【スーパー耐久】国内初のFCY(フルコースイエロー)制度導入でより見応えのある耐久レースに!?
今年10年ぶりとなる「24時間耐久レース」を復活させる自動車レース「スーパー耐久シリーズ」(以下、S耐)が3月31日(土)4月1日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で開幕する。今年も全6戦のシリーズが組まれるが、6月1日(金)〜3日(日)には富士スピードウェイ(静岡県)で「富士 SUPER TEC 24時間レース」が開催されることになっており、今まで以上に注目を集めそうだ。
全8クラス混走の耐久レース
「S耐」の大きな特徴はレーシングカーのタイプや排気量によってクラス分けが行われていることだ。富士スピードウェイやツインリンクもてぎ(栃木県)、そして鈴鹿サーキットなどの長距離コースでは8つものクラスに分けられた50台以上のスポーツカーやコンパクトカーが同時に走行する迫力の耐久レースを楽しむことができる。
【スーパー耐久のクラス分け】
ST-X / FIA GT3車両
アウディR8 LMS、メルセデスAMG GT3、ポルシェ911 GT3、日産GT-R GT3、レクサスRC F GT3、ホンダNSX GT3など
ST-Z / FIA GT4車両
ポルシェ ケイマンGT4 など
ST-TCR / TCRレース車両
フォルクスワーゲン ゴルフGTI TCR、アウディRS3 TCR、ホンダシビックTCRなど
ST-1 / 排気量3501cc以上
ポルシェ911 カップカーなど
ST-2 / 排気量2001cc〜3500ccのFF、4WD
スバルWRX STI、三菱ランサーエボリューションX、マツダ・アクセラSKY-Dなど
ST-3 / 排気量2001cc〜3500ccのFR
日産フェアレディZ、トヨタマークX、レクサスIS350、レクサスRC350など
ST-4 / 排気量1501cc〜2000cc
トヨタ86、スバルBRZ、マツダ・ロードスター、ホンダ・インテグラなど
ST-5 / 排気量1500cc以下
マツダ・ロードスター、マツダ・デミオSKY-D、ホンダ・フィットなど
以上の8つのクラス分けが行われているが、1周の距離が短いコースでは50台を超える参加車が一斉に走ることが難しいため、2つのレースに分けて行われる。2018年は全クラス合わせると57台がエントリーを申し出ており、今年もかなり盛況だ。特に市販車ベースの世界共通規定のレーシングカーで争う「ST-X」「ST-Z」「ST-TCR」は今後も台数の増加が期待できるクラスで、今季はFIA GT4規定の「ST-Z」にも年間エントリーがあった。
クラスが多くてバラエティに富んでいる反面、観る方としては状況を把握するのが中々大変なレースだが、お目当てのマシンをいくつか絞り、特定のクラスを決めて観戦すると、より楽しめるのではないだろうか。
国内で初めてFCYを導入する
今年の「S耐」の注目どころは国内初となる「FCY」=フルコースイエローの導入だ。「FCY」は世界選手権自動車レースの「WEC」で既に導入されているもので、「F1」ではバーチャルセーフティカーと呼ばれるルールに近いものだ。
コース上で事故等が発生し、ドライバーの救出またはマシンの撤去が必要となった場合に出される「コース全域を中立化する」ルールのことで、導入が決定するとコース無線のカウントダウンで一定速度まで減速をしなくてはならない。クラス違いのマシンであっても追い越しは禁止。安全が確認され「FCY」が解除されるまで規定された速度以下で走行しなくてはならない。「セーフティカー」との違いとしてはレース再開までにかかる時間が短縮される、レース中に生まれた差が著しく縮まる可能性が低いなどのメリットがある。
「セーフティカー」の場合、全体の首位を走るマシンの前にセーフティカーが介入して追い越し禁止の隊列を先導する。そのため、それより前に居た車両は隊列の後方に回される。レースの首位を走る可能性が高いST-Xクラスは2位のチームが差を詰めてくることになるが、他のクラスにとっては運悪く1位と2位の間にセーフティカーが入る場合もあり、どれだけ頑張っても逆転は不可能な決定的な差が付くことが過去にも「S耐」では多々発生している。こればかりは運次第な部分だったが、「FCY」の導入はレースがまだ半分にも達していない状態で勝負ありとなる事態を防げる可能性が高い。
また、「セーフティカー」と違い「FCY」導入時はピットロードの入口、出口が常に開放される。「セーフティカー」の場合は一時的にピットロード出口が閉鎖されるためにピットインのタイミングによっては大きくタイムロスする可能性もあったが、全車がスロー走行中の「FCY」では即座にピットインを判断し、予定より早めに(=アンダーカット)最小限のタイムロスで送り出す奇襲作戦的な戦略も可能となる。レースをする側も作戦を立てやすく、運に左右されないレースを戦えるようになる。また、見ている方も分かりやすいシステムだ。
ただ、「FCY」は国内で初めてのトライとなる。「セーフティカー」を導入するルールも残っており、コース上に破片が無数に散らばって走行自体が危険な場合は「FCY」の後に「セーフティカー」が導入される可能性もある。また、開幕戦・鈴鹿では導入されないが事故処理などを行なっている区間は速度を50kmに制限する「ZONE50」という規定も誕生する。これはWECのル・マン24時間レースで用いられる「スローゾーン」に近い概念だ。
