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ハロプロからソロで再始動の小片リサ。23歳でレトロなカバーアルバムがハマる理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

ハロー!プロジェクトのつばきファクトリーのサブリーダーだった小片リサが、ソロアーティストとして初のカバーアルバム『bon voyage!』をリリースする。寺尾聡の『ルビーの指環』や大橋純子の『たそがれマイ・ラブ』など、23歳の本人が生まれる前の昭和の曲がほとんどだが、癒し系のボーカルと見事にハマり、聴き心地の良い1枚になった。自身にもレトロ趣味があるという。

グループでの競争心から歌が鍛えられました

――つばきファクトリー時代から定評があったリサさんの歌唱力がカバーアルバムで発揮されましたが、歌のスキルはどう磨いてきたんですか?

小片 私はよく「真面目そう」と言われますけど、実際はそんなこともなくて(笑)。歌のレッスンには小学生の頃から通わせてもらいながら、「これを練習してきて」と言われても、家に帰るとダラダラして「やりたくな~い」となることが多かったんです。次のレッスンの前日に「やらなきゃ!」と焦って、言われたことをこなすだけ。歌い方を考えることもなく、ただ好きで歌う感じで過ごしてきました。

――ずっとそうだったわけではないですよね?

小片 グループではちゃんと歌えないと良いパートをもらえないこともあって、歌を届けるために練習しないといけないと徐々に気づきました。レッスンを大事にするようになって、周りの影響も大きかったです。一緒に歌うメンバーの声を聴くと、「負けないようにしなきゃ」と競争心が生まれますし、無意識に「こう歌ったほうがいいんだ」と勉強にもなって。そこで鍛えられて、自分が変われたと思います。

――特別な練習方法があったわけではなくて?

小片 これというものはありませんけど、よく言われるのは、ライブ中もすごく水を飲みます(笑)。レコーディングでも、前は1時間で500mlのペットボトルがあれば大丈夫だったのが、最近は飲む量がどんどん増えて、2~3本は全然空けます(笑)。ただノドが渇くから飲むだけで、効果があるのかわかりませんけど、気持ち的におまじないのような感じですね。

活動再開する前は普通の生活をしてました

――何かのタイミングで歌に開眼したような経験はありませんか?

小片 やっぱりグループにいたときですね。ちょっと良いパートをもらえたら、もっと増やしたいと思いますし、メジャーデビューシングルの『初恋サンライズ』で大事な台詞のパートをもらえたのも自信に繋がりました。そこはポイントだったかもしれません。

――家でもよく練習しているんですか?

小片 最近は毎週末に(ハロー!プロジェクト卒業生による)M-lineのライブがあるので、振り付けを覚えないといけなくて、踊りながら歌ったりしています。お風呂でも口ずさんでますね。

――ソロ活動を始める前の8ヵ月の休止期間中も、家で歌ったりカラオケに行ったりはしていました?

小片 その頃はあまり歌ってなかったかもしれません。コロナもあったので、ずっと家にいて、よくわからないんですけど家事をやり始めたり(笑)。本当に普通の生活をしていて、歌う気分ではなかったと思います。でも、活動を再開することになって、何曲かレコーディングすると決まってからは、また頑張ろうと思って、家でもたくさん歌うようになりました。

1人でやるために体力もつけないといけなくて

――他にもソロ活動に向けて準備したことはありました?

小片 人に頼ることができなくなるので、気持ち的にしっかりしようと思っています。あとは、体力が本当に大事になりましたね。ステージで休憩できるタイミングはもうないので(笑)、1人で全部歌い上げられるように、ちゃんと体力はつけようと。

――そのために何かしているんですか?

小片 筋トレは少ししています。あまりに気合いを入れて、やりすぎてしまっても続かないので、腹筋とか自分にできる範囲で徐々に……という感じです。

――食べるものを変えたりは?

小片 それはあまりないです。でも、前から「レコーディングの日はごはんを食べない」というルールを自分の中で決めています。たとえレコーディングが夜遅い時間でも、朝起きてから夜まで何も食べません。

――お腹がすきすぎると、力が入らなかったりはしません?

小片 そうなっちゃいますけど、食べて歌うのは違う感じがするんです。自分のルーティンみたいなもので、「絶対に食べたらダメだ」と我慢しています。

とにかく何でもやってみたかったので

――『bon voyage!』はとても聴き心地の良いアルバムになりましたが、自分からカバーをやりたいと言ったわけではないですよね?

