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ドリフの特番で思わぬ議論、コント内容を説明する「テロップ」やタレントの「ワイプ」は必要かどうか

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

9月16日に放送されたバラエティ特番『今夜復活!8時だョ!全員集合 不適切だけど笑っちゃう!ドリフ伝説コントBEST20!』の演出をめぐり、思わぬ議論が巻き起こっている。

同番組では、1969年より16年間にわたって放送された音楽&コントグループ、ザ・ドリフターズのバラエティ番組『8時だョ!全員集合』(TBS系)の名作コントを、「BEST20」の形式で紹介。さらに後番組『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』(TBS系)のコントも織り交ぜられた。

その特番のタイトル通り、現在ではコンプライアンス的に実現不可能なコントも多数登場。パトカーを模した車を舞台上で走らせるだけでなくセットにも突っ込ませるなど、過激なネタも紹介され、視聴者に笑いと驚きを与えた。

そんなドリフの“事件性”の高いネタやハプニングの数々を、筆者はなんの違和感も持たずに楽しんだ。ところが鑑賞後、SNSへ投稿された感想や、放送後のネット記事を読んで虚を突かれた。その放送内容が、かなりの顰蹙(ひんしゅく)を買っていたのだ。

『全員集合』で巻き起こった2つの批判、今風のテロップやワイプは不要?

今回の特番『全員集合』の批判内容は主に以下の2つ。

(1)コント内容を解説・説明するテロップがたびたび挿みこまれるところ。

(2)コントをVTRで鑑賞しているタレントの顔がワイプで映し出されたり、カットインしたりし、「邪魔」という意見が出ていること。さらにタレントたちのコメントもコントに被るなどがあり、それに対しても同様の批判が出ている。

つまり今回の特番の“否定派”は、「余計な演出・情報を加えず、コントに関してはそのまま流すべき」と感じていたようなのだ。

志村けんのスゴ技「スイカ早食い」では、注意テロップがデカデカと

たしかに、テロップ解説や、ワイプで映し出されるタレントの表情などを“過度な情報”として、余計に感じる視聴者の気持ちは理解できる。

第9位にランクインしたチャレンジ系のコント「早口言葉」では、当時の出演者たちが「ママのマカロニ マママカロニ パパのパパイヤ パパパパイヤ」などを早口で言い切れるかに挑んだが、特番ではその早口言葉をきっちりとテロップで明示。もちろん当時の放送ではそういったテロップはなかった。またドリフのメンバーである志村けんのスゴ技「スイカ早食い」(第3位)では、猛スピードでスイカを食べる場面に「※よい子のみんなはマネしないでね」との注意テロップがデカデカと出た。ほかにも状況説明的なテロップが各場面で表れた。

ドリフのことが好きな視聴者、バラエティ番組やお笑いをより深く見たい視聴者は、「純粋な目線でドリフの名作コントを楽しみたかった」と思うはず。その点で(1)、(2)の意見や反応は当然と言えば、当然かもしれない。くわえて批判の意見のなかには、そういった分かりやすい演出で若い世代をひきつけようとすること自体、チープなやり方だと捉えるものもあった。

テロップ解説やワイプがない場合、どういう利点がありそうか。一番は、視聴者がより感覚的にドリフのコントを受け止めることができるところである。

近年のテレビ番組はとにかく親切すぎる。もっと言えば、余計なお世話に感じることもある。「鑑賞者を感動させたい」「ここが笑えるポイントだ」という誘導がきついことがある。そういった演出や情報を抑え気味にすることで、視聴者は自分なりに番組内容を解釈したり、いろんな背景を想像したりできるかもしれない。今回の特番では「不適切」というタイトルがつけられていたが、コントによっては「不適切だけど面白い」というテロップが出されるなどしていた。さすがにそれは作り手の意図や誘導が加わりすぎだと思えた。

録音や映像の技術も異なるため、テロップやワイプで伝わりやすくする方が良い

ただ番組鑑賞中、あくまで筆者はテロップやワイプはほとんど気にならず、それらの演出はほんの些細なことに感じられ、違和感を抱くこともまったくなかった。だからこそSNSの感想やニュース記事にあげられていた批判にびっくりしたのだ。

違和感を持たなかった理由の一つは、TikTok、YouTubeなどの動画を毎日膨大に鑑賞していることによる“慣れ”なのかもしれない。

いまさら言うことでもないが、テレビ番組、TikTok、YouTubeは映像に話し言葉や情報のテロップをつけるのが当たり前。それによって、たとえば電車移動中、音を出さなくてもテロップと絵面だけで内容がある程度つかめたりする。お笑いの賞レースでは話は別だが、こういった日常的なバラエティ番組においては、そういった今風の映像演出は便利なことの方が多い。

ワイプが常に表示され、タレントの表情やコメントが挿し込まれるのも、TikTok、YouTubeの定番企画であるリアクション動画(お笑い芸人のネタなどを見る投稿者を撮影して、その反応を視聴者に楽しんでもらう動画企画)のようであり、もはや慣れ親しんだもの。今回の特番でも、「ドリフのコント」だけではなく、「ドリフのコントを鑑賞して笑っているタレントを見て笑う」という現代的な楽しみ方があった。日常的にそういった動画を“摂取”しているからこそ、スッと受け止めることができた。

あくまで推察だが、今回のテロップやワイプを「邪魔」「不要」と感じて批判の声をあげている視聴者は、現在主流となっているTikTokやYouTubeの動画の企画や演出に慣れ親しんでいない層なのではないだろうか。

昔の味わいをそのまま楽しむことについて、否定はできない。ただ、何十年も前のものを「不朽」「いつの時代でも通用する」と良いように解釈しすぎるのは、やや乱暴すぎると感じる。いくら内容が良くても、録音の技術や環境、映像の質なども大きく異なるので、できるだけ伝わりやすく見せるべきではないか。

なにより素晴らしいコントを多数生み出したドリフを懐古的にせず、一度も観たことがないという新しい世代に興味を持ってもらうためには、今風のテロップやワイプの演出は不可欠。特にTVerなどの配信サービスで番組を鑑賞する機会が増え、なんならそれが視聴のf軸になりつつある昨今、「昔のものをそのまま流す」という方が違和感を覚える。それこそテレビ番組として“時代遅れ”なのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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