2014年ツール・ド・フランス第4・5ステージ サディスティックな愉しみ
「雨のパリ~ルーベを、ずっと夢見てきた」
第5ステージ勝者ラルス・ボームのセリフだ。多くの自転車愛好者が、同じ気持だったに違いない。だってパリ~ルーベの伝説といえば、雨と泥。落車、メカトラ、カオス!
私もかれこれ10回ほどルーベ競技場に通ってきたけれど、その全てが砂埃レースだった。2002年以来、4月の雨雲はルーベから遠ざかっている。だから毎年4月上旬には「雨が降りますように」なんて祈る。周りからは「サディスティック!選手たちが苦しむのを見てそんなに楽しいの!?」と嫌味を言われるけれど……。たしかに個人的には、選手たちが大自然の脅威に立ち向かい、苦しみ、そして喘ぐ姿は、ひどく美しいと思うのだ。
もちろんボームは、泥まみれになれることに、うっとりしているわけではない。先の言葉を意訳すると、「雨の石畳は落車やメカトラ、分断が発生しやすい。シクロクロス元世界王者の俺にとって、悪路になればなるほど、有利だ」となる。
不利を被るのはもっぱら体の軽いヒルクライマーたち。フランスの若き総合上位候補、ロマン・バルデは、「まるで割れやすい卵の上を走っているみたい」におっかなびっくりの1日を過ごした。「グランツールの総合争いをする選手たちのことを『オールラウンダー』と呼ぶし、自分もそうだと信じていたんだけど……」と、自分の無能さに愕然としたようだ。
あのベルナール・イノーも、石畳が大嫌いだった。常々パリ~ルーベのことを「Cochonnerie」、つまり「粗悪ながらくたレース」と罵り、嫌ってきた。
1980年のツールでは、石畳の犠牲になったこともある。その前の2大会で総合優勝をおさめていた「ブレロー(アナグマ)」は、第6ステージ、石畳の振動で痛めていた膝の傷を悪化させた。7日後の夜に、総合首位のまま、レースを静かに立ち去った。それにしても、パヴェの通算距離は……実に50km以上もあったという!
ただしツール5回制覇のフランス人は、チーム監督やメディアから、「大チャンピオンであるならば、キャリアに1度は、パリ~ルーベを制しなければならない」と繰りかえし批判された。だから生来の負けず嫌いは、本気で勝ちに行くことにした。1981年のことだ。そして、3度の落車を乗り越えて、見事に優勝を収めた!当然パヴェの通算距離は、やっぱり50km以上あった。
2014年ツールは「たった」の13kmでしかなかった。クリス・フルームは、石畳を1kmも走らずに、戦いの場から消えていってしまった。