小片 発信はスタッフさんからでしたけど、カバーする楽曲を決めるときは、私も打ち合わせに参加させていただきました。ソロになって、とにかく何でもやってみたい気持ちが強かったので、カバーで「歌ってみる?」と聞かれたときは、すごく嬉しかったです。

――最初にYouTubeに『Far away』の歌唱動画を上げたのが、今年6月でした。

小片 4月か5月からスタッフさんと頻繁に話し合って、最初はYouTubeに上げるということで、アルバムになるとは思わずにレコーディングしていました。

――そうだったんですね。アルバムに収録されたのは、ほとんどがリサさんが生まれる前の曲になりました。

小片 そうなんです。世代的に知らない曲が多くて。毎回、何曲かリストを送っていただいた中から、自分で聴いてみて「これならうまく歌えるかな」と考えて、選んでいきました。

――『Far away』から刺さるものがあって?

小片 もともと(1979年発表の)水越けいこさんの楽曲で、その後、谷村新司さんや安倍なつみさんがカバーされたものは何度か聴いたことがありました。本当に素敵な歌詞で、私が伝えたいことも込められている感じだったので、活動再開して最初に公開するのにピッタリだと思いました。

ファンの方に言われて自分の声質に気づきました

――リサさんがもともと聴いていた音楽は、ハロー!プロジェクトの楽曲が多かったんですか?

小片 そうですね。自分が入る前からハロー!プロジェクトがすごく好きで、アイドルの曲ばかり聴いて育ってきました。正直、流行りのJ-POPとかは詳しくありません。最近はTikTokやYouTubeから人気が出る方が多いようですけど、私はCDを買い集める派だったので。

――ダウンロードが主流のリサさんの世代では珍しいですね。

小片 私はモノをしっかり持っているのがいいなと思うので。今でも好きなアーティストさんのCDが発売されたら、なるべく買うようにしています。

――今回カバーした楽曲は、リサさんの癒し系ではかなげな歌声に合わせて選ばれたようですが、自分の声の特性については自覚してました?

小片 グループにいた頃、ファンの方に「その声はこういう歌に合うよね」とよく言われて、気づきました。そこは極めていこうと思うようになって。今回はソロで初めてのアルバムで、名刺代わりというか、「私はこんな歌い方をします」というところは表現できたと思います。

――つばきファクトリーの5thシングルだった『ふわり、恋時計』も収録されました。このオリジナルを歌ったときから、自分に合う感じがしていたり?

小片 当時はそんなふうには思っていませんでした。グループだとレコーディングは「勝負!」みたいなところがあって。全部歌ってからパートが決まるので、頑張ろうという気持ちが強かったです。完成してライブで披露するようになってから、もしかしたら自分はこういう歌い方が得意なのかもと思うようになりました。

――当時からすごくハマっている感じがしました。

小片 今回、この『ふわり、恋時計』に関しては、自分から「歌いたいです」と言いました。思い入れは強いですね。

昭和の曲は落ち着いて聴けるのがいいなと

――カバーした11曲の中で、初めて聴いて心惹かれたのはどの辺ですか?

小片 『雨音はショパンの調べ』は特に好きです。オリジナルを聴くと、はかなさや切ない雰囲気がすごくありながら、メロディにはカッコ良さもあって。

――オリジナルは1983年のイタリアの歌手・ガゼボの世界的ヒットで、翌年に小林麻美さんがカバーしました。そちらの映像を観たりもしました?

小片 どの曲もカバーに当たっては、昔のテレビで歌ってらっしゃる映像とかいろいろ観て参考にしましたけど、小林さんの曲はMVがあったんですね。雰囲気がすごく良くて、そこをちゃんと声で表現できるように意識しました。

――アンニュイさも取り入れて?

小片 難しいなと感じましたけど、レコーディングでも歌っていると気持ち良さが大きくなりました

――今の時代にない感触が特に強かった楽曲もありますか?

小片 『たそがれマイ・ラブ』は“ザ・昭和”という感じがしました。今はアップテンポでスピード感のある曲が多いと思いますけど、こういう落ち着いて聴ける昭和の曲は素敵だなと思って。歌はもちろん、イントロも「こんな感じが昭和かな」というものがありました。

――リサさんの中の昭和って、どんなイメージなんですかね?

