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黒船ドゥカティも参戦!JSB1000はトップライダー大量エントリーでヤマハの牙城は崩れるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
SUZUKA 2&4レース(2023年) 【写真:MOBILITYLAND】

国内2輪レースの最高峰「MFJ全日本ロードレース選手権・JSB1000クラス」の2024年シーズンが3月9日(土)・10日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で開幕する。今年はF1日本グランプリが4月開催に移動したことにより、伝統のイベント「SUZUKA 2&4レース」が3月開催に。JSB1000は例年より約1ヶ月早い開幕を迎えることになった。

2018年以来ヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」が6連覇してきたJSB1000だが、今年はヤマハの独走にいよいよストップがかかりそうな雲行きだ。なぜなら国内を代表するトップライダーたちが数多くJSB1000に戻ってきたからだ。大激戦区となりそうな国内最高峰クラスの見どころをご紹介していこう。

YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行(写真:DRAFTING)
YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行(写真:DRAFTING)

注目はやっぱりドゥカティの参戦

今年のJSB1000で最も注目したいのはイタリアのバイクメーカー、ドゥカティの本格参戦だ。鈴鹿8耐ウイナーの加賀山就臣が率いる「Team KAGAYAMA」が昨年のスーパーバイク世界選手権を圧勝したファクトリー(ワークス)マシン「ドゥカティ・パニガーレV4R・ファクトリー」を輸入。国内メーカーが覇権を争う全日本JSB1000に殴り込みをかけてきたのだ。

ドゥカティ・パニガーレV4R (写真:DRAFTING)
ドゥカティ・パニガーレV4R (写真:DRAFTING)

加賀山が言うように、その様はまさに「黒船襲来」。バイクショップなど小規模プライベーターによるドゥカティ車の参戦はこれまでもあったが、優勝を狙う体制を敷き、しかも門外不出のファクトリーマシンでの参戦となると国内レース界では初めてのこと。海外メーカーのマシンが一度も優勝したことがないJSB1000において歴史の転換点が見られるかもしれない。

ライダーとして起用されたのは昨年2勝をマークしランキング3位になった水野涼。ホンダのマシンでずっとレースをやってきた水野にとってもドゥカティは初挑戦だ。水野は2021年、22年とイギリスの英国スーパーバイク選手権(BSB)に参戦し、海外レースの経験も積んできた。昨年は「Astemo Honda Dream SI Racing」から参戦するも急遽の参戦決定であったため序盤は苦戦。しかし、Tカー(予備車)なしという優遇されているわけではない体制ながら、最終戦で2連勝してホンダ勢最上位の結果を残した。

活躍に期待がかかる水野涼(写真:DRAFTING)
活躍に期待がかかる水野涼(写真:DRAFTING)

ピレリのワンメイクタイヤで速さを見せたドゥカティ・パニガーレV4Rだが、日本ではどうだろうか。「Ducati Team KAGAYAMA」はブリヂストンタイヤを選択。タイヤメーカーの競争が存在する鈴鹿8耐やJSB1000に向けて開発されたハイグリップなタイヤを履いて、どこまでポテンシャルが引き出されるかは未知数。しかし、最初の事前テストではシェイクダウンしたての状態ながら総合4番手のタイムをマーク。その高いポテンシャルの片鱗を早くも見せつけている。ドゥカティからやってきたエンジニアと水野のパフォーマンスが歴史を変えることができるか注目だ。

要注目のダンロップチーム、長島哲太

ドゥカティと並んでもう一つの新体制はダンロップ(住友ゴム)が率いるチーム「DUNLOP Racing Team with YAHAGI」の参戦だ。ライダーはホンダワークスで鈴鹿8耐を2連覇した長島哲太。Moto2世界選手権でも優勝経験があり、海外レースの経験が豊富なライダーだ。

DUNLOP Racing Team with YAHAGIの新型ホンダCBR1000RR-R(写真:DRAFTING)
DUNLOP Racing Team with YAHAGIの新型ホンダCBR1000RR-R(写真:DRAFTING)

