パーム油が8年半ぶりの高値圏、値上がりし易い食用油価格
パーム油が急騰している。マレーシアのMPOCパーム油先物相場は5月の1トン=1,939リンギットをボトムに足元では3,200リンギット台まで急伸し、2012年5月以来となる8年半ぶりの高値を更新している。パーム油は、食用油やバイオディーゼルとして利用されており、このまま高騰相場が続くとコーン油や菜種油などの競合品も値上がりし易く、家計にも影響を及ぼし始める可能性がある。
パーム油相場高騰の背景にあるのは、堅調な需要環境に対して十分な供給量を確保できず、在庫のタイト感が強くなっていることだ。マレーシア・パーム油ボード(MPOB)が11月10日に発表した10月末在庫は157万3,450トンとなっているが、これは前年同期の僅か66.9%の水準に留まっている。4月時点では204万4,498トンの在庫が確保されていたが、6~7月に続いて10月も大規模な在庫の取り崩しが報告されている。10月末の在庫水準としては、2007年以来となる13年ぶりの低水準である。
需要に関しては、中国やインドを中心に堅調である。世界銀行(World Bank)は中国について、トランプ米政権下の米中対立激化の中で、飼料としての大豆ミールはトウモロコシ、食用としての大豆油はパーム油で代替する戦略を採用していることを報告しているが、需要環境が大きく変わっている。原油安の影響でバイオディーゼルとしては価格の面で厳しい環境に追い込まれているが、新型コロナウイルスのパンデミックの影響を早期に消化したことで、インドや中東の需要環境も底固さを見せている。マレーシア産の10月輸出高は前年同月比2.0%増の167万3,998トンとなっている。これは10月としては2015年以来の高水準である。
一方、異常気象・ラニーニャ現象の影響で生産環境は悪化している。10月のマレーシア産の生産高は前年同月比4.0%減の172万4,420トンに留まっている。これは10月としては2016年以来となる4年ぶりの低水準である。新型コロナウイルスのパンデミックによる労働力不足、流通網の混乱も報告されており、需要と供給とのバランスが歪んでいる。
11月前半の輸出統計では、出荷が落ち込み始めており、在庫が更に大きく取り崩されるリスクは限定されるとの見方が強い。例えばAmspec社によると、11月1~10日のマレーシア産パーム油輸出は10月の同じ時期と比べて17.1%減少している。インドの季節要因(Diwali祭)に基づく買い付けが一服し、11月はその反動から輸入を抑制する可能性が高まっている。また欧州などのパンデミック対策で行動規制が強化される中、バイオディーゼル用需要も落ち込み易い。このため、11月には更に急騰地合が続くリスクが低下している。
しかし、大豆油など植物油相場の高騰傾向が続く一方、ラニーニャ現象とパンデミックによる供給不安は維持されることになり、在庫タイト感の解消・緩和は難しい状態が続き易い。生産は10月に続いて11月も低迷状態が続くことがほぼ確実視されている。需要が予想以上の底固さを示す、天候不順が更に深刻化するといった形で在庫の取り崩しが更に進むと、もう一段階の値上がりが進むリスクも抱えた状態が続くことになる。