小片 私も詳しくはなくてイメージだけですけど、さっき言った「落ち着いて聴ける」というのは基本なのかなと。歌詞も今の歌は言葉が多くて詰まっているのが、昭和の曲は歌詞カードを見るとわりと文字数が少ないんです。なのに、ちゃんと気持ちを表現できているのが、すごいなと思います。

『ルビーの指環』は服からなり切って歌いました

――1976年に石川セリさんが歌った『SEXY』も独得ですよね。

小片 11曲の中でもジャンルが違って、歌うのに一番苦戦したかもしれません。しっとりして落ち着きがありながら、しっかり歌い上げないといけない感じ。何回か録らせていただきながら、雰囲気を掴んでいきました。

――大人モードで歌ったんですか?

小片 確かに自分の年齢より、ちょっと年上のイメージで歌った気がします。歌詞に<子供みたいに笑うあなたが>とあったりするのを見ると、そんなに自分と変わらないかもしれませんけど、微笑みながら歌う感じで、20代後半くらいの女性を想像しました。

――他にも、表現が難しかった曲はありました?

小片 男性の曲を『ルビーの指環』に『歌うたいのバラッド』と歌っていて。歌い方はもちろん、目線が女性と全然違うので、そこを考えるのは苦労しました。

――特に寺尾聡さんが1981年に大ヒットさせた『ルビーの指環』は、大人の男性という感じですよね。

小片 だいぶ大人をイメージしました。でも、イメージだけでは表現できないと思って、レコーディングの日にはカッコいい感じの服装で、なり切って行きました(笑)。

――どんな服装だったんですか?

小片 まだちょっと暖かい時期だったので、シンプルに真っ白なTシャツとパンツで、歌うときは取りましたけどキャップも被って(笑)。男性は大きいカバンを持たないようなので、荷物は全然持っていきませんでした。そうやって、形から入りました。

――その成果は出ました?

小片 時間は他の曲よりかかりました。パターンを三つ録ったんです。まずは寺尾聡さんの歌い方に寄せました。でも、原曲とはキーが違うので、あえて全然変えて女性らしく歌ったり、寺尾さんの雰囲気を残しつつ、中間を取ったり。私的には中間で歌うのが一番しっくりきました。

大正ロマンが大好きなんです

――1979年の松原みきさんのデビュー曲で、近年のシティポップ・ブームの代表曲でもある『真夜中のドア』には、<淋しさまぎらわして置いたレコードの針>という詞もあります。リサさんはレコードって見たことあります?

小片 あります。私はアンティークなものが好きなので。特に大正ロマンがすごく好きなんですけど、明治、大正、昭和初期の昔の雑貨を売っているお店が浅草にあって、よく行くんです。ダンスホールみたいな場所があったり、たぶん雰囲気を出すために蓄音機も置いてあって。それが実際に動いているのも見たので、「レコードって何?」とはなりませんでした。

――大正ロマンというと、『はいからさんが通る』みたいな世界ですか?

小片 そうです。大正ロマンのマンガは結構あるので読んだり、最近も京都の美術館で大正時代の絵を見てきました。大正時代の着物を買ったこともあります。タグに何年ごろのものか書いてあって、たぶん当時誰かが使っていて。自分で着付けができないから、飾ってあるだけになってますけど、すごくいいなと思います。

――そういう意味では、今回の『ふわり、恋時計』も和風なアレンジになって、よりハマったのでは?

小片 かなりアレンジが変わって、中国の二胡という楽器の印象が強いですけど、だいぶ和な感じがしますよね。すごく楽しみながらレコーディングができました。

Winkさんのカバーだけは振りが付きました

――ネットサイン会では森高千里さんの1990年のシングル『道』について、「いろいろ想像した」と話してました。

小片 この曲はサビで<春も夏も秋も冬も>とか、いろいろな場面を想像させてくれるフレーズがたくさん出てくるので。でも、あまり都会ではない感じがします。森高さんって、熊本のご出身ですよね? この曲に関しては、どちらかというと森高さんが歩いている感じを思い浮かべていました。