こういったルールの変更は安全面での理由が最大の理由ではあるが、チームに対してより闘える状況を提供するものでもある。逆に言えば、チームやドライバーによりレベルアップすることを求める変更でもある。開幕戦から「FCY」が導入される可能性は高く、見ている方も楽しいドラマに繋がっていくことを期待しよう。
タイヤはピレリのワンメイクに
FCYはルール変更の大きな要素だが、今季は昨年までの横浜ゴムによるタイヤ供給から「ピレリ」のワンメイクタイヤとなることがチームにとっての最大の変更点だ。これまで長年、横浜ゴムのタイヤで積み上げてきたデータが一旦リセットされるわけで、開幕戦・鈴鹿ではどのチームもデータを充分に持っていない。
ドライバーにとってもそれは同じで、早く「ピレリ」の特性をマスターしなくてはいけない。限られた練習走行の時間を3人から4人のドライバーがシェアして特性を掴み取っていかなくてはならないし、ドライバー同士でフィーリングやセッティングの方向性に相違も出てくるだろう。練習中にクラッシュやトラブルでストップしてしまえば、何もデータがない中、ぶっつけ本番でレースに出なくてはならなくなる可能性もある。初年度となる今季は予想が非常に難しく、これまで「S耐」をリードしてきたチームばかりが主導権を握るとも限らない。
「ピレリ」の特性を把握している国内チームは少ない。実際に昨年6月に鈴鹿で開催された「ブランパンGTアジア」シリーズでは「ピレリ」のワンメイクタイヤが使用されているが、これに2017年のS耐チャンピオンに輝いた「ARNフェラーリ」などが出場。しかし、地の利があるはずの鈴鹿でアジアのレーシングチーム相手に表彰台に立つことが叶わなかった。それくらい違うメーカーのタイヤに履き替えてレースをすることは難しい作業となるのだ。ましてや耐久レースとなると「ピレリ」の特性をいち早く掴んだチームと迷いに入ったチームで大きな差が生まれる可能性もある。今季は各チームの総合力がより問われるシーズンになるだろう。
開幕戦・鈴鹿は5時間耐久
今季の「S耐」は久しぶりに鈴鹿サーキットから開幕する。鈴鹿が開幕戦となるのは実に10年ぶりで、昨年の4時間耐久レースから1時間伸びて5時間耐久レースとして開催されることになった。
鈴鹿の「S耐」は激しいバトルとドラマチックな展開になることが多い。その理由としては鈴鹿がドライバーズサーキットと形容されるとおり、プロドライバーとノンプロのドライバーの差が出やすいことにある。タイヤが変わろうとも、マシンの経験が少なかろうとも乗りこなし、ライバルとの差を詰めていく「助っ人」の役割を担うのがプロドライバーで、その走りの違いが如実に分かるのもS耐のレースだ。これはプロばかりの「SUPER GT」や「スーパーフォーミュラ」にはない「S耐」を現地で見て楽しむ理由の一つだろう。やはりプロは凄い。
しかしながら、「ST-X」「ST-Z」「ST-TCR」では認定されたプロは「プラチナドライバー」という枠組みが与えられ、レース中にドライブする時間が制限される。開幕戦の鈴鹿で言えば、プラチナドライバーがドライブできる時間はレース時間の40%=5時間中の2時間だ(2人の場合でも合計2時間)。ということは、プラチナ以外のドライバーがレースの半分以上の3時間を頑張らなくてはいけない。必然的に勝負を分けるのはプラチナ以外のドライバーの速さということになる。
チームオーナーを兼任することも多い35歳以上のドライバーは「ジェントルマンドライバー」と規定され、彼らはレース中に必ずドライブしなくてはならず、なおかつ一人あたりレースの20%以上の時間(鈴鹿で言えば60分以上)を走行しなくてはならないのだ。これ即ち、自分は名前を連ねるだけで若手とプロに走らせるということはできない。ジェントルマンドライバーは少なくとも1スティントは走らなくてはならないため、当然、この枠のドライバーのスキルアップが求められてくることになるわけだ。
プラチナドライバー、ジェントルマンドライバーに該当しないドライバーは「エキスパートドライバー」という枠組みになり、この選手たちにドライブ時間の制限はない。つまり、プラチナ、ジェントルマンで制約される時間以外を存分に走ることが可能で、エキスパートに該当するドライバーの起用は作戦をフレキシブルにすることができる。そのメリットを最大限に活かすには、35歳未満のまだプラチナに認定されていない「実績はまだ輝かしくはないけど腕は既にプロ」という実力ある若手ドライバーの起用が重要になる。そういう意味では、今後「SUPER GT」や海外の耐久レースへのステップアップを考えている若手にとっては光る走りを見せる絶好の機会と言える。富士24時間では特に需要が高まるだろう。上位クラス限定の規定だが、実は近年の「S耐」はうまく考えられているレースになっているのだ。
こういう要素からも今季は盛り上がる要素が色々ある「スーパー耐久」。10年ぶりの24時間レースも含めて、今年は「スーパー耐久」のレースそのものの面白さに目を向けてみてはどうだろう。
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