフォーカスしていますが、営業利益率は高いまま。むしろ気になるのは、携帯ゲーム機「ニンテンドースイッチライト」の売れ行きでしょうか。今回の決算を見ていきましょう。
◇高い営業利益率を維持
任天堂の売上高は前年同期比9.9%減の約3226億円で、営業利益は同17.3%減の約1197億円。売上高と営業利益のいずれも前年同期比を下回る減収減益でした。
株式会社である以上、売上高と営業利益のいずれも前年同期を上回る「増収増益」が理想です。しかし、前年度は新型コロナウイルスの「巣ごもり」効果が強く出た時期。増収増益を求めるのはさすがに厳しいといえます。
営業利益率ですが、前年度の40.4%から3.3ポイント減ながらも37.1%と相変わらずの高さです。「減収減益」なのに好調という、記者・ライター泣かせの業績です。その点、NHKは的確な見出しですね。
【参考】任天堂 4~6月決算 減収減益も最終利益は過去3番目に高い水準(NHK)
任天堂の決算短信や資料を素直に読むと、減収減益に加え、「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」の失速が分かりやすく書かれています。一方で「あつ森」の規格外の売り上げを除くと、ソフトの第1四半期ごとの数字は堅実に積みあがっており、任天堂もアピールしています。
しかし、四半期ごとの堅実な積み上げは、記事で説明しづらく、「減収減益」や「スイッチ好調の反動」「需要減退」の方が分かりやすいのです。任天堂も今期の通期予想は減収減益(売上高予想1兆6000億円、営業利益予想5000億円)。そうなると、一般メディアからすると「ここからの上積みは薄い。今後は落ちる可能性が高いし……」と、マイナス強調の記事になるわけです。
◇専用携帯ゲーム機の将来は…
むしろ業績よりも気になるのは、安価な「ニンテンドースイッチライト」の出荷数が落ち着いていることです。そして価格の高い「ニンテンドースイッチ」の方が売れ行きが好調を持続しています。通常版のスイッチとスイッチライト四半期の出荷数比率ですが、以前は2対1でしたが、最近では3対1になるなど差が開いています。
通常版のスイッチの累計出荷数が7320万台で、スイッチライトは1584万台ですから、後者にも一定の需要はあります。しかし一部のソフトに対応してないとはいえ、価格が安くコストパフォーマンスは良いにもかかわらず、スイッチライトの売れ行きが「下り坂」なのが気になります。
スマートフォンで大量のゲームが遊べる時代(しかも基本無料で)、携帯ゲーム機の需要が以前より弱いのは確かでしょうが……。任天堂の掲げる戦略「ゲーム人口の拡大」を考えると、スイッチライトは、しっかり売れてほしいところ。何よりスイッチライトの衰退は、「専用携帯ゲーム機」の“終幕”に直結します。
ただし逆にいえば、高いはずの通常版のスイッチが継続的に売れてるわけです。10月に投入予定ながら一部から「本体性能の強化がない」などと厳しい意見のある「ニンテンドースイッチライト(有機ELモデル)」も、予想以上に需要があるのかもしれません。
【参考】新型Switchの割れる評価 不自然な性能「据え置き」を考察 任天堂が隠す超強力“カード”
◇増える現預金をどうする
最後に、任天堂が発表した自己株式の取得と消却についてです。既存株主への利益還元という狙い以外はつかみきれませんし、任天堂の説明もストンと落ちるものはありません。任天堂の財務基盤は強固ですし、買収対策でもなさそう。むしろ、急速に増加する現預金を持て余しているように思えます。他企業からすると、ぜいたくで何ともうらやましい話ですが……。
確かに何に使うかは悩ましいところです。先々のゲーム業界のイメージアップを考えて、環境保護や社会貢献を強化するのも手かもしれません。サステナビリティの強化は、将来的に優秀で多様な人材を確保するという意味では大きく、時代の流れとして無視できない面があります。
もちろん、人によっては意見は様々です。「余計なことはせず、面白いゲームを1本でも作って」と言う声もありそうではありますが……。
ゲーム事業自体の強化、研究の充実は当たり前として、ゲームのイメージをアップさせるための戦略も重要でしょう。USJの新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」などの展開のように、ゲーム事業を側面から強化するというのは、投資家とゲームファンの双方を納得させる戦略ですね。ゲームで得た利益をどう使うかは、相当重要だと思うのです。