ダンロップがJSB1000で最後にチャンピオンに輝いたのは2009年のこと(YSPレーシングチーム/ヤマハ/中須賀克行)。それ以降はブリヂストンユーザーがチャンピオンを取り続けてきたわけだ。昨年もダンロップタイヤを履くチームは参戦していたものの、アジア選手権ASB1000などで使用するストッククラス向けタイヤの先行開発チームや市販タイヤを使用するチームがほとんどで、JSB1000で優勝を狙えるスペックのタイヤを履くチームの参戦は2019年以来となる。

長島が乗る新型ホンダCBR1000RR-Rは事前テストから好調。2分7秒台を2日目(2/27)にマークし、今週のレースウィーク初日(3/7)は2分6秒台に入り総合2番手。新体制のデビューレースからいきなり活躍できるポテンシャルを示している。以前からダンロップには一発の速さに定評があり、低い路面温度になりそうな予選ではいきなりポールポジションを争うことになるかもしれない。

ずっとブリヂストンユーザーばかりが上位を占めていたJSB1000に新しい変化をもたらすのが長島+ダンロップの組み合わせと言えるだろう。

チャンピオン復帰、スポット参戦も群雄割拠

新体制チームがいきなりの速さを示しつつも、ヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」のアドバンテージは変わらないだろう。やはり唯一のワークス体制であるがゆえにマシンの熟成度だけでなく、抜け目のない体制はJSB1000の中で随一だ。中須賀克行の衰えぬ速さに加えて、昨年は岡本裕生が大きく成長。ついに中須賀の連勝を止めるに至った。ヤマハのチーム内バトルは今年も続くに違いない。

とはいえ、路面温度が極端に低い3月の開幕戦はきっと波乱含みだ。そんな中、虎視眈々とヤマハの2人に入り込んでいけるチャンスをトップライダーたちは狙っている。

ホンダに移籍した野左根航汰(写真:DRAFTING)
ホンダに移籍した野左根航汰(写真:DRAFTING)

今季は2017年のJSB1000チャンピオン高橋巧が「日本郵便 Honda Dream TP」から5年ぶりに参戦。さらに2020年のJSB1000チャンピオン野左根航汰が自身初のホンダチームとなる「Astemo Honda Dream SI Racing」に電撃移籍して参戦。さらに開幕戦だけのスポット参戦ながら「TOHO Racing」から渡辺一樹がこちらもホンダ初乗りで出場。「SDG Honda Racing」からは昨年ランキング4位の名越哲平も継続参戦することになり、先述の長島哲太を筆頭にホンダ勢は選手層が一気に厚くなった。スポット参戦組では「Honda Suzuka Racing Team」で古巣復帰となる亀井雄大の存在も見逃せない。

少数派となるスズキ勢は昨年7年ぶりにポールポジションを取るなど活躍した津田拓也が「オートレース宇部 Racing Team」から継続参戦。MotoGPで培った経験値を活かし、マシンを進化させられるかに期待がかかる。年間参戦するのは津田拓也だけとなったスズキだが、FIM世界耐久選手権が主戦場の「Yoshimura SERT MOTUL」が渥美心を起用して開幕戦・鈴鹿にスポット参戦することも注目。渥美は今まさに乗れているライダーの一人で、テストから好タイムを連発し、チームはかなり良いムードだ。

渥美心が乗るYoshimura SERT MOTULのスズキGSX-R1000R(写真:DRAFTING)
渥美心が乗るYoshimura SERT MOTULのスズキGSX-R1000R(写真:DRAFTING)

昨シーズンを席巻したヤマハ2台はきっと強いだろうが、予想以上の大混戦になることは確実。これだけの強力なライダーが揃ったJSB1000を見るのは久しぶりだ。季節が移り変わり、勢力図がガラっと一変する可能性も秘めている今季のJSB1000。開幕戦を制し、まずスタートダッシュに成功するのはどのライダーだろうか。

開幕戦は3月9日(土)が予選、3月10日(日)に決勝レースが1レースのみ開催される。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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