――Winkがカイリー・ミノーグをカバーして1988年にヒットした『愛が止まらない』で、モーニング娘。’21の譜久村聖さんとデュエットしたのはレアですね。

小片 私はもともと譜久村さんの歌声が好きで、「ぜひ一緒に」とお願いしました。譜久村さんもしっとりした歌い方が似合う方で、どうなるかドキドキしましたけど、完成した音源を聴いたら、いい感じで2人の声が合っていたと思います。

――M-lineのライブでも披露されました。

小片 この曲だけはWinkさんみたいに振りも付けていただきました。レコーディングとMV撮影はしたんですけど、まさかこんなに早いタイミングで、ライブで一緒に歌える機会があるとは思いませんでした。次いつできるかわかりませんけど、いっぱい歌っていきたいです。

アイドルの頃とは違うリズムの取り方をしていて

――リサさんはどの曲でも演じるように歌っている感じがします。

小片 もともと歌詞を読んで、「この人はこういうふうに思っているんだろうな」と解釈して、表現していくのが好きでした。それは今回のアルバムでも全曲で活きたと思います。

――一方で、ハロプロ時代のレコーディングと勝手が違うところもありました?

小片 全然違いました。1人だと、より時間が取れて。グループのときはあまり相談もできず、一発勝負みたいなことが多かったので、落ち着いて、いろいろな歌い方を試せたのは良かったです。

――歌い方も変わりましたか?

小片 アイドルの曲とは全然違うので。今までは片思いや恋愛の曲が多かったのが、もっと幅広くなって、表現はいろいろ考えました。あと、ハロー!プロジェクトではリズムを激しく取るイメージがありますけど、そこはあえて外して、ゆったり歌ったり。

――体にビート感が染みついてはいるんでしょうけど。

小片 そうですね。スローな曲は抑えられましたけど、『ふわり、恋時計』とか『道』とかわりと最近のアップテンポな曲は、今まで通りリズムを取って歌うと「ちょっと違う」と言われました。

――もちろん、リズムを取らないわけではなくて。

小片 ちゃんと取ることは取るんですけど、それをあえて出さない。リズムを取ってないような歌い方をするのは、すごく難しかったです。でも、ずっとリズムを取る練習をしてきたことは、直接使わなくても、どこかで活きていると思います。

1人の不安より楽しさが大きくなりました

――やってみたらソロのほうが合っている感じもしていませんか?

小片 どうなんですかね? 最初は1人でちゃんと歌っていけるか、不安が大きかったです。でも、最近は楽しさの割合のほうが大きくなりました。鈴木(愛理)さんにも「ソロデビューしたときは大変だけど、いい思い出に変わるから」と言っていただきました。

――次はオリジナル曲ですね。

小片 そうですね。今回は自分の得意なところをカバーでお見せして、オリジナルでも最初は落ち着いた曲を自分らしく歌えたらと思います。でも、1人でライブもできるようになりたいので、盛り上がれる曲も歌いたいですね。

――聴く音楽も変わってきていますか?

小片 今回カバーをすることになって、オリジナル曲を聴いているうちに、もっといろいろ聴きたいと思うようになりました。ずっとハロプロの曲ばかり聴いてきて、有名なアーティストの方でも代表曲くらいしか知らなかったのが、ちょっとマイナーでも良い歌があるなと、いろいろ発見しています。

――自分のアーティスト活動に反映されるかもしれませんね。

小片 自分で聴くのも落ち着いた曲が好きで、あまりジャンルを広げるより、好きなものを追求していくタイプだと思います。でも、それだけでは面白くないので。得意なところを磨きつつ、いろいろな歌い方や表現を勉強して頑張りたいなと思います。

アップフロントプロモーション提供
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Profile

小片リサ(おがた・りさ)

1998年11月5日生まれ、東京都出身。

2014年にハロプロ研修生に加入。2015年につばきファクトリーの結成メンバーに選ばれ、2017年にメジャーデビュー。2020年に活動終了。2021年6月よりソロ活動をスタート。1stカバーアルバム『bon voyage!~risa covers~』を12月15日に発売。

『bon voyage!~risa covers~』

12月15日発売

初回生産限定盤(CD+BD+フォトブック) 5500円(税込)
初回生産限定盤(CD+BD+フォトブック) 5500円(税込)

通常盤(CD) 2970円(税込)
通常盤(CD) 2970円(税込)

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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